 |
|
 |
WSC #008 Nagiy
[Flowershop]
思慮深いキャラクターからは想像も付かない
極めて官能的な「前立腺直撃型造形」
Nagiyくんは22歳という若さに似合わず、じつに思慮深くてクレバーな人間だ。アルコールを飲み交わしながらバカ話をしている最中にも、ぼくに何度「そのセリフいただき! 速攻メモんなきゃ」と言わせたことだろう。
「自分は、“原型師”というよりは“モデラー”なんだと思うんですよ。原型師の人って、造形だけで勝負してるっていうか、まったく塗装をしない人さえいますよね。でも、ぼくは『模型は塗ってなんぼ』だと思ってるんで、塗装の部分まできちんと含めて勝負したいんです。……いや、勝負するつもり、全然ないんですけどね(苦笑)」
「前回のワンフェス会場でWSCから声を掛けてもらいましたよね。その直前までぼく、猛烈に落ち込んでたんですよ。会場に持ち込んだキットは開場直後に完売しちゃったんですけど、『そうですかぁ、完売ですか。おめでとうございます。じゃあ、次こそ買えるよう、またがんばって次回も来ますね!』みたいに言ってくれる人たちが午後からも続々とやって来て……。でも、ぼくのふところ具合だと、注型業者を使って複製品を大量に生産することなんてできないんです。だから次回も手作業で50個ぐらい複製して持って行くのが関の山なんで、『おそらくはまた、そういった人たちの手にはキットが行き渡らないんだろうな』と思ったら、やり切れない気分になってきちゃって……」
そう、Nagiyくんにとってのガレージキットとは、“商品原型(の複製品)”ではなく“自己表現(の場)”であり、そして、それ以上に“コミュニケーションツール”として機能することが重要なのである。
ちなみに、思慮深くクレバーで、会う人会う人に「冷めてるとか、考え方が老けてるとか必ず言われる」というNagiyくんであるが、そんな本人のキャラクターとは正反対に、彼の生み出す造形物からは「22歳成人男性ならではのパトス(情念)」が溢れ出ているからおもしろい。至極単純に言うならば、前立腺直撃型造形、とでも称すべきか。生身の女体の情報をどこまで2Dのキャラクターに持ち込み、逆にどこから切り落とすか――そうしたディフォルメーションの塩梅こそが美少女フィギュアのキモなわけだが、彼の場合は「一見“元絵(原作)至上主義”に見えて、じつは限りなくギリギリまで生身のカラダの情報を持ち込んでいる」その感覚が絶妙なのだ。
地に足が着いた実力と、年齢相応以上の冷静な判断力。Nagiyくんに関しては、彼の今後にぼくが気を揉むようなことはこの先もないだろう。WSCを踏み台にして、自身の活動に弾みを付けていってほしいものです。
|
 |
text by Masahiko ASANO |
 |
なぎぃ●1978年3月28日生まれ。「小学校中学年時からアニメ雑誌を買いはじめる」といったフォーマルなオタク道を歩み、段階的に症状が悪化(笑)。高専2年生のときに『ああっ女神さまっ』のスクルドと運命的な出会いを遂げる。もっとも、その後はアイドル声優(宮村優子)の追っかけへと転じ、「毎土日イベントに出向くダメ人間」状態に。が、ボーメ氏原型製作のスクルド(ワンフェス限定品)を買い逃したことがそうした状況を一転させ、「声優を追っかけている場合じゃない!」と、まるで洗脳を解かれたが如く追っかけ生活と離別、模型の世界へ急激に没入しはじめる。フィギュア造形を最初に手掛けたのは'97年、ワンフェスへの初参加は'98年夏。以降、女神さまっ専門ディーラー“ぱてらんちSLAB”として躍進し続けてきたが、今回よりディーラー名を“Flowershop(フラワーショップ)”へと改変している。
|
 |
|
 |
WSC#008プレゼンテーション作品解説 |
|
 |
© 藤島康介/講談社
© 2000「ああっ女神さまっ映画製作委員会」

ペイオース
※from 『ああっ女神さまっ』
1/6(全高250mm)レジンキャストキット
■ 商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/7,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/12,000円
(※販売は終了しています)
前回のワンフェスまでは“ばてらんちSLAB”名義でディーラー参加していた彼……と言えば、ワンフェス通の人や『ああっ女神さまっ』のファンにはすでにおわかりでしょう。一部で高い評価を受けつつも、アマチュアガレージキット作家としてのスタンスを崩さぬがゆえに商品販売数が少なく、「有名原型氏のワンフェス限定品よりも入手するのが困難」とされていた逸品が、WSCのプレゼンテーション商品としてよみがえります。「(購買者にも)肌の透明感を生かした塗装を心掛けてほしい」というNagiyたっての要望で、レジンキャストの成型色も乳白色を選択。官能的にして繊細な、今夏の「本命」です。
|
 |
NagiyからのWSC選出時におけるコメント |
|
 |
2年前、僕がワンフェスでやりたかったのは「自分のイメージどおりのスクルドを作る」こと。それはいまも変わってないし、納得がいくモノが作れてないので、いまも同じものを作り続けています。プロアマ問わず上手い原型師さんが多く存在する今日、「どうせあの人の作品には勝てないから」とか「いずれ誰かが上手いのを作ってくるよ」とも思うのですが、自分がほしいと思うような作品をいまのところ誰も作ってくれないから、仕方がないので自分で原型を作り、フィニッシュして自分のショウケースに入れている……という感じです。つまり、自分は“原型師”というよりは“フィニッシャー”寄りの人間なのかもしれません。
ワンフェスというイベントに対しての僕の認識は「自分の好きなキャラクターを作って参加することに意義がある」という程度でしたから、「いまのワンフェスがヌルい」とか「ガレージキットスピリッツがどうのこうの」という話はよくわかりません。そんな僕の作品を『ワンダーショウケース』が評価してくださったのは意外でした。と同時に、選出作品がスクルドではなくてペイオースだったことは重要でした。ここ1年くらいは「いろんなキャラクターを自分の感じたように作りたい」と思うようになってきたところでしたから、「スクルド以外の作品でも作る意味があるんだ」ということを再確認するきっかけになりました。また、何作品か作っていくうちに(まだ10作も作っていませんが)、キャラクターうんぬんではなく“ガレージキット的な造形物自体”への興味も沸いてきていて、もっといろいろなものに挑戦したいと思うようにもなってきました。何かスゴイものを作りたい――いまは漠然としたキモチしかないけど、いつか必ずカタチにしたいと思います。もちろん、その際の造形対象はスクルドで(笑)。
|
 |
|
 |