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WSC #053 Walter
[futuristic model kit] 自らの手のみを使った造形でなければNGなのか?
価値観の過渡期に登場した「デジタル造形の刺客」
モノ作りの極みたるガレージキットの世界では、「自らの手のみを使って造形物を生み出す」ということに過剰なまでにこだわる(もしくは自尊心を抱く)人が多い。結果、造形界の常識を覆す革新的デバイスたるデジタル3Dプロッタ『MODELA(モデラ)』や、デジタル3Dスキャナ『PICZA(ピクザ)』が'90年代後半にローランド ディー.ジー.から市販化された際、「MODELAよりも自分の手で削ったほうが絶対に速い=造形にデジタル機器は不要」というような、明らかに誤った評価軸のみでそれらへ徹底的にダメ出しする発言が相次いだのも、ある意味においては必然であったように思う(もっとも初期のMODELAは、革新性どうこう以外の点でダメ出ししたくなるようなシロモノでもあったのだが……)。
ただし、プラスチックモデルやトイなどのプロダクツのほぼすべてが3D CADで設計され、SFX用のミニチュアモデルを製作しない3DCG映画が横行するいま現在、いよいよ「自分の手のみを使う造形」に固執する理由が見えなくなってきたのも事実だ。重要なのは、自分の手を使ったか、手以外の道具を使ったかではなく、じつは結果だけではないのか――この発言を受け入れることのできない造形家がいることももちろん理解できるが、Walterはそうした「造形価値観の過渡期に登場したデジタル造形の刺客」と言うことができるだろう。
フランスに生まれ、東京に在住しながらバンドデシネ(ベルギーやフランスを中心とした地域のコミック)のカラーリストを生業としつつ、「仕事の傍ら3DCGソフトを用い趣味的にオリジナルデザインの3Dデータを作成していたところ、それを立体出力してくれる業者を見つけたためガレージキット化に至った」という経歴も相当に特殊だが、事実上の処女作たる3Dデータ作品の立体出力物と、そのパッケージングセンス&プロデュース能力でいきなりWSC選定を勝ち取ってしまったあたりもまた特異であると言わざるをえまい。「どちらが優れている」ということではなく、おそらくこれから先のガレージキットシーンはやはり、「手のみを使う造形」と「それ以外の手段による造形」が完全な等価となる時代へ突入していくのであろう。
つまりは、その先兵がWalterという存在なのだ。
パストフューチャー(訪れることがなかった未来)感溢れる作風への言及はここではあえて棚上げにするとしても、そういった革新的な先兵が日本人ではなくフランス人であったことに対し、ぼくは少なからずジェラシーを感じてしまうのである。
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text by Masahiko ASANO |
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うぉるたー●1969年2月6日フランス生まれ。子供のころから大のトイ好きで、プラスチックモデル製作や米オーロラ社製モデルキットのボックスアート収集などを趣味とする。美術学校の学生時代にフランク・ミラーなどのアメコミ系キャラクターのフィギュア造形を試みるも、何体かトライしたのみで、とくに大ハマリすることなく造形経歴はここで一旦終了。Macによるデジタル絵画環境が整いつつあった'97年、それ以前の生業であったアメコミ&トイショップ経営を廃業し、バンドデシネのカラーリストへ転身。その後日本人女性と結婚し、ネット回線が太くなり国外でもカラーリストの仕事が続けられる旨が確認できたこともあって、'01年に東京へ移住する。'02年あたりから3DCGソフトを使い趣味としてオリジナルデザインデータを作成していたが、'09年、その立体出力物を使い自身初のガレージキットを作成するに至る。ワンフェスへのディーラー参加は'10年[冬]が初めてで、このときは知人ディーラーにヤドカリ状態での参加であったが、今夏より“futuristic model kit”としての新たなスタートを切ることとなる。
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WSC#053プレゼンテーション作品解説 |
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© ankama japan

AMEISE ROBOTIC
F.360 DELUXE
※WSCアーティスト自身による創作(オリジナル)キャラクター
1/20スケール(全高125mm)レジンキャストキット
■ 商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/8,500円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/10,000円(税込)
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© ankama japan

※「パッケージデザインや組み立て説明書、パーツアッセンブルまで込み込みでの作品」となっているため、WSC専用パッケージではなく、アーティストオリジナルのパッケージのまま販売されます
WSC初の外国人アーティストとなったWalterは、日本に在住しながらバンドデシネ(ベルギーやフランスを中心とした地域のコミック)のペインターを生業とし、趣味として「キャラクターデザイン/3DCGソフト“modo401”を使ったコンピュータ内モデリング/その3D出力物=レジンキャストキットのプロデュース」をひとりでこなす異色作家。3Dソフトを駆使しワンフェスへ打って出たスタイルも興味深いところですが、パストフューチャー感溢れるプレゼンテーション作品『AMEISE ROBOTIC F.360 DELUXE』のトータルパッケージング能力の高さは驚愕に値するはずです。『スチームボーイ』や『鉄コン筋クリート』等の美術監督として知られる木村真二氏が手掛けたボックスアート、ブリスターパック内に美しくレイアウトされたレジンキャストパーツ群、'60年代のイギリスのトイ風デザインの組み立て説明書、エッチングパーツ&デカール等、凝りに凝りまくったその商品仕様にもぜひとも注目してみてください。
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Walterからのコメント |
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People always ask me, "What is 'Futuristic' ?" to me, it's obvious. How could it be otherwise ? Futuristic is a part of me, it grew up with me.
Think Gerry Anderson TV shows, mixed with vintage US comics by Jack Kirby and Wally Wood; plus Corgi and Dinky toys, windup toys, and box art from model kits... Add all this up and you should start to get a picture of what Futuristic means to me.
As long as I can remember, I've always wanted to make my own comics, toys, and model kits. I was searching for a way to create them and I found it the day I started to learn art in school. Then, when I discovered 3D modeling software, I felt like I was building model kits without getting glue on my fingertips. That was a revelation. I could make them move, zoom in on details, alter colors freely... Still, I was missing something: I couldn't hold them in my hands. So, making a garage kit out of my 3D models was the next logical step for me. But I wanted them to be as close as possible to the vintage plastic model kits I love so much. I wanted a box with beautiful graphics (thanks to the brilliant Shinji Kimura), instruction sheet, decals. I guess I wanted the real thing !
These robot model kits are just one piece of the Futuristic puzzle, and behind them there is a story that I hope to tell fully one day soon.
いつも人から「Futuristicって何?」と聞かれるけれど、自分にとっては単純明快。自らの一部であり、共に成長してきたものだからだ。
ジェリー・アンダーソンのTVショー、ジャック・カービーやウォーリー・ウッドの古いアメリカンコミックス、コーギーやディンキートイ、ティントイ、モデルキットのボックスアート……全部ひっくるめてふるいにかけるとひとつのイメージが浮き上がってくる、それがFuturistic。
もの心ついたときからずっと、オリジナルのコミック、トイ、モデルキットを作りたいと思ってきた。頭のなかにあるアイディアをかたちにすべくアートスクールで基礎的手法を学んでいたある日、3Dソフトウェアに出会った。指先を接着剤まみれにすることなく、モデルキットを組み立てているような感覚をもたらすもの、それは画期的な出会いだった。画面のなかでは自由自在にかたちを変えることができるし、拡大縮小、色さえも思いのまま。でも何かが足りない。自分の手に取ることができないのだ。ここからのステップアップに必要なことは、コンピュータのなかに入っているバーチャルなモデルキットをガレージキットとして外に取り出し、そして愛するヴィンテージのプラスチック製モデルキットに限りなく近づけることだった。箱には美しい絵(偉大なる木村真二さんのおかげだ)がほしかったし、組み立て説明書やデカールも入れたかった。そしてついにひとつのかたちになった!
このロボットはFuturisticパズルの一片にしか過ぎず、彼らの背景には大きな物語が存在する。そのストーリーの全貌を話せる日が近い将来訪れることを願って。
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