A[eBXg?

WSC #044 横嶋真平

Shinpei YOKOSHIMA

[剛本堂]

目指すはつねに「設定画を越えた存在」
ガレージキットスピリッツはまだ生きている!

“邪神兵(じゃしんへい)”をアナグラム風にもじってできあがったモデリングネームが“横嶋真平(よこしましんぺい)”。邪神兵とは『機甲界ガリアン 鉄の紋章』('86年)に登場する有機的な敵役ロボットの名称だが、横嶋は「アニメの邪神兵」に魅せられ自らをそう命名したわけではない。「アニメの邪神兵を原型師という立場でアレンジし二次創作した、かつて今池芳章が手掛けた海洋堂製邪神兵のガレージキット(ただし“小比類巻英二”名義での製品)」こそが、横嶋真平というモデリングネームの元ネタなのだという。
 確かに、今池の邪神兵がガレージキット史にその名を残す傑作であることに疑いの余地はない。が、横嶋が40歳以上というのであれば話的に合点がいくものの、いま現在26歳という年齢で大学院に通う、つまりは「今池の邪神兵が世に発表されたときにはまだわずか5歳ほどだった」人間が「今池の邪神兵をリスペクトするがゆえにその製品名を自分のモデリングネームに引用してしまった」というのはかなりトンデモ系な話である。
 が、トンデモ系の話ではあるものの、その事実を知ったうえで横嶋の作品を眺めれば、彼がどこを目指して何とどう戦っているのかは一目瞭然と言えよう。
 横嶋の手掛ける作品形態はいわゆる美少女フィギュアだが、そこに込められた想いやパッションは「萌え」とは対極の存在である。「ガレージキットっちゅうんは設定画そのままに造形すればええもんとちゃうやろ! あと出しジャンケンによる二次創作なんやから、設定画を越えた存在にならんと原型師として負けなんじゃ~っ!!」という、最近の若手アマチュア原型師からすればおそらく暑苦しくて面倒くさささえ感ずるであろう、旧世代的な価値観に則るガレージキットスピリッツ(別に関西弁である必要はないのだが……)が特盛り状態で盛られた、ある意味時代錯誤な想いに基づく造形なのである。
 事実、「顔のかわいらしさやエロの記号」以上に「流れのあるしなやかなポージングとダイナミックな空間構成」に重きが置かれたそれは、オーバー40世代の目から見ると非常に心地よく思えることだろう。
 そして、そんな横嶋の作風が萌え至上主義系の人たちからも同様に支持されているという話を聞けば、オーバー40世代も「ガレージキットスピリッツはまだ死んでいないのかも」という思いにさせられるのではないか。
 つまるところ横嶋という存在は、旧世代と新世代のあいだで断絶しかかっている「ガレージキットの評価軸」を繋ぐ役割を果たしてくれることになるのかもしれない。

text by Masahiko ASANO

よこしましんぺい1982年7月2日生まれ。幼少期から“もの作り”に熱中し、2~3歳のころにはすでに「プラモデルを組み立てて塗装までしていた」という強者。小学校6年生から模型専門誌を購読しはじめ、中学校1年生のときにファンドやスカルピーを駆使したフィギュア造形にも手を染める。大学に進学したあたりからインターネットを通じてワンフェス等のガレージキットイベントにも興味を抱き、'04年[冬]のワンフェスに一般参加し、順当な流れで'04年[夏]より“剛本堂”名義にてディーラー参加をスタートさせる。当初はデフォルメキャラを中心に手掛けていたが、'07年[夏]にて発表したリアル頭身の博麗霊夢(WSCプレゼンテーション作品)が60個を瞬時で売り切り、続く'08年[冬]にて発表した霧雨魔理沙(同じくWSCプレゼンテーション作品)も同様に60個を瞬時で完売するなど、ここ2回のワンフェスで一気に頭角を現したディーラーとなる。現在は大学院に在学中だが、今後は「機会があればフィギュアメーカー系の商業原型も手掛けてみたい」とのこと。

WSC#044プレゼンテーション作品解説

© 上海アリス幻樂団


霧雨魔理沙 松倉ねむver.

※from 同人弾幕系ゲーム『東方紅魔郷 ~the Embodiment of Scarlet Devil.』
1/8スケール(全高200mm)レジンキャストキット


 

© 上海アリス幻樂団


博麗霊夢 松倉ねむver.

※from 同人弾幕系ゲーム『東方紅魔郷 ~the Embodiment of Scarlet Devil.』
1/8スケール(全高200mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/各5,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/各7,800円(税込)

(※販売は終了しています)


 大学院生というスタンスでワンフェスに参加する若手ながら、モデリングネームの元ネタが「かつて今池芳章が手掛けた海洋堂製“邪神兵”のガレージキット(原型師なりの個性的な解釈を造形に盛り込んだ二次創作作品)」に由来するという横嶋真平。プレゼンテーション作品となる“博麗霊夢”と“霧雨魔理沙”(同人弾幕系ゲーム『東方紅魔郷 ~the Embodiment of Scarlet Devil.』に登場する自機キャラクター)はいわゆる流行りの美少女フィギュアですが、「萌え」とは対極に位置する、むせ返るような熱きガレージキットスピリッツこそがこの作品の魅力の源となっています。
 造形作品のネタ選びのセンスと造形作風自体は「イマドキのスタイル」に見えますが、セクシャルな記号よりも「ガレージキットフィギュアとしてのあり方」を重んじたそれは、「古式ゆかしいトラディショナルなガレージキットらしいガレージキット」という言い方ができるかもしれません。

横嶋真平からのWSC選出時におけるコメント

 皆さま初めまして、横嶋真平です。
 いかにも本名っぽいですが、ペンネームです。
 剛本堂というサークルで、作りたいものを作りたいように作っています。
 さてWSC、毎回の選出者が誰かを気にしたりはしていましたが、自分に声がかかるということは予想だにしていませんでした。
 それ以前に選ばれたい、選ばれたくないという気持ちもなかったので、未だに感慨もありません。それでも今回引き受けたのは、踊る阿呆に見る阿呆、やってみるのもおもしろいかなと思ったからです。
 また、作ったものを複製してイベントでそれを売るという一連の行為に若干のマンネリを覚えはじめており、それを破るきっかけになれば、というのも理由のひとつ。そういう意味ではグッドタイミングだったのかも。
 この選択が吉と出るか凶と出るかいまの時点では知る由もありませんが、どちらにせよやらずに済ますよりはよかったことでしょう。
 今回の選出作品である2点については……果たしてこういったものに感想は必要なのでしょうか? 作者は作品以外でものを語ってはいけないと思っています。見た人が感じたものがすべてなんじゃないかな。
 そのためにも、ぜひとも直に見て、手に取り、作っていただきたい。言うなればこれは僕なりの「果たし状」です。受け取り方は貴方次第、真っ向勝負を受けるもよし、尻尾を巻いて逃げるもよし。
 さあ、どうする!?