アーティスト紹介

WSC #061 もえのり

[GLEMO]

ちいさなサイズに山盛り状態の先鋭的造形表現
シーンの流行とは一線を画す「異能たる資質」

 フィギュアの造形には、「自分が適切に処理できうるジャストサイズ」というものが必ずや誰にも存在する。絵を描く際に生じるジャストサイズはデッサン力と密接な関係にあるのだが、フィギュア造形の場合はデッサン力どうこう以上に、「造形時にしっくりと手に馴染む大きさ」「顔や髪の毛などのディテールを仕上げていく際に処理しやすい大きさ」というあたりで、自分に適する造形サイズというものが決まってくるところがある。
 この理屈で眺めると、昨今の美少女フィギュアが主に1/7や1/8で占められている理由も見えてくる。デザインナイフや彫刻刀、スパチュラなどでディテールを整えていく際、1/8以下のサイズだと非常に繊細な作業を要求されるため、多くの人が1/8ほどのサイズに行き着くのは至極当然とも言えるだろう(もっとも、「1/8ぐらいで造形しないと迫力に欠けて目立たないため、それよりもちいさいサイズのフィギュア造形はじつは費用対効果が悪い」という理由も見逃すべきではないが)。
 ここまで理解していただいた上で“もえのり”という才能を眺めると、彼の資質がかなり特殊なものであることが多くの人の目にも見えてくるのではないだろうか。
「最初のうちは1/8ぐらいで造形していたんですけど、どんどん縮んでいって1/12に行き着いて……このサイズが自分的にはいちばんしっくりくる感じですね」
 1/12サイズでの美少女フィギュア造形に辿り着いた経緯をもえのりはこう説明するが、まあ、言っていることの意味自体はわかる。「目がしょぼしょぼするような、こまかく繊細な作業がとにかく大好き!」という変わり者がいたとしても、そこには一応納得がいく。
 ただしここで驚いてしまうのは、もえのりの作風である。1/8ほどのサイズでもそれを成し遂げるのが難しい繊細で先鋭的な造形表現を、「これでもか!」と言わんばかりに、カプセルトイフィギュアほどの1/12サイズ内に多大に盛り込んでしまうのだ。脚の絶妙なひねり具合やポージングの妙、リズム感溢れる髪の毛のなびき方、空間構成能力の高さなど、これほどの優れた要素をこんなちいさなサイズのフィギュア内に押し込むことができるというのは、「異能」と定義するしかないだろう。
 以上の話を踏まえた上で、もえのりのプレゼンテーション作品『フランドール・スカーレット』をぜひとももう一度じっくりと眺め直してほしい。作品の見え方とその意味合いが、必ずや大きく変わってくるはずだ。

text by Masahiko ASANO

もえのり1986年3月26日生まれ。高校まではアニメやゲームなどにあまり興味がなかったのだが、大学へ入学してひとり暮らしをはじめたのち、PC系のゲームソフト(いわゆるエロゲー)にてオタク系趣味に開眼。'04年には「エロゲーキャラのフィギュアはガレージキットでしか発売されていない」という理由から、模型製作の経験がほとんどないままレジンキャストキットの製作へトライすることに。結果、塗装まで含め、思いのほか上手く完成させることができたおかげで一気にハマり、2ヵ月に1体ほどのペースでレジンキャストキットの美少女フィギュアを約1年にわたり製作し続ける。その後'05年に一般参加者としてワンフェスへ来場したところ、その熱気に当てられてディーラー参加することを決意。ワンフェスから帰宅した直後から初めての原型製作へ着手し、まずは手はじめに、'06年に名古屋で開催された『ワールドホビーフェスティバル』にて初のディーラー参加を果たす。ワンフェスへのディーラー参加は会場が幕張メッセに変更された'09年[夏]よりスタートさせ、'10年[夏]より“GLEMO”名義での参加となる。

Webサイト http://glemo.net

WSC#061プレゼンテーション作品解説

© 上海アリス幻樂団


フランドール・スカーレット

from 同人弾幕系シューティングゲームソフト
『東方紅魔郷 ~the Embodiment of Scarlet Devil.』
1/12スケール(全高180mm/フィギュア本体は140mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/5,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/7,800円(税込)


 ベースを含まぬフィギュア本体の全高はたかだか140mm。顔面パーツはわずか15mm四方程度しかありません。そんなカプセルトイサイズのちいさなフィギュア内に、繊細で先鋭的な表現を「これでもか!」と言わんばかりに多大に盛り込むのが“もえのり”流の造形スタイル。プレゼンテーション作品『フランドール・スカーレット』(同人弾幕系シューティングゲームソフト『東方紅魔郷 ~the Embodiment of Scarlet Devil.』に登場するエクストラボスキャラ)は、マカロンやドーナツといった洋菓子モチーフのディテールよりも、脚の絶妙なひねり具合やポージングのバランス、リズム感溢れる髪の毛のなびき方などに注目してほしい秀作です。プレゼンテーション写真は真正面からの1枚のみになりますが(この角度が決めポーズなので)、できれば実物をぐるぐるとまわし、360度さまざまな角度から眺めてみてください。眺める角度によってフィギュア全体の表情が大きく変化する、もえのりの空間構成能力の高さに必ずや驚くはずです。

もえのりからのコメント

 皆さまこんにちは。もえのりと申します。こうしてご挨拶できますことを本当にうれしく思います。
 僕が造形をはじめたのは6年前くらいでした。ガレージキットはちょいちょい組んでましたが、イラストとかも描けないですし、作ってみたいという気持ちだけでスタートしました。全然勝手がわからなくて、イベント初参加のときには友だちふたりに徹夜でヤスリがけを手伝ってもらったりもしました。
 別の友だちを無理やり引き連れ、なんとか持ちこんだキットが売れたときは、自分が認められた気がしてとてもうれしかったです。初めて、ディーラーさんの知り合いもできました。いろんなことを教えていただきました。初めて写真も撮ってもらいました。
 そのとき出会ったみんなはいまでもわざわざブースまで来てくれて、僕のキットを買ってくれて、アドバイスをくれて、友だちはいまでもよくつるむ、最高の親友です。
 フィギュアを作り続けていくうちにもっとたくさんの人に見てもらえるようになりました。いろんなところでたくさんメッセージもいただきました。イベント前に本格的に撮影してもらえる知り合いもできました。相方だってできました。両親も姉ちゃんも……いまは見逃してくれています……!
 みなさんがいてくれるから、こんなにも楽しく造形を続けることができました。
 フィギュアは大好きだけど、僕はただのオタクで、だけど僕の作品には、いつもみんなが関わってくれていると思っています。まだいまの僕では話になりませんが、いつか、関わってくれたみんなが誇りに感じてくれるような作品を作りたいです。そんなフィギュアが自分だけでなく、誰かの楽しみになってくれたら、こんなにうれしいことはありません。
 僕はこれからもたくさん作りたいです。胸を張って。そうすれば、みなさんと楽しい時間を共有できるんですから!
 好きだけどやったことないから、で何かを躊躇してる方は、これからぜひやってみてください。経験も知識もなんにもなくても、大好きっていう気持ちがあれば、大丈夫なんですよ。