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WSC #032 YATUKI

[鋼鉄飯店]

あまりにも急激なプラス成長の理由と背景……
ときとして盟友は「最大のライバル」となる

 YATUKIに関して語る際、第13期WSCに同時選出された“鋼鉄飯店”の盟友Rosannaの話を持ち出さぬわけにはいかない。YATUKIは「……オレは相方との相対論でしか語ってもらえない存在なのか!?」と憤るかもしれぬが、Rosannaがとなりにいたからこそ、お世辞にも絵心があるとは言えぬYATUKIの才能が急速に開花していったその過程を隠蔽するわけにはいかないのだ。
 至極率直に言ってしまうと、彼らふたりの作品はつい1年ほど前までWSC選定基準からほど遠いものだった。が、'05年夏を前に、まるでペアでワルツを踊るかの如きシンクロ度数で、ふたり同時に造形レベルが急成長しはじめる。すでに自己変革期へ差し掛かっていたRosannaはともかく、いまだ進みゆく方向性が(少なくとも他者からは)見えなかった、硬質的でぎくしゃくしたデッサンばかりが目立っていたYATUKIに至っては、F-15戦闘機がアフターバーナーをふかしつつ垂直上昇していくかのような右肩上がり状態。これはやはり、お互いがお互いを補完し合うパートナーであると同時に、お互いの存在を強烈にライバル視していたがために得られた報酬であったと考えるべきではないか?
 もっとも見方を変えると、現時点におけるYATUKIとRosannaの作品は、よほどの造形オタクでない限り、どちらがYATUKI作品でどちらがRosanna作品かを見分けることが難しいとも言える。「こちらがオリジンでこちらがサル真似」などというほど単純な話ではなく、シンクロ度数が高いまま急成長してしまったがゆえの結果(弊害?)、と捉えるのが妥当なわけだが―ただし、彼らの作品を鑑賞する人たちにひとつだけヒントというかポイント・オブ・ビューを与えるとするならば、「安定期に入ったRosannaに対し、YATUKIはまだまだ変革期の最中にある」という点だろう。
 それはもちろん、「YATUKIはこの先まだまだ伸びるはず!」などというほど甘い話だけではなく、「YATUKIはこの先、自分の方向性を見失い、フォームを崩して失速するかもしれない」という可能性をも包含しているわけだが、まあ、それはそれ。
 WSCプロデュース作品となった荻上“蓮子コスプレVer.”の「ヒザ」と「拳」の造形表現から、あなたはいったい何を見て取るか? プラスに転ぶにせよマイナスに転ぶにせよ、ぼくはこの先におけるYATUKIの動向を非常に楽しみにしている。

text by Masahiko ASANO

やつき1971年5月3日生まれ。小学生時代にガンプラにハマり、模型趣味の世界へ。中学3年生のころ、『Bクラブ』に掲載されたフォウ・ムラサメの全身フル可動フィギュア(石井和夫・作)を見てキャラクターフィギュア製作を決意、見よう見まねでフィギュア造形に着手しはじめる。が、大学進学後は(彼女ができたこともあって)フィギュア造形から離れ、就職後も封印状態が続いていたのだが、仕事に慣れ、金銭的余裕が生じはじめた時期より、マスターグレードシリーズのガンプラでリハビリ的に模型趣味を再開。さらに、「30歳になり、この先の自分に対し漠然とした不安を抱きはじめた」結果、「自分の名前を掲げ、自分の責任の下に、自分なりの作品を発表していきたい」という欲望が芽生え、ワンフェスへのディーラー参加を決意する。'01年夏のワンフェスを視察後、友人のRosannaに声をかけ、'02年冬より“鋼鉄飯店”名義にて活動を開始。毎回コンスタントに1点ずつ新作を発表する、極めて健全なスタイルのアマチュアガレージキット作家と言える。

WSC#032プレゼンテーション作品解説

© 2004 木尾士目・講談社/現視研研究会


荻上“蓮子コスプレver.”

※1/7(全高215mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/5,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/8,000円(税込)

(※販売は終了しています)


 作りにまだまだ「硬さ」が残るものの、その硬さをよい意味で自分の武器に置き換えているYATUKI。つまり、「手が勝手に動く本能的な造形」とは対極に位置する、「手以上に頭を使う頭脳的な造形」が彼の持ち味と言えるかもしれません。とくにそれが顕著なポイントが、レーベルプロデューサーが見惚れたという膝(ひざ)の造形。元ネタとなった2Dの絵には存在しない、写実的な人体表現とも異なる、他の誰の表現法とも似ていないYATUKIならではの「発明」にぜひとも注目してみてください。
 なお、プレゼンテーション作品である荻上“蓮子コスプレver.”は、架空のアニメーション『くじびきアンバランス』に登場する上石神井蓮子のコスプレをした、コミック『げんしけん』の荻上千佳……という、わかる人のツボは激押し、わからない人には何のことやらまったくわからないレアなアイテム。その「ネタ(造形対象)選択」にも、YATUKIならではのセンスが光ります。

YATUKIからのWSC選出時におけるコメント

 いまから4年前、私はふとしたきっかけでワンフェスへディーラー参加するようになりました。粘土をこねてフィギュアを自作するようになったのはもっともっと以前なんですが、人様の目に触れるところに出したのはこのときが初めてでした。
 映像作品やマンガに感銘を受けたり、キャラクターのデザインに惚れ込んだりと、フィギュアを作る動機は自作をはじめたころからいまでもあんまり変わってないように思うんですが、ワンフェスに参加して他のディーラーの作品を間近に見たり、同じ場で展示されるようになるうちにいろいろ欲が出てきたみたいです。ただ2次元の元絵に奥行きを与えて立体化するだけじゃなくて、私なりの別の価値を付加していけるようになりたいなあ、なんて、思い上がりも甚だしいそんな願望が芽生えてきたりしました。そんな願望がいま実現できてるのかというとかなり微妙になるんですけども、少なくとも望んでる方向へは向かっているのかなと思っています。
 そういう私の密かな狙いや企みはまだまだ作品に表現できているとは思ってないですし、もし仮にできていたとしても気付いてもらえないぐらい微かなものかもしれないのですが、会場でブースの前を通過していくたくさんの人のうち、ひとりでもその人のアンテナに引っかかって、足を向けさせる力になればなあと心の奥底で願ったりもしています。
 この先、私がどういったものを好きになってどう作っていくかはわかりません。まったく違うジャンル手出かもしれません。が、後退せずにひとつひとつ、前よりもいいものを作っていきたいなあと、これから先も変わらずにこんな気持ちで作っていくことができたらいいなと思ってます。