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WSC #038 しゅーじ

Syuuji

[秀吉]

塗装済み完成品フィギュアブームが生み落とした
突然変異体的「次世代マルチクリエイター」

 “秀吉”Webサイト内のプロフィールページには、これ以上ない適切かつ端的な言葉で“しゅーじ”のプロフィールが綴られている。
「当初漫画家志望で、ガキんちょのころから絵を描くこと以外OUT of 眼中だった。
(中略)'00年初頭に自分の絵の限界ともの足りなさを感じていたときに、オイラの心を鷲づかみしていたのはK&MとYujinのガチャ(=カプセルフィギュア)ブームだった。いままで意識することのなかった世界が輝いて見えた瞬間だ。そりゃ~『チョコエッグ』ブームは知ってたけど、動物にはそれほど……ってな感じだった自分が、完全にフィギュアコレクター化していた。
 当時発売されるアイテムはほぼチェック&ゲットし、もちろんオフィシャルグッズ目当てにワンフェスにも参上した。オフィシャルグッズのゲット後は、もちろん即帰宅(しかもディーラーデビュー直前まで)! まさに“ヌルオタ”と言われても否定はできないです、ハイ。
 そんな塗装済み完成品ブームのなか、'05年にガレージキットディーラー“秀吉”は誕生した。しかしソレは、ガレージキットと塗装済み完成品の狭間より生まれた不安定性突然変異なのかもしれない……きゃ~~~」
 塗装済み完成品フィギュアの社会的なブームは、フィギュアに対する偏見を氷解させ、フィギュアという存在をごく日常的とした。フィギュアに触れる人々が爆発的に増えたのだから、そのなかから新たな造形作家が現れるのは自然の摂理と言えるだろう。
 が。
「自分もフィギュアを造形し、複製してみたい」と思い立った人間の存在をまるで拒んでいるように見えるほど、ガレージキットの世界は新参者に対し厳しい。何しろ、「これさえ読めばとりあえずなんとかなる」といった定番的なハウツー本すら存在しないのだ。
 しゅーじは、塗装済み完成品フィギュア世代としてその厳しいハードルを最初に乗り越えた、新たな地平を切り開くマルチクリエイターである。
 現時点では、拙さが残る造形作品よりも手慣れたコミック作品のほうが魅力的だが、絵が上手い人間が本気で造形に取り組めば、短時間にて造形力がメキメキと向上していくことはまちがいない(WSC#033 岡崎武士の解説でも言及したが、「絵が描ける」というのは造形作家にとって無限のアドバンテージなのだ)。
 彼のような人間がこの後続々と現れてきてくれれば、この世界はまだまだ伸びていくかもしれない―しゅーじは、そんな期待をも抱かせてくれる存在である。

text by Masahiko ASANO

しゅーじ1980年4月19日生まれ。小学生時代から漫画雑誌を読みあさり、「将来は漫画家になる」と決意。その夢を叶えるために専門学校コミック科へ進学するも、2年生のときにYujinのカプセルフィギュアと出会い、「……こんなに出来のよい塗装済み完成品フィギュアがたった200円で手に入るのか!」と衝撃を受ける。その後、YujinやK&Mなどの完成品フィギュアをしゃにむに買い集めているうちに漫画家への夢が煮詰まり、専門学校卒業後はニート&引きこもりの道へまっしぐら。ニート状態のままひたすら完成品フィギュアを買い集めていた過程で『リセヴィネ』の存在を知り、「こんなものが売られているのならばワンフェスにも行かなければ!」という思いからワンフェス初参加を果たす。そして、ワンフェス会場から放出されていた造形魂に感化され、「自分なりのフィギュアを作ってこの場で勝負してみたい」という思いを抱くに至り、'05年[夏]より“秀吉”名義でディーラー参加をスタートさせる。'07年、キャラクターデザインや造形をひとりでこなすマルチクリエイターとして商業デビュー予定。

WSC#038プレゼンテーション作品解説

© 秀吉


キララちゃん(輝澄キララ)

※WSCアーティスト自身による創作(オリジナル)キャラクター
1/10(全高163mm)レジンキャストキット+『デジペchan』コミック冊子(全16ページ)


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/5,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/8,000円(税込)

(※販売は終了しています)


 しゅーじが執筆展開している創作漫画『デジペchan』のなかで、主人公デジペちゃんのマイブームとなっているTVアニメーション作品『キラキラカラーColor』に登場する主人公“キララちゃん”……思わず頭のなかがこんがらがりそうですが、しゅーじのプレゼンテーション作品である“キララちゃん(輝澄キララ)”は、そういった「作品内作品のフィギュア化」という複雑な構造を持つキャラクターです。もちろん、デジペchanを読んだことがあるか否かでフィギュア作品としての見え方も変わってくるのでしょうが、仮にデジペちゃんのこともキララちゃんのことも何も知らない人が見たときにも、それでも充分魅力的に感じられる「背景のストーリーを感じさせるフィギュア」であることが最大のポイントと言えるでしょう。
 そしてさらに、これまでしゅーじが描き溜めてきたデジペchanを16ページにまとめた、ダイジェスト版のデジペchanコミック冊子がキットに付属! 秀吉ワールドへ初めて触れる人にもぴったりな、「秀吉スターターキット」的な内容となっています。

しゅーじからのWSC選出時におけるコメント

 ガチャ、食玩などから塗装済み完成品フィギュアが身近になった今日このごろ。クオリティも年々上がり、その成長過程を見続けてきた「買い手」の眼も厳しいモノになってきました。
 最近は新規参入を果たした塗装済み完成品フィギュア業者が増え、月々(主に月末発売)の商品数も信じられないくらい増えて、フィギュアオタクの自分としてはうれしい限り。より厳選して、クオリティの高い品を買えるワケですから(メーカー側はうれしくないですよね)。
 それはあたりまえのことなんですが、自分が売り手の立場で考えると大変です。お客さんの研ぎ澄まされた眼で見ると、“秀吉”はしょせん素人ディーラー。このモノが溢れる時代に版権キャラクターを作っても、他者と比べられて技術のなさを露呈してしまう。そうなると残る手段は創作(オリジナル)キャラクターだが、その場合も「即買い!」と思わせるほどの造形技術は必要だ。「版権キャラのように既存のストーリーとキャラクター性があって、創作キャラのようにまわりと比べられない独特さを持つフィギュア……そんなものがあるのか? ……あっ、なんだ、単純にその両方を足してみよう!」。デジペちゃんの誕生である。
 秀吉の創作キャラはすべて『デジペchan』の登場キャラ。そうすることでフィギュア作品を作るたびにマンガの世界観も広がり、その結果から生まれたのがマンガ内アニメ『キラリんColor』やその続編『キラキラカラーColor』。デジペワールドが平凡なのんびり日常ペースなら、キラリワールドはお嬢様学園を舞台にした変身アクション、このふたつの世界をベースにすることで、オリジナルキャラは「新キャラ」となり、もはやオリジナルキャラではなくなるワケだ。みごとなひとりコラボ!
 近年、停滞とも衰退とも言われ、何やら暗雲が広がるフィギュア業界(主に塗装済み完成品ですが)。自分はこの業界が好きですし、救われた身ですから、いつの日か恩返しができれば幸いですね。