アーティスト紹介

WSC #049 のb

[3×3×3]

「ガレージキット=買い手との交流」と考える
コミュニケーション至上主義に伴う才能開花

 スカルピー(造形用プラスチック粘土)を通じて開眼し、スカルピー造形をインターネット上に提示することで不特定多数の観衆から感想をちょうだいする……という、「造形をコミュニケーションツールとして用いる」方向性に活路を見いだした“のb”が、ワンフェスという場に辿り着いたのはある意味において必然だったと言えるだろう。無責任な発言が繰り広げられるだけのネットとは異なり、ワンフェスでは己の造形物に対する意見が生で得られるだけでなく、「己の造形物(の複製品)に対価としての金銭を落とさせることができるか」というスリリングな勝負も伴う。よって、より濃密な造形コミュニケーションを求めるならば、遅かれ早かれディーラー参加に至ることは約束されていたはずだ。
  ただし件のケースで興味深いのは、のbが『よつばと!』(あずまきよひこ作の『月刊コミック電撃大王』連載漫画)を造形対象としたことが、当人が思ってもみなかった方向性での才能開花に繋がった点だろう。
  そもそもは、風香(極めて普通の女の子だがちょっとムチムチな女子高生キャラ)の冬服姿のイラストレーションにグラビア視点で惹かれ、萌え系造形の角度にてよつばワールドと対峙しはじめるも、よつばキャラを「非萌えキャラ」として捉えるよつばファンの買い手からもたらされた反応により、のbはその造形スタイルを大きく変化させていく。よつばファンの多くは、お宝キットを買えただけで満足してしまうような人たちではなく「立体物を手元に置きよつばキャラといっしょに過ごしたい」という感覚で作品世界を愛する人たちであり、結果、のbに向けられる感想や意見は「どうしたらきちんと完成させられるでしょうか?」といった、組み立てキットの作り手=のbに対し救いの手を求めたピュアな質問がその大半を占めることとなった。
  ゆえに、のbはその第一義に「組み立てやすさ」を据えることになり、それを成就させる過程でオーバークオリティーとも取れるキットフォーム(パーツ精度の向上やカラーレジン成型等)とソリッドで無駄のない造形作風を確立させてしまった……ということなのである。
  この本末転倒さ加減と、そこに対応できてしまった器用さがのbのおもしろさである反面、「よつば関連造形から離れた際に彼はどこへ向かうのか?」というところこそが真に注目すべきポイントのようにも思う。この先も一途によつば系原型師に徹し続けてももちろんそれはそれで構わぬが、よつばファン以外からの評価を本気で確認すべき時期に近付いているようにも感ずるのだ。

text by Masahiko ASANO

のぶ1970年9月20日生まれ。「油粘土でまず恐竜の骨を作り、そののち皮を被せる」というようなマニアックな粘土細工を小学1~2年生のころから嗜み、3年生でハセガワ1/72零戦の製作にハマり、4年生でガンプラブーム直撃、中学生のときには海洋堂のガレージキット(『風の谷のナウシカ』等)や『モデルグラフィックス』の雑誌作例から大いに影響を受けるという、いわゆる“エリート造形オタク”的な道を歩む。高校3年生のときにロック(バンドではB.担当)とバイクに傾倒し模型趣味から一時離れるも、21歳になってひとり暮らしをはじめたあたりから再燃。'93年ごろスカルピーの存在を知ったことがひとつの転機となり、「スカルピーで作ったフィギュアをインターネット上で発表し、それを見た人から意見をもらう」というスタイルに楽しみを見いだすことになる。そして、その延長線として「買い手との交流」を主目的にワンフェスへのディーラー参加を決意、'05年[夏]から“3×3×3”名義にてほぼ毎回コンスタントに新作フィギュアを発表しはじめるようになる。

WSC#049プレゼンテーション作品解説

© KIYOHIKO AZUMA / YOTUBA SUTAZIO


よつばとたいふう!

from 『よつばと!』
ノンスケール(全高180mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/9,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/12,000円(税込)

※カラーレジンキャストを使った多色成型製品のため、アーティストとの合議により、品質を安定させるために国内生産を採用しました。結果、他2作品に比し高額な価格設定となってしまった旨をご理解いただければ幸いです


『よつばと!』(あずまきよひこによる『月刊コミック電撃大王』連載漫画)をこなよく愛し、それを造形対象に据える“のb”は、ジャンル分けするならば「対象愛追求型」の造形作家。が、「よつば関連のガレージキットとはどうあるべきか」という求道的スタンスにて作品数を重ねていった結果、当初は拙かった造形や没個性的でしかなかったキットの仕様が驚くべきレベルで成長し才能が開花した……という、対象愛追求タイプに欠落しがちな客観的視点も備え持っている点が特徴でもあります。プレゼンテーション作品『よつばとたいふう!』は、そうしたのbのストロングポイントが十二分に反映された、多色成型レジンキャストパーツが駆使された傑作です。塗装を一切施さなくとも映える多色=7色成型の設計にはじまり、女性をはじめとするガレージキット初心者でも簡単に組み上げることのできるパーツ精度や、ベース(台座)を作品の一部と捉えたグラフィックデザイン的に優れたパーツ構成など、未組み立てのキット状態で眺めているだけでも「……なるほど!」と唸らされること必至です。

のbからのコメント

 はじめまして、のbと申します。まだまだ技術的に未熟な自分がここまで来れたのは、『よつばと!』というすばらしい作品に出会えたからこそだと思います。よつばスタジオ様と、いままで応援してくださったファンの方々、ありがとうございます。
  プレゼンテーション作品となった『よつばとたいふう!』は、模型初心者の人でもなるべくスムーズに組み立てられるよう考えて作りました。いつもはカタチを出すのが精一杯で、毎回悩みまくりながらギリギリまで作っては壊し、作っては壊しを繰り返すんですが、これは不思議と最初から最後まで楽しく作れました。自分としてはめずらしく、どこに出してもはずかしくない子ができたと自負しております(毎回このレベルのモノを作れればいいんですが……)。この『よつばとたいふう!』がガレージキットというめんどくさくも楽しい世界を知ってもらうきっかけになればうれしいです。
  やりたいことはまだまだいっぱいあります。次はもっとワガママな作品になるかもしれません。それでも受け入れられるような魅力的な造型ができるよう、いろんなことを吸収して、これからも進歩していきたいです。
  3×3×3の今後にご期待ください。