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WSC #031 Rosanna(ロザンナ)

[鋼鉄飯店]

己の存在を透明化することで己の個性を際立たせる
市場のニーズに即した「遅咲きの気鋭」

 そもそもガレージキットとは、それを手がける造形作家の“個性(作家性、もしくはクセなど)”をひとつのセールスポイントに掲げて成長してきたジャンルだ。「立体化する際の参考とされた元絵とあまり似ていない」「造形上でのアレンジが強すぎる」といった事実が、必ずしも揶揄やマイナス評価と直結せず、場合によっては褒め言葉として機能してきた世界。ある意味においてはパロディ系同人誌と似た環境により育まれてきたとも言えるわけだが(「元絵とそっくりに描かれたパロディ系同人誌は得てして売れない」という定説がそれを物語る)、ガレージキットシーンにおいては、近年、そうした“作り手なりの個性”というセールスポイントが加速的に失権しつつある。ガレージキットのフィギュアをマスプロダクツ製品と同様の純粋な版権キャラクターグッズと見なす、「フィギュアは元絵とそっくりでなんぼ」「元絵と似ていないフィギュア=まるで価値のないもの」と考える人々が増大した結果だろう。
 そうしたガレージキットシーンの「退行」に対し違和感を覚えるのも事実なのだが、それはまた別のお話。シーンのニーズが変われば、求められるべき才能が変わるのは当然と言えば当然だ。簡潔に言うならば、いま現在のガレージキットシーンのニーズに見合う資質の持ち主、それがRosannaということである。
 たとえば、二次元のマンガ絵やアニメ絵にビビビッと照射すると、その絵がそのまま三次元のフィギュアになってしまう超便利なツールがあったとしよう。Rosannaの生み出す作品は、まるでその“2D→3D変換光線銃”を使って3D化されているように見えるのだ。
 ただし、当然ながらそんな光線銃がこの世に存在しない以上、Rosannaは意識的に己の存在を透明化しているのである。個性をセールスポイントに据えるライバルたちからすれば信じられぬような、血の滲むようなレベルでの「自分の個性を消し隠す」という努力。そしてもちろん、己の存在を透明化しても十二分に魅力的な作品を生み出せるだけの確かな造形力と表現力がそこに存在するからこそ、Rosannaの作品は没個性的であるにもかかわらずさん然と光り輝く。
 己の存在を透明化することで、己の個性を際立たせるという逆転の構造。理屈的に理解できなくはないし、これまでにそれを実践してみせた先人も少なからずいるにはいるが、遅咲きながら、Rosannaもその先人たちと同様の領域に足を踏み入れたようだ。

text by Masahiko ASANO

ろざんな1969年6月16日生まれ。小学6年生のとき、ガンプラブームを通じて模型趣味の世界へ。中学生以降はフィギュア製作に嗜好がシフトし、男性キャラ・女性キャラを問わず、さまざまなキャラクターたちを「造形テクニックを磨くための習作」としてフルスクラッチビルドし続ける。大学2年生のころ、某造形コンテストにフィギュアを出品。その際にシリコーンゴム+レジンキャストによる原型複製を初体験し、「自作フィギュアをガレージキット化する」ということに興味を抱きはじめる。ただし、就職してからは美少女イラスト描きに興味がスライドしてしまい(商業作品もいくつか手がける)、フィギュア造形から遠ざかりはじめてしまったのだが、友人のYATUKIから「ワンフェスにディーラー参加しよう」と声をかけられ、フィギュア&ガレージキットの世界へ復帰。ワンフェスには“鋼鉄飯店”名義で'02年冬より継続参加中で、「いまはワンフェス参加が何よりもいちばん楽しい」という状態にある。

WSC#031プレゼンテーション作品解説

© 2005 武田日向/富士見書房


如月芹奈 ver.1.2

※1/7(全高220mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/6,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/9,000円(税込)

(※販売は終了しています)


 端的に言い表すならば、「まるで2Dのマンガ絵からそのまま飛び出してきたような3D作品」。原型製作者としての個人的な表現や原型製作者なりの主張が盛り込まれていないわけではないのですが、Rosannaの手がける造形物には、まるで裏方職人に徹するかのような、自分の個性をあえて押し殺す点に己の美学が置かれているような空気を感じます。
 プレゼンテーション作品“如月芹奈ver.1.2”(コミック『やえかのカルテ』より。'05年冬のワンフェスで発表された“ver.1.0”のブラッシュアップ版)は、そんな彼の資質が見事反映された傑作。必ずしも「元絵に似ていれば似ているほどフィギュアとして優れている」というわけではありませんが、“元絵とそっくり系フィギュア”に高い価値を見いだす人の目には極上の逸品として映るはずです。また、その端正で清潔感溢れるディテールやモールドは、キットを組み立てなくとも、パーツ状態で眺めていてもうっとりするほどです。

RosannaからのWSC選出時におけるコメント

 少ない小遣いで1本300円のエポキシパテを購入し、フィギュアのフルスクラッチビルドをはじめたのが中学2年生のころです。途中ブランクがありましたが、我ながら長く続けているものだなと感心します。
 少ない小遣いで1冊数百円のアニメ誌を資料として購入し、初めて美少女フィギュアをフルスクラッチビルドしたのが中学3年生のころです。思春期まっただなかでした。我ながら煩悩全開な人生だなと呆れます。
 そんなこんなで現在36歳。中学生のころと何ら変わらないスタンスで造形を続けています。お気に入りのキャラクターをかたちにしているだけです。かわいく、魅力的になればとは思ってますが、高尚な考えや野望みたいなものはありません。……自慰行為なんですね、たぶん。
 変わったことと言えば、ワンフェスに参加するようになったこと。確か「いっしょにワンフェス出ませんか?」という感じの言葉だったでしょうか……相方YATSUKI氏に誘われ、4年前に“鋼鉄飯店”というディーラーを結成。サラリーマンの身で、ふたりして造形カオスに飛び込みました。現在もふたりでディーラー参加しています。お互い切磋琢磨できればいいんですけど、実際は「版権落としのペナルティで一蓮托生」という状況にならないように、核抑止力のような力が働いているから作品が完成する……というような状況です。そんな何とか参加を果たしている程度のふたりが、どういうわけかWSCにふたりそろって選出されました。……一連托生です。
 ここまで来たらあと戻りできません、ふたりしてカオスの奥に進みます。YATSUKI氏、もう少し付き合ってください。誘ったのは貴方なんですからね。