アーティスト紹介

WSC #047 Fio

[Reply From...]

「万年WSC候補」の汚名(?)を脱し
この先どこまで精進できるかが勝負の女流作家

 Fioの存在をマークしはじめたのは、かれこれ3~4年ほど前であっただろうか。
  まず初めに目に飛び込んできたのは、ガレージキットスピリッツ的な尺度で測ると「ヌルい!」という話になりかねない、ほんわかとした空気感を有する作風。
  が、それをじっくり観察していくと、女流造形作家作品特有の漠然とユルくぽわぽわした雰囲気とは明らかに異なる、造形対象たるキャラクターの絵柄を的確に汲み取りニュートラルに3D化することができる卓越した能力が内包されていることに気付かされるのである。
「……わっかりづれぇ! 超わかりづれえ!! この才能って、いくら言葉でくどくどと説明してもわからない人には絶対にわからないだろうなあ。そういう才能を安易にWSCとして選出するのはさすがにどうかと……う~、これじゃあまるで蛇の生殺し状態だよ……」
  そうした葛藤が幾度も繰り返され、Fioは「万年WSC候補」という微妙な立ち位置に置かれたままいたずらに時間が過ぎ去っていったわけだが、1年半ほど前にぼくが先に根負け(?)してついにプチ逆ギレ。「全体的にほんわかとしているのはOKだけど、でも、たとえば髪の毛が“ふぁさっ”となびくやわらかな表現であったり、腕や脚における筋や肉の連続的な流れの表現であったり、そうした己のウィーポイントに対し真剣に向き合わなければいまのままのレベルで終わってしまうと思う」といった辛辣な言葉を閉場直前のワンフェス会場にて(旦那と共に机に突っ伏して爆睡していた)Fioに投げつけるに至ったのだが―その言葉をどれだけ本気で受け止めてくれたのかは本人に確認していないものの、それ以降の作風にキレ味が増しはじめたのは紛れもない事実であり、それが確認できた時点でついに、ようやく、やっとこさ、「万年WSC候補」というありがたくないレッテルが剥がされるときが訪れたというわけである。
  なお、Fioが女性であることをことさら強調するつもりはまったくないのだが、同人誌の世界に激ウマなオタク画をさらっと描く女流作家がごくごくフツーにいるように、それと同様の状況がようやくガレージキットシーンでも生じつつあるんだなあ……という感慨にも似た気持ちを抱かせてくれたのがFioという存在でもある。
「ポリエステルパテのブロックのなかに削り出すべきフィギュアの姿が見える」という頼もしい発言をそっくりそのまま信じてよいのであれば、その切削精度が加速的に増し、性差どうこうを論じるのがバカバカしくなる地点にまでFioには精進していただきたい次第なのだ。

text by Masahiko ASANO

ふぃお生年月日非公開。小学生時代にファミコンにハマり、以降、「趣味=ゲーム」と即答できるレベルのコアなゲーマーとして過ごす。'02年末、秋葉原デパートのショウケースにガレージキットの完成品が飾られている光景を見て「2Dのキャラクターが的確に3Dへ置換されている」という事実に驚愕(食玩フィギュアなどの存在も知ってはいたのだが、なぜかこのとき突然それに気付いたらしい)、その瞬間に無根拠ながら「自分には自分の好きなゲームキャラを立体化できる才能があるはず!」と固く信じ込み、まったくのシロウトのままフィギュア造形の門を叩くことを決意する。その後、インターネットを通じ造形材料や製作方法などをゼロから調べて習作を手掛けつつ、'03年[冬]のワンフェスを初視察。同会場にて'03年[夏]の参加申込書を購入し、処女作が完成してもいないのにいきなりディーラー参加を申請するという蛮行に出る。そして'03年[夏]、“Reply From...”名義にて初ディーラー参加。専業主婦としての生活をこなしつつも、首までどっぷりと浸かった「日々是造形」な人生へ突入していくことになる。

WSC#047プレゼンテーション作品解説

© ATLUS CO.,LTD. 2007 ALL RIGHTS RESERVED.


アリスとソクラテス

from PS2用ゲームソフト『オーディンスフィア』
ノンスケール(全高90mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/5,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/7,800円(税込)


 対象をギチギチなところまであえて突き詰めない適度な作り込みと、ほんわかとしたやさしい空気感。ガレージキットスピリッツ(つねに圧倒的であろうとする造形精神)的観点で眺めると「……ヌルい!」という話にもなりかねないのですが、Fioが紡ぎ出す作品の魅力は、その「空気感」という何ともいい加減極まりない言葉でしか形容することができない部分に秘められています。プレゼンテーション作品となる“アリスとソクラテス”(PS2用ゲームソフト『オーディンスフィア』にて、あまねく物語を読み解く少女&その友だちの黒猫)は、そんなFioの、女流作家ならではの「対象を包み込む視点」が息づく秀作。やわらかそうな質感にて造形されたソファ+アリスとソクラテスというパーツ構成は、それだけでヴィネット(小型情景模型)と同様の物語性を感じさせます。この作品を通じ、ぜひともその「やさしい空気感」に触れてみてください。

Fioからのコメント

 私は「かわいい」ものが好きです。今回のアリスとソクラテスにはかわいいものが詰まっています。少女と猫と大きいソファ。こじんまりと佇むアリスを皆さまにも愛でていただけたら、と思います。

「かわいい」ということが私のなかですべての判断基準。造形技術が足りてないのも塗装技術が足りてないのも自分たちがいちばんわかっています。だから作り終わったあとはいつも後悔が残るし、反省会まで開催されちゃう。
  それでもできあがったものを1ヶ月後に見直したとき、まだ「かわいい」と思えるようなら私の勝ち!

 今回WSC選出の連絡をいただいたのが後悔で唸っている真っ最中だったから、第一声は「え~!? 正直勘弁して~」でした。
  本当にどうしようか悩みました。
  でもあさのさんの「あなたは万年候補」的な発言で吹っ切れたのです。「いま選んでもらったことに、何かしら意味があるのかな」と。

 もうひとつ。
  私は「削る」という行為が好きです。
  原型製作にポリエステルパテというマテリアルを使っているのですが、ナイフでパテをショリショリと削る感触が好きです。1日経った頃合いが絶妙です。朝起きたら夫の朝食を準備しつつも削っちゃう。寝ぼけているので指まで削る。そんな日々。好きすぎて他の道具を駆使しようとしないため、効率は一向に上がりません。
  思い起こせば固形石けんをカッターで削り、粉石けんを大量に作っては母に叱られるという変な小学生でした。嫌すぎます。模型とまったく関わりのない人生のなかで、ここだけがいまに繋がっている気がします(?)。

 こんな感じで好きなことをして好きなものを作っています。支えてくれる方々に深く感謝しつつ、これからもそんな私でありたいと思います。そうしてできたものが誰かの「好き」になれたらうれしいなぁと思うのです。