アーティスト紹介

WSC #057 月桜

[月桜工房]

必要に迫られることで辿り着くことができた
「アニメ系キャラクターフィギュア造形の真実」

 「才能」という観点にてアーティストを選出している以上、その生い立ちなどは基本的には二の次なのだが、再びそこから入らざるをえない人材の登場だ。というのも、WSC#050 カズヨシ、WSC#056 popstick!(てれ+ジャスティス)に続き、月桜もまた代々木アニメーション学院のフィギュア・原型師コース出身だというのだからさすがに驚く。'80年代初頭のガレージキット黎明期における、“造形梁山泊”状態の海洋堂で生じた現象(造形家の卵たちが毎日のように泊まり込みで造形に励み、切磋琢磨を繰り返すことで、美術の成績が5段階評価で1や2だったような者の才能までもが続々と開花していった)を考えれば納得もいくが、やはり、「ライバルたちとの造形漬けの日々」というドーピング的な環境は才能の覚醒を促すということなのだろう。
  事実、月桜自身も「ただ漫然と入学しただけの代アニでの環境が自分の才能を覚醒させてくれた」と認めているのだが、「周囲と切磋琢磨することで自分自身の造形が上達していっている様子が手に取るようにわかり、そこで完全にフィギュア造形にハマってしまった」という言葉には有無を言わさぬ説得力がある。
  もっとも、プレゼンテーション作品となった『化物語』エンディングシリーズを手がけはじめる以前の月桜の造形は、まだWSC選定基準から明らかにかけ離れた地点にあった。過去作品もそこそこ上手いと言えば上手いのだが、「没個性的な、500円ぐらいのPVC製トレーディングフィギュアによく見られる造形」と表現するのがぴったりであり、要は「既存の美少女フィギュアを参考にしながらなんとなくフィギュアを造形している」ということがバレバレの状態であったのだ。
  が、同シリーズを造形するにあたり、独特の絵柄を自分なりに解体~再構築する必要に迫られ(「髪の毛の筋や服のシワなどをどこまで彫刻するか」「どういったポージングで空間を立体的に構成するか」等)、その過程でフィギュア造形の本質、つまりは「アニメ系キャラクターフィギュアの造形は、写実表現をデフォルメしたものの積み重ねとその塩梅にて成立している」という事実を理解するに至った……ということらしい。
  それだけに、月桜はいまようやく造形家としてのスタートラインに立ったばかりとも言え、真の評価が問われるのは化物語エンディングシリーズを完結させたそのあとになるだろう。かつてのような地点に戻ることはないと確信しているが、ぜひともよい意味でこちらの期待を裏切るような飛躍を遂げてほしいものである。

text by Masahiko ASANO

げっか1982年3月11日生まれ。小学生~中学生時代にそれなりにガンプラ製作にハマるも、高校では球児として部活三昧の日々を過ごし、オタク趣味とは疎遠に。短大~編入による大学時代もやはり草野球に夢中であったが就職先に悩み、悩みに悩んだ挙げ句、代々木アニメーション学院 大阪校のクリエイター科/フィギュア・原型師コースへ進学することに。「明確に、原型師を職業にしようと思ったわけではないのだけれど……」という曖昧なスタンスにて同校でフィギュア造形を学ぶうちに、その魅力と楽しさに開眼。そして同校在学時に、同じクラスの友人ふたりと共に“役無聴牌”名義にて'06年夏のワンフェスに初参加を果たす。同校卒業後は造形活動以外による収入源を設けつつ、「アマチュア造形作家として少しでも頂を究めたい」というスタンスにて、'09年夏より“月桜工房”名義にてディーラー参加を開始。すでにフィギュアメーカーからの原型製作の仕事も舞い込んでおり、専業原型師の道を目指すかどうかが問われるタイミングでの『ワンダーショウケース』選出と言うことができるかもしれない。

WSC#057プレゼンテーション作品解説

© 西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト




© 西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト


戦場ヶ原ひたぎ
&八九寺真宵

from TVアニメーション『化物語』
ノンスケール(全高175mm/170mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場価格/6,000円(税込)

※版権元様の意向により、一般販売は行われません

※版権元様から許諾された当日版権による販売数が「30個」のため、誠に申し訳ございませんが抽選による販売とさせていただきます。なお、抽選用に、ガイドブックに抽選番号をスタンプしますので、ワンフェス当日はガイドブックをご持参の上、14時までにWSCブースへお越しください。14時30分に当選した30名を発表させていただく予定です


 TVアニメーション『化物語』のエンディングにおける、ウエダハジメの独特の絵柄―アニメ本編のキャラクター設定画とは大きくかけ離れた、目力をやたらと強め、手足をひょろ長くデフォルメーションした姿―を自分なりに解体~再構築し、それを立体化した作品にてめきめきと頭角を現した月桜だけに、プレゼンテーション作品は当然ながら、化物語エンディングシリーズから。'10年夏と'11年冬のワンフェスにて個人ディーラーで発表した作品を『ワンダーショウケース』用によりブラッシュアップさせた、『戦場ヶ原ひたぎ&八九寺真宵』(第壹・貳話のヒロインと、第參・肆話に登場する迷子の小学生)という2体セットでのリリースとなります。ともすれば「ただ針金のように細いだけ」になりがちなところに絶妙なバネ(しなり)と表情を加えた、360度どこから眺めても破綻しない空間バランスが魅力の逸品。少ない線とディテールにて構成されていながらも多大な表情を醸し出すその造形の神髄を、ぜひとも感じ取ってみてください。

月桜からのコメント

 初めまして、月桜工房の月桜です。まさか自分が『ワンダーショウケース』に選ばれるとは……世のなか何が起こるかわからないものです。いまでもドッキリなのではっと思ってしまいます。なぜそう思うかって、自分は未熟者で全然まだまだだからです。フィギュアを作りはじめたころ、本当に素人で。絵は描けないし、デッサン力も人並み以下なので、どうやれば上手くなっていくかよく考えてたなぁ~。
  そんな人間が『ワンダーショウケース』ですよ! もうすでにプレッシャーに負けそうになってます。
  今回、選出していただいた2作品はマンネリ気味だった造形を変えようと思い製作したものです。元画がいままでと違ったイラストタッチだったため試行錯誤した結果、自分なりにアレンジを多く加えました。ただ元画を見てなんとなく作ってた以前とは違い、よりひとつひとつの要素を吟味して製作した結果、自分でも驚くくらい満足したものができました。
  けど、これは世間的に受けるのか? ただの自己満足なのでは? 不安要素が多くドギマギしてましたが、いろいろ反響が大きくホッとしたのを憶えています。受ければそれでいいわけではないのですが、評判がいいのは素直にうれしいですね。
  最後に。
『ワンダーショウケース』に選ばれることは目標のひとつでした。なので次の目標を見つけつつ、作りたいキャラを好きなように楽しく製作できるよう努力していき、いまの状態に満足せず前回作ったものよりも何かひとつでもより上手く造形していくように挑戦したいと思います。まだまだ未熟者ですがひとつひとつの問題をクリアし、こつこつとスキルアップしていきたいと思っています。
  今後とも、月桜工房をよろしくお願いいたします。