アーティスト紹介

WSC #066 松原竜太

[三予商会]

造形物が醸し出す圧倒的なまでの「力」の存在
インターネットに一切頼らぬ真意での叩き上げ

 抽象的な表現にはなるが、松原竜太の造形における最大のストロングポイントは「造形に力がある」という点だろう。ことさら強調するほど「巧い」わけでも「上手い」わけでもないし、きらびやかなわけでもない。しかし、同じキャラクターを造形したプロ原型師の作品と松原の作品を見比べたとき、巧さや上手さでは劣っていても、松原の作品のほうが明らかに魅力的に感ずるのだ。
 その魅力の正体、つまりはそれこそが「力」という存在であるわけだが、おそらくそれは、「造形対象となるキャラクターのことを心底愛し、ディテールどうこうよりもひとつのカタマリとして、オタク特有の妄想視点でキャラクターを三次元表現する」という愚直な姿勢が昇華した姿であるように思う。言ってしまえば「……ガレージキット(的造形)ってそもそもそういうものでしょう?」ということなのだが、では、その「そもそもそういうもの=ガレージキットスピリッツ(つねに圧倒的であろうとする造形精神)」を貫き通し、このレベルにまで己を磨き上げたプロ原型師や造形家が昨今どれだけいるのかを考えてみてほしい。巧い人や上手い人は掃いて捨てるほど存在するが、「このキャラクターのことはオレが世界でいちばんよく理解しているんだ!」という無根拠な思い込みをここまでの姿へ持っていくことのできる人物はそうざらにはいないはずだ。
 さらにもう1点松原のストロングポイントを挙げるならば、一見平凡に思えてそのじつ突出した色彩感覚にある。「元画で使われている色をそのままフィギュアに置いていっただけ」に思えるかもしれないが、ビビッドな色を複数用いる際に、大抵の人はそこに(無意識のうちに)恐怖を感じ、どうしても色味を抑えがちになる(実際に、『朧村正』関連のフィギュアは市販のPVCフィギュアにしてもアマチュアディーラー作品にしても、その大半の色味がくすんで濁りがちだ)。松原の場合も単純に心臓が強いだけなのかもしれないが、それでもやはり、「大好きなキャラクターを三次元で表現し切る」という気持ちがあってこそのことなのだろう。
 また、個人運営のWebサイト、ブログ、ツイッター、フィギュア画像投稿サイトなどを駆使した「事前営業活動」がすでにデフォルトと目されているワンフェスという世界において、ネットを一切使わずにここまで叩き上げてきたという事実も信用に値するはずだ。
 中堅にしてすでにいぶし銀的な風格を醸し出しつつあるが、この先はもう少しはっちゃけた造形にて見る者を楽しませてほしいところである。

text by Masahiko ASANO

まつばらりゅうた1975年12月23日生まれ。「幼稚園のころからガンプラに塗装までしていた」という、模型趣味においてはある意味強者。その後もガンプラを作り続け、中学生のときには『ふしぎの海のナディア』のソフトビニール製フィギュアのポーズ変え製作を経験するなど、美少女フィギュアに対してもリベラルな姿勢を見せる。'00年あたりからは『月刊ホビージャパン』の主催する“オラザク選手権”にエントリーし、模型製作のモチベーションが雑誌のコンテスト応募に推移。が、バイトを辞めて暇になった際に「ワンフェスで勝負してみよう」と決意し、'04年冬のワンフェスより“三予商会”名義にてディーラー参加をスタートさせる。当初は創作系ロボットの製作を3回ほど続け、そののちに美少女フィギュア造形へ着手。ヴァニラウェアが開発を手がけたWii、PlayStation Vita用ゲームソフト『朧村正』と巡り会い、己の目指すべき道のりが明確化する。その結果、百姫、鬼助、虎姫、同じくヴァニラウェアが開発した『オーディンスフィア』のオズワルドを製作したのちに紺菊を発表し、このたび『ワンダーショウケース』へ選出されるに至った。

WSC#066プレゼンテーション作品解説

© 2009, 2013 MarvelousAQL Inc.


紺菊

from Wii、PlayStation Vita用ゲームソフト『朧村正』
ノンスケール(全高230mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/8,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/10,800円(税込)

※提灯を点灯させるための青色LEDキャンドルライト(+テスト電池)とリード線は製品内に付属していますが、長時間発光用の電池は別途ご購入していただくことになります


 ブログやツイッターなどを一切活用せず、純粋に己の実力のみでここまで登り詰めた松原竜太は、いわゆる“ガレージキットスピリッツ(つねに圧倒的であろうとする造形精神)”溢れるスタイルを貫き通してきた努力型の造形家。プレゼンテーション作品となる『紺菊』(Wii、PlayStation Vita用ゲームソフト『朧村正』に登場する重要キャラクターの化け狐)は、朧村正のキャラクターをシリーズとして立体化し続けてきた松原がいよいよ「WSC選出基準」へと達した記念すべき逸品です。とくに特徴がなさそうでいてそのじつ特徴的な、キャラクターへの愛情が滲み出たその力強い造形は、朧村正ファンならずとも魅力を感ずるはず。メリハリの利いたボディラインと、もの悲しさを感じさせるたたずまいにぜひとも注目してみてください。
 また、手に持った提灯はLEDキャンドルライト(商品内に付属します)によりゆらゆらと揺らぎながら発光させることが可能で、朧村正の世界観に則りつつ、ディスプレイの際にフィギュアを大いに盛り上げます。

※松原竜太からのコメント

 僕がワンフェスに参加したきっかけは、年齢の割に上達しない自分の技術に対する焦りからだったと思います。いまさらプロモデラーにも原型師にもなれないとわかっていても、ワンフェスという目的を用意して作り続けていれば技術も向上し、なんらかのチャンスもまわってくるのでは、との思いから参加し続けて早十年。今回の『ワンダーショウケース』選出のお話をいただいて、僕のやってきたことが少しは報われたように思います。
 今回選出していただいた紺菊は、『朧村正』のキャラクターからは4体目、ヴァニラウェア開発ソフトのなかからで言うと5体目になります。そもそもヴァニラウェアのキャラクターばかり作り続けている理由ですが、最初に作った百姫がワンフェスで出してきたフィギュアのなかでいちばん手ごたえを感じたからだと思います。それ以前、僕はフィギュアはポリパテのみで作るものだと思い込んでいて、あのドロドロしたもので髪の毛や服のシワを表現することに限界を感じていました。そもそもあんなものでボリュームのある服を作れるわけがありません(個人の感想です)。そのことで、ある失敗をしてしまいいまでもトラウマです。そこから立ち直るべく、「まずは好きなものを作ろう」と作りはじめたのが百姫でした。先の失敗から部位ごとに作りやすい方法やマテリアルを使い分け、普段模型に使わないようなものも使い、そこからとある画期的な造形方法を発見したりもしました。そして完成した百姫はワンフェスでフィギュアとしては初めて完売、自分に合った方法を見つけられました。
 そんな感じで今後も好きなものを自由な方法にて造形を楽しみたいと思います。