 |
|
 |
WSC #043 伊墨浩爾
Koji ISUMI
[R.GLATT-CC]
圧倒的なまでに「硬質的でスタティック」
しかしそこに内包されるやわらかさとダイナミズム
ウィークポイントとストロングポイントがここまで表裏一体の関係にある造形作家もめずらしいのではないか。つまりは、いま貴方の目に見えている伊墨浩爾の「圧倒的に硬質的でスタティック」な作風こそが、伊墨の弱点であると同時に長所でもあるということだ。
そもそも'80年代前半にガレージキットというジャンルが急成長した理由は、「大手マスプロダクツメーカーによる金型成型品では人や怪獣などの生物系キャラクターが上手い具合に再現できない」という致命的欠陥に基づいていた部分が少なくない。
そうした事実が手伝い、ガレージキットシーンではその後長らく「金型成型品では再現しにくいやわらかでしなやかな造形」が偏重的に祀られていくわけだが、それというのはまさしく、伊墨のような「金型成型品でも表現できうる造形作風」の持ち主からすれば、茨の道を歩んでいく旨を運命付けられていたとも言える。
が、伊墨のストロングポイントはやはり、その硬質的でスタティックな作風にある。
そして、「金型成型品でも過不足なく表現できうる造形作風=ガレージキットフィギュアとしては価値がない」というわけではまったくない。
いや、むしろ、伊墨はその「金型成型品でも過不足なく表現できうる」形態のなかに「大手マダクツメーカーによるCAD/CAMを駆使した技術では絶対に表現することのできないもの」を織り込むことにより、ガレージキットシーンに勝負を挑んでいるのである。
もはや禅問答の様相を呈してしまうが、そのじつ、硬質感のなかにやわらかさやしなやかさを、スタティックさのなかにダイナミズムを織り込むことは決して不可能ではない。伊墨はその点に対し非常に自覚的であり、造形物のなかにやわらかさやしなやかさとダイナミズムを表現するために、あえてフィギュアを硬質的かつスタティックなスタイルにて造形し、まるで陶磁器製品に見えるようなレベルにまで磨き上げるのだ。
その姿はある意味“M的”というか、まるで誤解を招くためにひたすら努力を続けているようにも見えよう。
が、伊墨はそこにもまた自覚的である。
なぜならば、己の作風におけるストロングポイントはやはりその圧倒的なまでの硬質感とスタティックさ具合にあるため、だからこそ伊墨は、今日もまた硬質感を演出するためにフィギュア原型をひたすら磨き続ける。たとえその結果誤解が生じようとも、己の資質に自覚的であるがゆえに、伊墨の孤高な戦いはこの先も(心が折れぬ限り)延々と続いていくのであろう。
|
 |
text by Masahiko ASANO |
 |
いすみこうじ●1974年10月10日生まれ。小学校低学年のころに訪れたガンプラブームに「そこそこハマった」のちは、ファミコン~スーファミ~PCエンジンetc.というゲーム道へ一直線。オタク趣味を「人並み」に嗜みつつ、高校卒業後はコンピュータの専門学校に進み、コンピュータ関係の会社へ就職する。'00年ごろ、熱烈な『ファイブスター物語(FSS)』マニアであった職場の同僚に伝道されてFSSファンとなり、“ガレージキット”なるものの存在を知る。その後、FSSの市販ガレージキット製作に熱中するが、「いくら手間をかけて市販ガレージキットを組み立てても“自分の作品”には成り得ないのではないか」という疑問が生じ、'03年ごろから興味対象がフィギュア造形へスライドしていく。'04年[冬]のワンフェスに初めて一般参加したのち、'04年[夏]における『ファクトリーズアライアンス』(FSS関連ガレージキットのアマチュア特別枠)を通じてディーラー的スタンスを体験。'05年[冬]からは“R.GLATT-CC”名義で本格的なディーラー参加をスタートさせる。
|
 |
|
 |
WSC#043プレゼンテーション作品解説 |
|
 |
© 2000 蟹

ヘルズエンジェルのりか
※from イラストレーター 蟹のWebサイト『masked maiden』より
※『masked maiden』Webサイト http://mori.cocotte.jp/
ノンスケール(全高205mm)レジンキャストキット+ヘルズエンジェルのりかイラストポストカード(画/蟹)
■商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/5,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/7,800円(税込)
(※販売は終了しています)
硬質的でスタティックな美しさを前面に押し出した造形と、陶磁器を思わせる独特の“つるてら仕上げ”なフィニッシュワークで「一度見たら絶対に忘れない」作風を武器にする伊墨浩爾。プレゼンテーション作品となる“ヘルズエンジェルのりか”(イラストレーター“蟹”とのコラボレーション作品)は、そんな伊墨の資質が十二分に反映された異色作です。まるでロボットなどのメカ系造形物のように磨き込まれた、3Dプロッタ的な工作機器にて削り出したような(実際にはそのすべてが手作業です)精度の高いパーツ群も見どころですが、硬質感のなかに織り込まれた個性的なデフォルメ技術とデッサン力にも注目してみてください。「硬さを強調することでやわらかさを演出する」という、相反する要素を逆手に取った難度の高いトライアルが実感できるはずです。
また、商品内には、伊墨のフィニッシュワーク作品と同様の網タイツを再現するためのチュール(網目の布地)とミニリボン、さらに、蟹の画によるポストカードも付属します。
|
 |
伊墨浩爾からのWSC選出時におけるコメント |
|
 |
私は造形をする際につねに心がけていることがいくつかあります。
●つねに心がけていること その1「自分の表現をする」
造形とはまったく異なった仕事を10年以上続けていますが、仕事というものは経験上、日々自分を押さえ込むことが求められるものだと思っています。自分を表現するなどとはまったく対極にある状態……。そうした毎日を続けているからこそ、ほかの誰でもない「自分の表現」をすることに強いこだわりを持っています。「自分の表現」ができなければ、造形をやっている意味などなくなってしまいますから。
ちなみに私の場合は、フィニッシュさせることまで含めて、そこで初めて自分の作品になると思っています。私の編み出した(?)「つるてら仕上げ」を、是非『ワンダーショウケース』ブース、R.GLATT-CCブースでご覧いただければと。
●つねに心がけていること その2「成人男性向け要素を抑える」
これは裏を返すと「若い女性向け」を意識するということになるんですが、業界があまりにも「成人男性向け」の造形を量産するのに、正直辟易していまして、それが業界の未来をも閉ざしているのではないかと思っています。
私は業界に新しい層を開拓して、それがどんどん広がっていけば……と思ってはいるのですが、いまのところは、自分の力のなさを呪うばかりです……。
ほかにもいくつかありますが割愛して、そういった私のこだわりの部分が、今回選出していただいた“ヘルズエンジェルのりか”から感じていただければと。肝心の造形に関しては、ぜひ実際に手に取ってなんぼのものかを判断していただけたらよいなと思います。
最後にひとつ。元々「フィギュアというものは表現の作法が閉塞的だ」と感じていた私に対して、決定的な興味を与えてくれたのがWSC#019“ぐりむろっく!”かわにしけんさんのアスカとレイでした。こういうのアリだったんだ、と。そんなWSCに今回選んでいただいたことを大変うれしく思っています。さらに、今回私の作品を見て、造形をやってみようと思う人がもしいるとすれば、これほどうれしいことはありません。
|
 |
|
 |