アーティスト紹介

WSC #065 大林由加子

[zf]

ファンシーテイストな作風に惑わされるべからず
「3Dイラストレーター」という新たなジャンル

 ことワンフェスという特殊な環境においては、“ファンシー”という要素はディスアドバンテージになりかねない。実際に大林由加子の作品を眺めたときに、「……こういうファンシーテイストのものは、ワンフェスではなくデザインフェスタとかに持っていったらいいんじゃない?」という反応を示す人も少なくないはずだ。
 ただし、大林のこれまでの経歴と、その作品が有する真実をきちんと紐解いていくと、彼女の主戦場がワンフェスでなければいけない必然が見えてくるのである。
 学生時代からイラストレーターを目指すも、チャンスをつかめずに就職。結婚を機に仕事を辞め再びイラストレーターの道を志しはじめた矢先、旦那が美少女フィギュアやメカなどの造形を手がけワンフェスへディーラー参加していることを知り、大林も見よう見真似でガレージキット的な造形に手を染めはじめる。
 イラスト描きを生業としてこそいないものの、充分にプロとしてやっていくことができるレベルにあるそれを、大林自らが立体化し、立体的正解値をとことん探求していく行為―絵柄がシンプルでディテールに乏しいゆえ版権キャラクター系のフィギュアファンには見えづらいかもしれないが、大林が日々紡ぎ続けているその行為は、たとえるならば「貞本義行が描く綾波レイの立体的正解値をプロ原型師が延々と探求し続けていく行為」と基本的にはなんら変わりないのである。
 いやむしろ、イラストが内包するそのすべてを熟知している(自分で描いているのだからあたりまえではあるが)大林からすると、2Dで表現できているものがそっくりそのまま3Dへ正確に置換できていない際にはその事実に気付いてしまうため、版権キャラクターを造形するプロ原型師以上に大きなジレンマと日々戦い続けていると言えよう。つまり、自分の作品を楽しげに量産しているデザインフェスタ系の作家とは対極の存在なのだ。
 そうした意味において、これまで幾人も登場してきた「絵も描ける(絵も上手い)造形作家」とは明らかにひと味違った、「3Dイラストレーター」とでも称すべき新たなジャンルを切り開く存在として、大林のこの先には大いに期待している。絵本や児童書の編集者や、ファンシーグッズなどを手がけるプロデューサーが『ワンダーショウケース』に着目しているとは思えぬが、できることならば大林の存在にいち早く気付き、良質な仕事を振ってあげてほしいと切に願わずにはおれぬのだ。
 絶対によい仕事をしますよ、この人は。うん。

text by Masahiko ASANO

おおばやしゆかこ生年月日非公開。小学生時代は永田 萌、中学生時代はいのまたむつみといったイラストレーターに傾倒し、高校~大学生時代には同人誌活動も経験。耽美系の人物イラストを描くことにハマる。その後、「絵を描くことで食べていきたい」と考えるもプロへの道は開けず印刷関係の会社に就職、結婚を機に仕事を辞めイラストに専念することを考えるも、なかなか芽が出ず時間だけが経過することに。が、結婚相手がガレージキット的な造形を趣味としワンフェスへもディーラー参加していたためこうした世界があることを知り、'03年より夫婦二人三脚状態にてキャラクターデザインとその立体化へ従事。'06年夏のワンフェス以降は大林の描く創作系イラストとそれを大林自らが立体化し複製販売するディーラーとして独立し、“zf(ゼフ)”名義にて継続的な活動をスタートさせることとなった。当初は複製品に塗装まで施した完成品販売がメインだったが、段階を踏んだ結果複雑な造形作品にも挑戦していきたくなり、現在では完成品販売とキット状態での販売が等価な創作系ディーラーと化しつつある。

WSC#065プレゼンテーション作品解説

© ユカコ zf


zfスターターキット

from 『ココオトハミング』『HOMETOWN - いつかかえるところ -』『拒魔屋のお守り』
(※WSCアーティスト自身による創作作品)
ノンスケール(最小全高25mm~最大全高80mm)レジンキャストキット9体
+CDサイズ イラスト冊子(オールカラー8ページ)


商品販売価格
ワンフェス会場価格/5,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/7,800円(税込)


 “萌え系”とは対極の存在とも言える、そのファンシーな作風はワンフェスとは一見不釣り合いに感じますが、「盛って削って~」という原型製作のスタイルや、自ら手がけるイラストレーションの立体正解値を探求していくその姿勢は、まちがいなく「ガレージキット」のそれ。“3Dイラストレーター”とでも称すべき大林由加子は、これまでのワンフェスやWSCには存在しなかったタイプの才能と言えるかもしれません。
 プレゼンテーション作品となる『zfスターターキット』は、そんな大林が創作した3つの世界『ココオトハミング』から“viertel note”、『HOMETOWN - いつかかえるところ -』から“七軒の家”、『拒魔屋のお守り』から“拒魔屋家守”というキャラクターをよくばりにもひとつにパッケージングした、大林の創作世界とそこからの造形物をさまざまな角度から味わい尽くすことのできる内容です。さらに、その3つの世界を大林自らが解説した、大林のイラストレーションを全面的にフィーチャーしたCDサイズのカラー印刷冊子が付属します。



立体作品の元絵となったイラストレーションを掲載した、大林自らが編集とデザインを手がけたCDサイズのカラー印刷冊子が付属します

大林由加子からのコメント

 私の作品に、このような機会を与えられたことに対して不安に思う部分もありますが、とてもうれしく思っています。
 私は元々絵を描くのが好きで、どのような生活環境だったとしても、絵を描いて生活できたらよいなとちいさいころから考えていました。
 引っ込み思案な自分なりにいろいろ活動してきたつもりですが、いまに至るまでそれらしい結果はとくに出ず、たまに地元の企業や知人からイラスト製作を受ける程度でした。
 それでも、自分のなかの世界を表現することをあきらめられずにいたとき、ワンフェスの存在を知りました。絵だけを展示販売するよりも、絵を立体化してアピールするほうが見に来る人も多く、いままでに参加したどのイベントよりも結果(立ち寄った人の数や売り上げ)がよく、この活動にわずかな希望を持ちました。
 私の作品は、(いまのところ)すべてオリジナル作品です。私以外は、誰も何も知らない作品ですから、その作品がいろんな人の手に渡っていくのを見るのはとてもうれしい瞬間で、自分のなかの世界が他の人とも共有できる世界になった気がしていました。
 また、ワンフェスに参加することに対して、応援してくれる家族や、毎回立ち寄ってくださるディーラーの方、一般参加の方々との出会いが大きな励みになり、初参加からいまに至る6年間、なんとか参加し続けることができました、本当にありがとうございます。
 現在、WSC選出に対して大きな不安と希望が入り交じる複雑な気持ちですが、その思いが少しでも自信に変えられるように、自分の世界をひとつずつかたちにしていく毎日を過ごしていきたいと思っています。