アーティスト紹介

WSC #075 萩井 薫

[スタジオ猿分室仮設所+klondike]

上手い下手の基準では見据えることができぬ
「コンテンツ化」が見え隠れする新たな才能

 何やらシリーズ物らしいのだが、『スター・ウォーズ』エピソード4“新たなる希望”のように、それだけを見ている限りではシリーズ何作目なのかがさっぱりわからない類いの映画。たとえばティム・バートンや岩井俊二監督作品のように、キャラクターは懇切丁寧に描写されているのにも拘らず、各々の人物像が劇中を通じてまるで見えてこない状況―我々はこうした奇天烈な創作物に出会った際、その天井知らずな独創性に畏敬の念にも似たリスペクトを感ずることがあるはずだ。
 これと同様の意味において、萩井 薫という造形作家には「これまでの歴代WSCアーティストとはまったく異なるスタイルにて、単なるスカルプターという領域を飄々と飛び越えた格好でのブレイクを果たすのではないか」という期待感を強く抱いている。萩井が生み出すフィギュアがそこを起点として拡張していき、いずれはゲームや漫画、映画などと同様の《コンテンツ》と化するのではないかという漫然とした期待である。
 通常であればシリーズを積み重ねていくうちに向上していくはずの造形表現、デザイン性、デッサン力、空間構成能力等が、5年近く前の作品となるシリーズ第1作目のSoil(ソイル)からこれまでほぼまったく変わりないことも大きな驚きだが、Soilの時点ですでにWSC選出基準に達していたとことも驚異的としか言いようがない。言い換えればこれはつまり、WSCからのラブコールを萩井がここまで数年間にわたり保留し続けていたことにもほかならない。
 また、「13~14歳の少女をイメージして造形している」とは言いつつ、そこから感ずる空気はチェコやウクライナなどに実在しそうな美少女であり、いわゆる「和製萌え系美少女フィギュア」のそれとは対局のイメージを醸し出している点にも大いに注目したい。当然ながら本人的にはここに大きな目論見を仕込んであるのだろうが、そこには安っぽい詮索を加えることなく近い将来明かされるかもしれぬ真実を楽しみに待とうではないか。
 ちなみにプレゼンテーション作品となるCindro(シンドロ)は、シリーズにあって「アンドロイドではない生身の人間」とのことで、そのため他の作品とよくよく見比べると鼻孔が存在している。「シリーズ全作品のクオリティーがまったく変わらない」と言いつつじつを言うと1/6ほど抜きん出たクオリティーを有するCindroがWSCプレゼンテーション作品と化したことの意味を、WSCレーベルプロデューサーであるぼく自身が「その理由をいち早く知りたい」のである。

text by Masahiko ASANO

はぎいかおる1973年9月9日生まれ。音楽業界に就職すべく音響芸術を学ぶ。卒業後、アパレル業界に就職。退職後、5年程衣装造型に携わる。'04年から既存タイトルに属さぬ創作系フィギュアを製作し続けけている。初めてのワンフェス参加は'05年あたり。今後は「より存在を楽しめる、サイズ感の大きいモノ、そしてデジタルモデリングを取り入れ、何でアウトプットするかの選択を楽しみながら、ハード感、ソフト感のメリハリを持たせた作品を生んでいきたい」ということである。アーティストからメッセージとしては、「現在シリーズで作成している少女たちの“バックグラウンド”をひとつのかたちとして、いままで支えて下さったみなさまにお届けできるよう、作業しております。ご興味を持っていただけましたら幸いです」とのこと。

WSC#075プレゼンテーション作品解説

© klondike.Kaoru Hagii. All Rights Reserved.


© klondike.Kaoru Hagii. All Rights Reserved.


Cindro

from WSCアーティスト自身による創作作品
1/6スケール(全高250mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/9,000円(税込)※ワンフェス会場販売分100個限定
ワンフェス以降の一般小売価格/12,000円(税抜)


 彼女(フィギュア)周辺の空気だけが2~3度ほども下がっているような凜としたたたずまいと、血が通っているのかどうかが疑わしく感ずるほどのクールビューティー感。ミリタリー感を醸し出しつつも、単なる戦闘モノとは明らかに異なるその雰囲気
 「まだシリーズ名が決まっていない」という連作シリーズを5年ほど前からスタートさせた萩井のプレゼンテーション作品となる“Cindro(シンドロ)”は、その近作であると同時に、彼女自身も大層お気に入りの作品です。まだまだ荒削りだったり、勢いに任せたスピード感溢るる作風の目立つWSCの中では相当に特異な存在ですが、「ディテールで魅せる」「勢いで魅せる」「繊細さで魅せる」といった方向性とはまったく異なる、「カタマリとしての存在感で魅せる」という手法にぜひとも注目してみてください。ひとつひとつのパーツは月並みに見えますが、それが組み上がったときに生ずる存在感にとにかく圧倒されてみてください。また、作品には繊細な模様がモールドされた専用ベースも付属します。

※萩井 薫からのコメント

  初めまして、Klondikeの萩井 薫と申します。
 いまのいままで版権タイトル作品を作ってこなかったわけですが、決して故意ではありません。当初は「腕が上がったら『うる星やつら』のランちゃんを作るぞ」と思っていました。
 数年間は自分の中にあるものを指の動くがまま、自由に産み落とす作業。そのときは、単純に好きなものをかたち作っていると思っていました。
 しかし、のちに気付きます。
 幼少期から自分の中に知らず知らずに取り込んでしまっていた、「じつはいらない要素を捨てる作業をひたすらしていた」ということに。

「はたして、自分はどんなラインを欲しているのか?」

 とにかく長いこと延々と吐き出していたら、ある日突然見えた……そのようなイメージでしょうか。
 捨てて、省いて、よりシンプルに作り上げたその姿には、「メッセージ(訴えかける)力の強いモノ」が表現されていたように思います。
 以前はいろいろとポージングも付けたりしていたんです。でも、「女の子たちの本当」を表現すると、必然と表情は消えていきましたし、ただの素立ちにすることで、見る人々にさまざまな可能性を持って捉えてもらうことができる。余白があること=妄想力を掻立てます。
 それゆえ、私のキットは皆さんの手によってさまざまな色で表現されていきました。
 私はその、みなさんが考えた世界観を拝見するのもひとつの楽しみにさせてもらっています。
 また、私の腕を上達させてくれたもうひとつの要因は、私の作品を嫌いな人の声でした。これ以上有り難いものはなかったように思えます。
 関心を持ってくださった皆さま、心から感謝します。