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WSC #042 間崎祐介

Yusuke MASAKI

[桜前線]

「PVC製モデル時代」を体現する新進気鋭が
ワンフェスとの関わり合いを問われる瞬間

 間崎祐介の人物像を理解してもらうには、その特異なプロフィールを紹介するのが手っ取り早い。
 高校~大学でデザインを専攻するも、大学在籍時に突然「モノ作り系職業としてのフィギュア造形」に興味を抱き、フィギュア造形の経験が一切ないまま、いきなりPVC製品用原型製作の道へ。その後、せっかく内定を取り付けていたデザイン系会社の就職を蹴ってフリーランスの原型師となり、生活の基盤をしっかりと築いたのちに、ワンフェスにてディーラーデビューを果たす……という、一般的な商業原型師とは真逆のルートでワンフェスへ辿り着いた、変わり種中の変わり種である。
 それもあってか当人は「自分はWSCからいちばん遠い存在だと思っていた」と語るが、確かにそれはクレバーな見解かもしれない。これまでWSCは商業活動偏重型の人物を選出してこなかったし、また、歴代アーティストの作風はよくも悪くもピーキーなものが多く、間崎の「ものすごくよくできてはいるけれどプレーンで無味無臭」という作風とは共通事項が限りなく少ない。では間崎を選出した理由がどこにあるのかと言えば、その卓越したマネージメントスキル(後述)と、彼の「ここから先」に対しあえてプレッシャーをかけてみたかった点にある。
 というのも―プレゼンテーション作品となった“ローゼンメイデン シリーズ”は全高130mmのフィギュア7体によって構成されているが、総パーツ数はじつに120にも及ぶ。それを「商業用原型と同様に明確に時間を切り、7体すべてを同じクオリティーで目標時間内に完成させた」というマネージメントスキルには素直に驚かされたが、そこが間崎のストロングポイントであると同時に、じつはウィークポイントでもあると思うのだ。
「ホームランよりも打率が重要」という揺らぎのないスタイルは一見非の打ちどころがないものの、商業的縛りのないワンフェスをまったく同じ方法論で戦うのは、考えようによっては「損失」をこうむっているのではないか? プレーンでクセのない作風は確かにいまの時代向きかもしれないが、ワンフェスにおいてまでもプレーン一辺倒で戦うことが、後年の自身を苦しめることに繋がらないだろうか―?
 そうしたあたりまで熟考した末に、この先のワンフェスでも打率重視&プレーン路線を続けるのであれば、それはそれでもちろんアリだ。
 ただし逆の言い方をするならば、生粋の商業原型師である間崎には、きちんとそこまで考えた上でこの先の造形人生を歩んでいってほしいのである。

text by Masahiko ASANO

まさきゆうすけ1981年4月9日生まれ。オタク趣味には興味がないまま、高校の美術科で彫刻とデザインを学び、美大でインダストリアルデザインを専攻。が、インダストリアルデザインに対し閉塞感を覚えはじめた時期に「モノ作り系職業としてのフィギュア造形」に興味を抱き、フィギュア製品を扱う某メーカーの工房に出入りしはじめる(アマチュアとしての経験を一切持たぬまま、いきなり商業原型をいくつか担当する)。美大卒業時にはデザイン系の仕事で内定を取り付けていたもののそれを蹴ってフリーランス原型師の道を選択、ガチャポン原型などの「名前が出ない仕事」を生業としはじめることに。ワンフェス初参加は'06年[冬]、“TSURUYA☆PLUS”名義にて。この際、創作系美少女フィギュアを10数個持ち込むが苦戦、「PVC製品の原型を手掛けているのに10個程度を売るのにこんなに苦労するなんて」という屈辱感を味わう。'06年12月に“桜前線”の「ひろし」と知り合い意気投合、'07年[夏]のワンフェス終了後から桜前線名義での活動をスタートさせた。

WSC#042プレゼンテーション作品解説

© PEACH-PIT/薔薇乙女製作委員会


ローゼンメイデン シリーズ

※from TVアニメーション『ローゼンメイデン・トロイメント』
ノンスケール(全高約130mm/全幅約270mm)レジンキャストキット


■商品販売価格
ワンフェス会場価格/13,000円(税込)

(※販売は終了しています。なお、このプレゼンテーション商品に関しては、版権元の意向に伴い一般販売は行いませんでした)


 ガチャポンのPVC製美少女フィギュアそのままの、クセがなくプレーンでフラットな「マスプロ商品原型」的な作り―本人自ら「ぼくはWSCからいちばん縁遠い存在だと思っていた」と語るように、ガレージキット創世期からそれ以降を継続的に眺め続けてきたような人(オーバー40世代)からすると、間崎祐介の造形は「ものすごくよくできてはいるけれど、それ以上でも以下でもない」というように見えるかもしれません。
 ただし、120パーツにも及ぶ原型を「商業仕事と同様に明確に時間を切って完成させた」というマネージメントスキルと、「それをもって“ものの怪”が潜むワンフェスに勝負を挑む」というクレバーな戦略に、レーベルプロデューサーは「おもしろい」と感嘆。もっとも、それはワンフェスを商業仕事の延長線上に位置付けていたわけであり、逆の見方をするならば、間崎の「ワンフェスにおける本当の意味での勝負」は、今回のプレゼンテーションからはじまっていくのだと思います。

間崎祐介からのWSC選出コメント

 自分がまさかWSCに選出されるとは思いもよりませんでした。WSCは作家性や個性の豊かな作品が選ばれるものだと思っていましたので。自分は「作家」とも「アーティスト」とも思ったことはありませんし、イベント活動自体も商業活動があってのことです。そんな自分がこのWSCに選出されることは果たしてレーベル的に大丈夫なのかと勝手に心配しています。ただ今回の選出は自分自身ではなく、作品の“ローゼンメイデン シリーズ”に与えられたものなんだろうと思いましたが。
 自分は商業でカプセルやトレーディングといったちいさいサイズを主に製作していました(大きいサイズも手掛けていましたが)。そこで培った経験をガレージキットで生かせないかと思い今回のモチーフを選択しました。
 製作で心掛けていることはモチーフにする作品の雰囲気を大事にしています。少しでもキャラクターの魅力を表現できたらと思い日々精進していますが、いつまでたっても納得いくものにできずにいます。たぶんずっと悩み続けるところだと。今回の作品で少しでもRozen Maidenの世界観や個性豊かな7体のキャラたちの魅力が少しでも伝わったのあればうれしい限りですが……原作のキャラたちは自分が製作したものよりもっともっと素敵で可愛いくて魅力的で、自分の力不足をひしひしと感じています。
 そして塗装をしていただいた「あらくま氏」には感謝の言葉もありません。氏の力添えがなければ今回の選出もなかったことだと思います。
 これをスタートとして精一杯がんばりたいと思いますので、“桜前線”をよろしくお願いします。