アーティスト紹介

WSC #026 小林 真

Makoto KOBAYASHI

[Long Long]

専業原型師だからこそ見つけることができた
「ワンフェスでしかできないこと」

 「商業原型は“お仕事造形”だけど、ワンフェスなどのイベントで発表する個人作品は“趣味の造形”。同じ原型製作でも、やっていることはまったく違うんです」とかなんとか語るようなヤツに限って、「ええっと……で、どっちがお仕事造形で、どっちが趣味の造形なんですか?」と尋ね返さないと、それらふたつの判別がまったくつかないというようなケースが多い。「一般流通が難しそうなマイナーな題材を扱う=趣味の造形」などというレベルの話であれば、当人以外からすれば「そんなこと知ったこっちゃない」わけで―。
 もちろん、双方の差別化が明確に成されていなくとも、当人がそのことに対してなんの疑問も抱かず、また、そうした生き方に息苦しさを感じないのであれば、それはそれでまったくもって問題ないだろう。ただし、お仕事造形と趣味の造形をきちんと切り分けて捉え、商業原型仕事では「自身の作風を打ち出しつつも市場のニーズに応える造形」を、趣味の造形では「ガレージキットイベントでしか成立しないような実験的表現」を成し得るのであれば、その原型師は他の原型師たちよりも明らかに光り輝いて見えるのではないか? お仕事造形と趣味の造形が相対的にそれぞれを引き立て合い、それぞれの欠点を補い合うことで、双方をもう一段階ステップアップさせることができるのではないか―このことが決して夢物語に近い理想論などではないことを、小林 真という専業原型師が現実に証明している。
 すでに商業原型を複数手掛け、模型雑誌などでも活躍する小林は、本来であれば、WSCがいまさら声をかけるような存在ではないはずだ。しかし、ワンフェスで小林が発表するそのどの作品もが、前述した「ガレージキットイベントでしか成立しないような実験的造形」をものの見事に体現していたことに対し、ぼくは痛く感銘を受けた。そして、「気付いている人間もきちんといるよ、そのやり方でまちがっていないよ」という旨を伝えることもまた大切だと思い、断られることを大前提として、WSCアーティスト選定うんぬんをほとんど意識することなく小林とコンタクトを取ったのだが……。
 商業原型仕事で見せる顔とはまるで異なる、ロックンロールなスピリッツ(ワンフェス用作品として、あえて『明日のナージャ』を選択するセンスはまさしくロック!)と、荒々しいまでのタッチやスピード感。ワンフェスをこんなにも有効活用している男がいることを、他の専業原型師たちはもう少し意識してほしい。

text by Masahiko ASANO

こばやしまこと1977年4月27日生まれ、静岡県出身(←出身地記述は本人のこだわり)。小学校低学年時にガンプラブームの直撃を受け、中学までは模型製作に熱中。ただし、高校入学後に「自分はオタクなんだ」という事実を初めて自覚し、“隠れオタク”的スタンスまでオタク趣味を後退させた結果、模型との接点は限りなくゼロへと近付く。その後、ファッションやアートなどへ開眼、美大(グラフィックデザイン課)へ進学するも、2年生のときにたがが外れ、それまで抑圧していたオタク趣味が大爆発。「自分が本当にやりたかったことはこれだったんだ!」と気付き、ロボットの絵を描きまくったり、フィギュア製作へのめり込み、「卒業後は専業原型師になるしかない」というビジョンを固めていく。'99年、大学4年生のときにJAF・CONとワンフェスへディーラー参加を試みるも、いわゆる「版権落とし」を経験。落ち込みまくっていたところに運よくコトブキヤから声をかけられ、'00年に商業デビューを飾る。“Long Long”名義でイベントへディーラー参加しはじめたのは、'01年のC3が最初で、ワンフェスへは'02年[冬]から。本人的には、「30歳まではいまのスタイルのまま突っ走りたい」とのことである。

WSC#026プレゼンテーション作品解説

© KOBAYASHI MAKOTO 2004


メイフェア

※1/8(全高200mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/3,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/6,090円(税込)

(※販売は終了しています)


 プロ原型師としてすでに各方面にて活躍中の小林 真が、'04年夏のワンフェスにて発表し、大きな注目を集めた異色作“メイフェア”。小林自身のデザインによるこの創作キャラクターが、小林のプレゼンテーション作品となります。サイエンスフィクションとゴシックホラーを足して2で割ったような、独特の様式美とその物語性はもちろんのこと、商業原型仕事で見せる表現とはまるで異なる、スピード感溢れる荒々しいまでのタッチにも要注目。小林が原型製作を手掛けた、ていねいに磨き込まれた商業作品(一般流通商品)をお持ちの方は、ぜひともメイフェアと見比べていただきたいところです(おそらくは、「これらを同じ人間が手掛けたとは思えない……」と唸ること必至でしょう)。
 薄気味の悪さと凛々しさが同居するこの作品を通じ、昨今大勢を占める「萌えキャラ造形至上主義」とは正反対の、あえて逆風に立ち向かうプロ原型師としての気概を感じ取っていただければ幸いです。

小林 真からのWSC選出時におけるコメント

 ストレス社会ですね。最近はなるべく、くまさんやアルプス山脈のことを考えるようにしています。鳥のむくむくした首まわりも好きです。癒されます。
 基本的におつむが足りないので本能で行動します。寝る、造る、寝る、寝る、造る、寝る……。
 昔、廃工場に忍び込んだことがあります。30cm大のボルトねじや船に吊すようなチェーンなど、意味不明な金属がところ狭しとあり、夢中でピックアップ(盗むんじゃない、PIC UPだよ、かっこいいんだ)して塀を越えたところでセコムが来ました。捕まるところでした。
 つまり、失われたものを求めています。心の底に沈んでいる美しい世界の断片……。
 すべての作品を静岡に捧げます。サッカーに、緑茶に、露地栽培メロンに、長澤まさみに、富士演習場に!