アーティスト紹介

WSC #052 ぎあぎあ

[スペアパーツ]

類い希なる「空間構成能力の高さ」こそが武器
グラビア立ちポーズへのカウンター造形に注目せよ

 いまも昔も美少女フィギュアと言えばやはり、“グラビア立ち(「気をつけ」の直立姿勢からちょっとだけリラックスしたポーズ)”での造形が基本中の基本とされている。もちろんそれは、「ダイナミックなポーズを取らせると利益率が悪くなる(それを複製する際のシリコーンゴム型が巨大になるためコスト高になってしまう)」「そもそもダイナミックなポーズの美少女フィギュアはグラビア立ちのものと比べると売れ行きが悪い」といった、これまでの決して短くはない美少女フィギュア史に裏打ちされた、経験則に基づく結果でもある。
  が、しかし。それと同時に、「ダイナミックなポーズや構図は、デッサン力や空間構成能力といった点でボロが出やすい」という、それを造形する側の保身的な理由がそこに存在することも否定できないところだろう。
  つまりは現在、「そつなく上手く、10段階評価で6~7ほど」と見なされている美少女フィギュア系専業原型師のなかには、じつは「グラビア立ち造形だけに特化した、ダイナミックなポーズや構図をひどく苦手とする人たち」が相当数含まれていると思ってまちがいない。
  まずはそういった「普段は気に留めたことがない視点」を設けた上で、“ぎあぎあ”の才能を眺めてほしい。
  ぎあぎあがいよいよ真剣にフィギュア造形へ向き合ったグレーテルを最初に見たとき、彼の心臓の強さと自由奔放な感性に驚かされた。豊富な造形経験を持ち、己のデッサン力や空間構成能力などを正確に把握している者ならばともかく、「フィギュア造形経験がないわけでもない」といった程度の駆け出しが、グレーテルのようなダイナミックな空間構成に基づく作品と向き合うのは極めて困難だからだ。臆して腰が引け、なんとか完成へ持ち込めそうな妥協点に逃げ込んでもおかしくないところなのだが、ぎあぎあは「とくにそうした恐怖心は感じなかった」と、ことのほかさらっと当時を回顧する。
  つまりは、おそらくはサッカーにおけるレジスタ(守備的な位置で司令塔役を担うポジション)的なプレイヤーと同じように、平面的な景色が一般的な人以上に立体的に見えるのであろう―そうでなければ、この空間構成能力の高さにはどうしても理屈が付かないのだ。
  もっとも、あえて明言するならば、いまの作風では美少女フィギュア特有のフェティッシュなディテールの盛り込み方や作り込みに難があるようにも思うのだが、まあ、そこはそれ。世間的な流行に迎合せず、言わば修行僧的に、彼なりの美少女フィギュア像を追求していってほしいと思わせる逸材なのである。

text by Masahiko ASANO

ぎあぎあ1976年9月15日生まれ。父親が玩具関連の仕事をしていたため、幼少期から「玩具の世界にどっぷり浸かっている感じ」の日々を過ごす。中学時代はリアルロボット系アニメとその模型、『ふしぎの海のナディア』などにハマり、高校時代にはオタク仲間と共にさらに深みにハマって同人誌を作りコミケ参加も経験する。同時に、ガレージキットの美少女フィギュア収集にも熱量を傾け、ワンフェスには一般参加者の立場で毎回のように参加。'06年に友人がディーラー参加したときに付き添いで初めて卓の内側に入り、'07年[夏]には、現在の所属ディーラーである“スペアパーツ”の一員として正式にディーラー参加をスタートさせる。なお、これまでは「既存製品と組み合わせる『うしおととら』の武器セット」といったニッチ系作品を手掛けることが多かったが、WSCプレゼンテーション作品となったグレーテルからいよいよガチンコ路線へ推移。「とくにプロ原型師になりたいという気持ちはないので、自分の作品に共感してもらえる人にその複製品を分け与えられればいい」と本人は語るが、今後のさらなる飛躍が期待される。

WSC#052プレゼンテーション作品解説

© 2006 2007 コナミデジタルエンタテインメント/
赤ずきん製作委員会・テレビ東京


グレーテル

from TVアニメーション『おとぎ銃士 赤ずきん』
1/8スケール(全高280mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/9,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/12,000円(税込)


 '07年夏より友人たちとディーラー参加をスタートさせた“ぎあぎあ”は、これまでは試験的な造形物が多く、ガチな意味でのフィギュア造形からはやや距離を置いていた感のある人物。そんな彼が初となる「作品然とした作品」として対峙したのが、プレゼンテーション作品となった『グレーテル』(TVアニメーション『おとぎ銃士 赤ずきん』に登場するキャラクター)です。とにもかくにも、その大胆かつ伸びやかなポージングとダイナミックな空間構成は、一度見たら絶対に忘れられないインパクト充分な仕上がり。アニメーション劇中のシーンをそのままフィギュア化したのではなく、「このキャラクターならばこういう姿が似合うのではないか」といった発想を起点に、ガレージキットスピリッツ&キャラクター愛に基づく制作スタイルもこの作品における見どころのひとつです。作り手の自由奔放さがビリビリと伝わってくる、いまの時代にはめずらしい「ガレージキットらしいガレージキット」と言えるでしょう。

ぎあぎあからのコメント

「自分がほしかったから」
  そんなありふれた単純な理由で僕は原型製作をやっています。

 呼ばれてないのにこんにちはー“ぎあぎあ”と申します。
  ……と言うか、この文章を書いてるいまも「僕がココで文章書いていいの?」とおっかなびっくりしているところです。
  図工の時間、「コレはかっこいい汽車だよ」と、油粘土で作った“溶けかけドラム缶集合体”を先生に自慢げに見せていた……そんな頃に比べれば、「多少は頭のなかのイメージを粘土に出力できるようになってきたかな?」とちょうど思いはじめてきたところでしたので、今回『ワンダーショウケース』選出の連絡をいただいたときは混乱し頭のなかを整理するのが大変でした。
  電話でお話を聞いていても、なんだか誰か知らない他人のことを話されているような、そしてどこか遠い国のできごとのようにお話を聞いていたと記憶しています。

 そもそも僕が立体物に興味を持ち出したきっかけは、偶然出会ったちいさな彩色済みフィギュアでした。当時の私が知っていたのはキン消しなどの無彩色、単一素材一発抜きでしたので、とんでもない衝撃を受けたものです。
  その後フィギュアやプラモデルの収集にどっぷり浸かっていくことになるのですが、当時はまさか自分がフィギュアの原型を作ることになるとは想像もしていませんでした。いま考えると、「知らないうちになんとも遠くに来てしまったものだなぁ」と少し怖くなりますが、もちろん帰り道は分かりませんので今後も前に進むしかないようです(笑)。

 今後は自分がどうなっていくのか想像もできませんが、“自分が”ほしかったで作りはじめたフィギュアが、少しでも“みんなの”ほしかったに近付ければうれしいですし、そうなりえるように今後もがんばっていきたいと思います。