アーティスト紹介

WSC #007 戸田 聡

Satoshi TODA

[夢のカグツチノ公国]

作品世界の空気を切り取って魅せる
「いわゆるガレージキット的」アドバンテージ

 作品世界の“空気”を切り取り、それを立体で表現する―これは、別にディオラマ(情景模型)のことだけを指す言葉ではない。そもそもガレージキットという表現形態自体、そうした「作品世界の根底の部分を深く濃く認識したうえで、それを汲み取り造形に反映させる」ことをアドバンテージとして発展してきたジャンルだ。要は、「浅草橋あたりの木型屋のオヤジが設定画を見ただけで造形したものなんかじゃ、オタクとしては満足できないんだ!」というヤツである。
 戸田 聡はその点、そういった(昔ながらの)ガレージキットならではのアドバンテージを、昨今ではめずらしく有効に使っているガレージキット作家だ。彼の造形するキャラクターが元となった絵にどれだけ似ているかと言えば、どうひいき目に見積もっても100点満点中68点といったところだろう。ワンフェス会場には70点以上を楽々と叩き出せる輩が100人以上はいるだろうから、仮に『元絵似せワールドカップ』が開催されたとしたら、戸田は地区予選であっけなく敗退してしまうかもしれない。ただし、冒頭で記した「作品世界の“空気”を切り取り、それを立体で表現する」という着目点で戦うとするならば、本戦での予選リーグ突破はおろか、ベスト8進出も夢ではない資質を彼は有している。繰り返しになるが、それは別に「戸田がディオラマ的な手法を得意としているから」というわけではない(無論、ゼロとは言い切れないが)。「似せる」というポイントが、“元絵”ではなく“元絵を含む作品世界全体”に置かれているためだ。
 たとえば、「戸田の造形するキャラクターの顔にはクセがありすぎる」という意見もある。それはぼくにしてもある部分同感なのだが、彼の造形物を眺める場合に限って言えば、じつは「そんなことはどうでもいい」のではないだろうか? 顔の作りだけで造形物全体が語られることを拒否するような、「顔なんかにことさら興味ないから」というあからさまな表現を見るにつけ、極論、「戸田作品は顔が“のっぺらぼう”状態でも、その魅力はなんら変わることはない」とさえ思えるのだ。
 ファンタジックな、なごみ系の世界が好きそうな雰囲気を装いつつ、じつは腹にイチモツを隠した兵(つわもの)。ニコニコして近付きながら冷徹にバッサリと切り付ける、戸田作品のそういう油断ならない感じが、ぼくはとても気に入っている。

text by Masahiko ASANO

とださとし1971年3月24日生まれ。幼少期から“ねんど遊び”を趣味とし、油ねんどで怪獣やロボットを作っては壊し、作っては壊し……という日々を送る。小学生時代にガンプラブームの洗礼を受けるも、ハマり具合は「平均的」。その後オタク系からは疎遠になっていたが、就職して自分の時間が作れるようになった24~25歳時にオタク道へと出戻り。ワンフェスへのディーラー参加は'99年冬からで、ホシノ・ルリ、ペイオース、ファンシーララの3作品を一気に出展する。「作る」という行為自体は好きで、技術面での上昇指向もあるものの、製作への動機やモチベーションは周囲からの要求に主体があり(要は、「このキャラかわいいなぁ」「コレを作ってほしいなぁ」という他者の意見がそのまま造形対象となる)、「世界観や空気感、空間を表現したいというのは事実だが、自分がほんとうに作りたいものや、こだわりのある部分がまだ完全に見え切っていない」と語る。

WSC#007プレゼンテーション作品解説

© NIPPONICHI SOFTWARE INC.


コルネット・エスポワール

※from 『マール王国の人形姫』
1/10(全高150mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/7,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/12,000円

(※販売は終了しています)


作品世界の空気を切り取ることに主眼を置いた、ヴィネット(コンパクトディオラマ)風の構成が俄然目を引く戸田 聡のプレゼンテーション作品“コルネット・エスポワール”は、プレイステーション用ゲームソフト『マール王国の人形姫』からの立体化。自身の前立腺事情(苦笑)に従順な“キャラ萌え造形主義”が全盛の昨今、こうした「全体の空気で魅せる」作品がどのような評価を得るか、WSCとしても非常に楽しみです。また、「空気で魅せる」とは言いつつも、ルーペで眺めても破綻をきたさない緻密でこまやかな作り込みも、要必見なポイントと言えるでしょう。

戸田 聡からのWSC選出時におけるコメント

 ワンフェス会場内をフラフラと観てまわり、自分のブースに戻ったときに友人から「スゴイ人が名刺を置いていった」と言われ、「俺をだまそうとしているな」と思いながら受け取った『ワンダーショウケース』の名刺はホンモノに見えました。一瞬「おおっ、スゲー!」と思いつつも、その直後には「……俺の作品のどこがよかったんだ?」という感情にすり替わったのを記憶しています。
  初めてワンフェスにディーラー参加した際の理由は、「ディーラーという立場のほうが買いものが楽なのでは?」といった感じ。しかし準備の要領がわからず、「それどころじゃない」というのが現実でした。また、実際に会場に行って感じたのは、「自分の作ったものに対するリアクションがあることがうれしい」ということ。この快感を得るためにその後もワンフェスに参加し続けることになったわけだけど、現金とフィギュアを引き替えていると、「フィギュアの価値」とか「何を表現したいのか?」とか考え出してしまって、で、いくら考えてもサッパリで、「理屈より先に行動するタイプの人間なんだから、造形もそれでいいじゃないか」というひとつの結論に落ち着き、結局は気の向くまま造形を続けるのでした。
  手を動かさないとスキルも上がらないし、完成もしないので、そういう意味でもワンフェスには出続けます。「プロの原型師になるぞ!」ってのはあまり考えてないけど、「自分の満足がいくものを作れるようになりたい」というくらいの欲はあるので。