アーティスト紹介

WSC #003 媚山 厚

Atsushi KOBIYAMA

[From My Dreamworld]

ガレージキット黎明期のイノベーターとも通ずる
「キャラクターに息吹を注ぎ込む」作風

 前回のワンフェス会場を練り歩いていたところ、非常におもしろい状況を醸し出しているアマチュアディーラーを見かけた。5分程度に一度、誰かしらがピタッと立ち止まる。そして、展示作品を無言で3分ほど凝視し続けた揚げ句、その過半数の人が「……コレください」と意を決して買っていく。「有名原型師の作品なら、どんなものでも迷わず即買い!」的ムードが完全にまどろみはじめた午後2時。こうした時間帯に極めて高いヒット率でコンスタントに作品が売れていくディーラーこそ、ワンフェスにおける“裏の主役”と言っていいのかもしれない。
 そしてもちろんその“裏の主役”が、ここに紹介する媚山 厚にほかならない(もっともそういった位置付けながら、会場内に200組ほど存在したはずの報道関係者からはほとんど撮影許可を申し込まれることがなかったという)。
 媚山の作風は、ある意味30代以上のロートル層にとっては「なつかしい」ものとして映るかもしれない。造形対象となるキャラクターに躍動感や実在感といったアレンジメントを加え、「造形の元絵となった原画への忠実さ」よりも「3D作品としての見映えや主張」を追及する行為は、昨今の「元絵に似ていれば似ているほどエラい」といった風潮と相反するものと言える。そしてそれは、'80年代初頭のガレージキット黎明期に見られた「元絵のとおり作るなら、わざわざ自分が作る必要などない」といった、イノベーターたちの想いとも相通ずるスピリッツと言える。
 無論、媚山にはそれほど気負った思い込みなど存在しないのだが、造形に対する想いは人三倍濃く、そして熱い。いま現在のガレージキットシーンがこうした作風に対しどれほどの間口を持っているのかは未知数であるが、こういったアーティストが「メジャーからの仕事依頼はないですね」と言い切ってしまう状況は悲しすぎる。媚山側にある程度譲歩する必要もあるのだろうが、彼の作風は決して「メジャーの流通に乗せることができないもの」ではないはずだ。

text by Masahiko ASANO

こびやまあつし1973年10月2日生まれ。幼少期より「ねんど遊び」に過剰な執着を見せ、いま現在も原型製作には造形用粘土(ファンド)しか使わないという生粋の粘土使い(プラスチックモデルに手を出していた時期もあったが、「プラスチックを切ったり貼ったりしていくことには違和感があった」という)。また、小学六年生のころからゲームにハマり、人五倍ゲームに対し熱い思い入れを持つ生粋のゲーマーでもある。ガレージキットに触れはじめたのは'80年代末、急速に台頭してきた美少女フィギュアに興味を抱いたことがきっかけ。自ら原型を手掛けはじめたのは'96年あたりからで、ワンフェスには'98年夏より参加している(ディーラー名"From My Dreamworld")。造形における楽しみは、「ものを作っている最中、自分自身の新たな表現方法が発見できる瞬間」。将来的には専業原型師への道を嘱望しており、現在はその準備のために造形を独学中である。

 

WSC#003プレゼンテーション作品解説

© ATLUS 1997


ネミッサ

※from『デビルサマナー ソウルハッカーズ』
1/7(頭頂高190mm、全高245mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/5,000円(税込)

(※販売は終了しています。なお、このプレゼンテーション商品に関しては、 版権元の意向に伴い一般販売は行いませんでした)


ワンフェスには“From My Dream”名義で参加し、独特の作風にてゲームキャラクターを立体化し続けてきた媚山 厚。プレゼンテーション商品であるネミッサ(プレイステーション用ゲームソフト『デビルサマナー ソウルハッカーズ』のヒロイン)はWSC用に作り起こされた新作で、ファンド造形ならではの「しなやかさ」に溢れる逸品です。キットとしての注目点は左手に持つ火球。「あえて透明レジンを使わずに非実体物を表現してみたかった」という作者の造形に対する意気込みを是非とも感じ取ってください。

媚山 厚からのWSC選出時におけるコメント

 最近は、模型に限らずどの業界でも「売れればそれでいい」的なものが多すぎるのではないでしょうか。一般の人に合わせてわかりやすいものを作って売る。そうすれば確かに売れますが、それは同時に「消費者の“ものに対する価値観”のレベルを下げることにも直結しているのではないか?」と思うのです。そんなわけで、『ワンダーショウケース』のプロデュースアーティストとして選ばれたことはもちろんうれしかったのですが、それよりもむしろ、この業界のことをそこまで真面目に考えてくれる人たちがいたということのほうが僕にとっては重要でした。
  ワンフェスでは、僕にとってもうひとつの大切なもの“ゲーム”について、造形で語っていきたいと思っています。単にキャラクターを立体として作るのではなく、ゲームのなかの世界を自分なりに表現していこうと考えています(いちおうゲーム物がメインですが、たまにはアニメとかオリジナル物もやってみたいです)。
  僕の夢は、“ガレージキット”という枠を越えることです。いまこの場で「こういうことをやりたい」と明確には言えません。この先何年かかるかわかりませんが、造形における“ガレージキット以上の可能性”を探してみようと思います。そんな夢を実現させるために、プロの原型師としていろいろなことを学び、経験を積んでいけたらと考えています。
  夢を売る人間として、決して夢を忘れず、あきらめずに、熱く生きてみたいのです。