アーティスト紹介

WSC #018 松本若丸

Wakamaru MATSUMOTO

[若丸屋]

一定以上の才を感ずるからこそ期待してみたい
「もっとずっと先のゴール設定」

 2Dのアニメ絵を高解像度で読み解く確かな力と、窮屈さを感じさせない伸びやかな作風。ケレン味溢れるアレンジメントセンスも悪くない。そしてもちろん、やたらと面構成が複雑なパーツ群を左右対称形に削り出していく、その根元的な造形力も一筆に値するだろう。
 ガレージキットに限って見れば「美少女フィギュアの勢いに押されて」、模型業界全体を俯瞰して眺めた際には「ガンプラの勢いに押されて」、その市場規模とニーズそのものを急速に縮小化させつつあるメカ&ロボット系ガレージキット。そういった逆風的状況下において、松本若丸という新たな才能が醸し出す「勢い」は、同ジャンル内における数少ないポジティブファクターだと言えよう。
 ただし、そんな松本の造形に問題点がないかと言えば、もちろんそんなことはない。
 もっともそれは、松本だけの問題というよりは、現状におけるメカ&ロボット系ガレージキットシーン全体が抱えている問題とでも称すべきものなのだが―造形上のゴールとして設定しているポイントが、いわゆる“平均的なガレージキット原型”のそれであり、そこから先へ踏み出して行こうとする努力が欠如しているだけでなく、「いま自分が設定しているゴールよりも、もっとずっと先にゴールを設定することができる」」という決定的な事実に気付くことができずにいるのだ。
「この部分はどうしてこの厚みで造形したの? もっと薄いほうが“らしい”というか、ガンプラのパーツ肉厚に酷似していて妙に不自然なんだけど」
「別段理由はないんですけど、普段はガンプラばっかり作ってるんで、無意識のうちにガンプラに引っ張られているのかも……」
「このふたつのユニットは、どういう結合方式をイメージしてるのかな? デザイン画を見る限り、このユニットはこっちのユニットの裏側から突き出しているように見えるんだけど、でも松本くんの造形だと、ふたつのユニットがただ普通に面と面で繋がっているようにしか見えないよね」
「……ああ、なるほど。そんなこと全然気にせずに、デザイン画に描かれている線をトレースすることばかり考えてました」
 もちろん、松本に対して語ったぼくの要求が、世間一般が彼(やメカ&ロボット系ガレージキット全般)に望むものよりも明らかに高いことは百も承知だ。「そこまでしなくてもみんな買ってくれる」「そこまでこだわっていたら年間で造形できる作品数が減ってしまう」と言われれば、「ごもっともです」と答えるしかない。
 が、せっかく「そこから先」へ踏み出して行くことができる希有な才能を有しているのだからこそ、ぼくは松本に「もっとずっと先のゴール設定」を期待したいのである。
 誰に対してでも望むわけではない。君にだからこそ、それを望みたいのだ。

text by Masahiko ASANO

まつもとわかまる1974年2月26日生まれ。幼少期、カバヤ食品の『ビッグワンガム』(ナイロン素材系の組み立てキット入り食玩)を通じて模型製作に開眼したものの、三重県鳥羽市在住という環境から高校生になるまで模型雑誌の存在すら知ることがなく、「本格的に模型製作へのめり込む」というシチュエーションを得られずに過ごす。しかしその後、「お金がある程度自由に使える年齢に達して通販を覚えたため、在住地に関わりなく、模型雑誌や造形材料、ガレージキットなどを入手できるようになった」がゆえ、ガレージキットの組み立てに没頭。19歳のころには「自分がほしかったメカのガレージキットが発売されていなかった」との理由から、自分自身でゼロからそれを造形する術を思い立ち、そして同時期より、まだ晴海の国際展示場にて開催されていたワンフェスに一般入場者として参加するようになる。'96年、ガンダムのフルスクラッチビルド作品で『JAF・CON』のコンテストにて銀賞を受賞。'99年[冬]からは“若丸屋”名義でワンフェスにディーラー参加しはじめ、メカ系と美少女フィギュア、そのどちらも選り好みせずに手掛けるガレージキット作家としての活動をスタートすることに。

 

WSC#018プレゼンテーション作品解説

© winkysoft/メカデザイン 市川裕文


聖霊機ゼイフォン

※from 『聖霊機ライブレード』
ノンスケール(頭頂高190mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/8,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/12,000円(税別)

(※販売は終了しています)


 「たぶん、自分はプロの原型師にはなれないと思うんです。なぜなら、デザイン画どおりに造形することが好きじゃないので……」と語る松本若丸。確かに、松本のプレゼンテーション作品となる“ゼイフォン”(PS & DC用ゲームソフト『聖霊機ライブレード』に登場するロボット)はその言葉どおり、版権キャラクターの造形でありつつも、自由奔放に自分のイメージを織り込んだ作品となっています。
 こうした“アレンジ造形”はアマチュアガレージキットの世界においてはひとつの定番とも言えるわけですが、ただし、それがマスターベーションで終わってしまうか、それとも「元のデザイン画とは別の魅力を有した作品」にまで昇華させることができるかが勝負の分かれ目であり、松本の作品はもちろんその後者であるわけです。「元ネタであるロボットのことは何も知らないけれど、カッコイイので思わず買ってしまった」と言われることが多いという、そのソリッドな“造形物そのものとしての魅力”をぜひとも感じ取ってください。

松本若丸からのWSC選出時におけるコメント

 僕が造形を続ける目的は、「上手くなって自分が満足する作品を作ること」です。自分のキットがひとつでも多く売れるためでも、人によろこんでもらうためでも、他の人よりも高いレベルの作品を作ることでもなく、好きでほしいものを手にしたときの幸福感をより高いものにしたいからです。趣味で作ってるんだから、本人が満足しなければ意味がないと思いますし。
 こんな性格が反映され、僕の作品は「ここはこういう感じのほうがいい」「絵と違うけどこうしたほうがカッコよくなる」と思ったところは設定画を無視してでも好き勝手に作ります。だから商業原型師としては使いものにならないでしょう。
 そんな作品に対して版権を下ろしてくださったメーカー様には、感謝の言い尽くせないです。せっかく完成したのだから、やっぱり人に見てもらいたいという気持ちもありますし、その機会を与えてくれたのですから。
 地方出身で思うように造形材料も手に入らず、製作に関して相談できる相手もほとんどいない状態で、雑誌の記事と市販のガレージキットを教科書に、手探りで造形行為とディーラー活動を続けてきました。しかし最近、完成した自分の作品を見てつねにもの足りない感じが付きまとっており、解決する手段も見つからないこのタイミングでのWSC選定は、願ってもないお話でした。自分の作品が選ばれたことがうれしいのももちろん、この機会に何か解決の糸口が見つかるかもしれないと思ったからです(思惑どおり、あさの様からありがたいダメ出しをしてもらえました)。
 自分の目的のことしか考えないオタクの本性丸出しなような僕をWSCに加えてもらえたことは、感謝と罪悪感が入り混じってます。それでも選んでくださったスタッフの方々や、これまで僕のキットを購入してくれた人たちの気持ちが無駄にならぬよう、今回の件を今後の作品に生かすことができるよう努力したいと思います。