アーティスト紹介

WSC #024 竹中喜洋

Yoshihiro TAKENAKA

[ゴスポップ]

「オシャレな美少女フィギュア」にとどまらぬ
センスと造形のスリリングな競い合い

 最近のワンフェス会場を歩いていると、「ちょっとオシャレな感覚を盛り込んだ創作(オリジナル)系フィギュア」というものをよく見かける。アメリカントイのようなガジェット感や、グラフィックデザインのテイストなどを造形に盛り込んだ、おそらくはメディコム・トイ(的なるもの)にインスパイアされてこちらの世界へ辿り着いたような作品。はたまた、'50~'70年代SF的なレトロフューチャー感を採り入れたり、対象に欲情する視点を意図的に取り除いたりした、ファッショナブルな美少女フィギュア。「版権モノよりも創作系のほうがエライ」などということはこれっぽっちも思わぬが(このふたつでは、求められるものや苦心するポイントが異なるのだから、優劣を比較することなど無意味な行為でしかない)、その昔、ガレージキットの世界で「オリジナル作品です!」とのたまっていたそのほとんどが「ミッキーマウスの耳を3個にしただけのようなもの(要は、版権モノのモドキ作品)」であったことを思うと、シーン全体の成熟を感じずにはいられない。
 が。そうした「ちょっとオシャレな感覚を盛り込んだ創作系フィギュア」を見るにつけ口からこぼれ落ちてしまうのが、「センス“は”いいんだけどなあ……」というため息混じりの言葉だ。センスに対し、造形のパワーやスキルがとにかく追いついていないのだ。
 もちろん、日々の鍛錬により、拙い造形が秀でたセンスに追いつく可能性もあるだろう。だが、端から見ていてワクワクできるのはやはり、センスと造形がしのぎを削り合いながら同時成長していく姿なのである。
 竹中喜洋は、そうしたエンターテインメント性を我々にもたらしてくれる可能性を秘めた逸材だ。
 絵心があるのは確かだが、ずば抜けてセンスがいいわけではない。独特のデッサン力を有するものの、造形もまだまだ発展途中である。それゆえ、キャラクターデザインが造形に追いついていない作品もあれば、それとは逆に、造形の未熟さのほうが目立ってしまう作品もある。最終的には「センスも造形もすばらしい」というオチが望まれることは当然としても、そこまでの過程で1作ごとに、センスと造形のスリリングな競い合いが見られるなんて、考えるだけでもワクワクするではないか。
「出来のいいキットが買えればただそれだけでいい」というような人からすれば、まったく興味を抱けぬ話かもしれない。しかし、造形作家の成長過程を追いかける楽しさを知っている人には、ぜひとも今後の活動をつぶさにチェックし続けてほしいホープである。

text by Masahiko ASANO

ちびすけましーん1979年11月29日生まれ。小学3~4年生のころにガンプラ(SDガンダム)に触れ、中学時代もそれなりに模型と接し続けたが、高校進学を境に模型趣味から完全に離れることに。その後、大学で知り合った模型好きの友人から影響を受け、再び模型趣味に興味を抱くも、「スカルピーを使ってカエルやクリーチャーなどをちょっと作ったりしたけれど、本気で取り組んだわけではない」という程度。だが、大学卒業間際、その友人からいきなりワンフェスへのディーラー参加話を持ちかけられ、友人と共に創作系作品を造形し、“ゴスポップ”名義で'02年[夏]のワンフェスへ乗り込むことになる。「完売まちがいなし!」「もしかしたらイキナリWSCに選ばれちゃうかも!?」という妄想の下に美少女フィギュアを10個持ち込むも、結果は「2個しか売れずに落ち込み、現実を知らされました(苦笑)」。出身も現住所も熊本で、いまは造形以外の仕事に就いているものの、「もしも可能であれば、プロ原型師として商業原型をこなしつつ、オリジナル作品をワンフェスで売るようなスタイルでやっていきたい」というのが本人の願望である。
(※現在はディーラー活動を休止しています)

 

WSC#024プレゼンテーション作品解説

© ゴスポップ


格闘球技少女

※約1/8(全高190mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/3,500円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/5,775円(税込)

(※販売は終了しています)


 最近のワンフェスでよく見かけるようになった、「ちょっとオシャレ感覚を盛り込んだ美少女フィギュア」。竹中喜洋の造形する創作キャラクターはまさしくそういった括り内に属するわけですが、単なる「センスの発露」にとどまらず、造形魂を感じさせる無骨なまでのエネルギッシュさがWSC選定への決め手となりました。プレゼンテーション作品は、造形がこなれてきた最新作ではなく、あらゆる意味で竹中の資質が(赤裸々に)露見している“格闘球技少女”をあえてセレクト。もっとも、'03年夏のワンフェスにて発表されたものから、ポーズ、ディテール共に大改修を受け、「ほとんど別モノ」となっての再登場です。
 一口に「写実的」と言い切ってしまうことのできない個性的なデフォルメや、どういうスポーツ競技なのかさっぱりわからぬ(笑)コスチュームデザインなど、見どころも盛りだくさん。また、キットには、ユニフォームやプロテクター各所に貼るためのマーキングデカールも附属しています。

竹中喜洋からのWSC選出時におけるコメント

 僕は大学を卒業してから本格的にオリジナル系フィギュアを造るようになったんですが、学生のころはほとんどフィギュアに興味がなく、関節人形が好きでした。僕の造るフィギュアの顔がリアル寄りなのはそのせいです。
 衣装のデザイン等については、格闘技やスポーツ競技、キャンギャル風なものを毎回テーマにしています。実際に人が着て動いたりするのではないので、デザインを考える場合、立体になったときのおもしろさ、かっこよさ、かわいらしさに重点を置いています。ウソも堂々とつきます。そういうことなので、「このプロテクターじゃ座れないね」とか「格闘技ならスネを守ったほうがよくない?」などと言われても気にしませんし、へこたれません。そんなには。なんて言うか、そんな理屈を通り越しておもしろさがダイレクトに伝わる、圧倒的なものを造ることが今後の目標でしょうか。それに見合うだけの表現力・仕上げ・塗装といった、ガレージキットを造るスキルが一定のレベルまであるのかどうか疑わしい面もまだまだあるので、努力あるのみです。
 こんな僕なんですが、いままで買っていただいた客ん、応援してくださる方、自分の妄想の拡大のためにもがんばりたいと思うので、これからも、ゴスポップを含めてよろしくお願いいたします。