アーティスト紹介

WSC #076 うらまっく

[うらまっく]

ただ写実化することだけが「リアル」ではない!
クリーチャー造形の神髄を見せつける異端児

 マグロのような回遊魚は睡眠中も泳いでいないと死んでしまうことは有名な話だが、じつはこれは漫画家にも相通ずるところがある。毎日何かを描き続けていないと、その大半の人はあっというまに腕が錆び付いてしまうのだ。
 “増田 剛”“うらまっく”名義にてアダルト漫画描きを生業とし、副業(?)として怪獣のガレージキット造形に取り組み続けてきたうらまっくはまさしくこのタイプの作家で、育児に追われながらも原稿執筆を絶やすことなく続け、その合間に、まるで「漫画執筆の疲れを造形で癒やす」ように造形に取り組み続けている極めて生真面目な存在だ。
 いま現在彼がモチーフにしているのは『モンスターハンター』に登場するクリーチャー群だが、多少のデフォルメを加えマスコット化こそしているものの、モンスターとしての迫力、不気味さ、ユーモラスさや躍動感、そして(とくにザボアザギルでの)重心移動には目を見張るものがある。さらに、「体表ディテールをいたずらにこまかくして写実的にする」のではなく、むしろ「中途半端で猥雑に成りそうなディテールをそぎ落とすことでディテールにメリハリや強弱を加える」というデフォルメ手法にも注目してほしい。こうした表現はディズニー映画のピクサー・アニメーション・スタジオ作品でも多用されているテクニックであり、「なぜ日本はハリウッドの3DCG映画に追いつけないのか」というヒントにもなっているようにすら感ずるのだ。
 つまりは、おそらくいまの彼には「最高の息抜きとしての造形」があってこそ漫画家と造形作家という二足のわらじが高次な両輪としてリンクしており、そこは理詰めで考えれば至極納得のいく話でもある。
 それゆえにおそらくこその先数年もこの「ちょうどよいポジション」を彼はキープし続けていくように思うのだが、ひとつだけうらまっくに対しあえて無理難題を投げかけてみたい。
 彼が造形のモチーフにモンスターを選んでいるのは根っからの怪獣ファンだからだが、ここであえてひとつ、自分自身の創作キャラクター=色っぽい人妻キャラクターをモチーフにしてみるのはどうだろう? 本人的には「頭の中で描く3D像と実際の立体物にギャップが生じるから女性キャラには手を出したくない」と語るが、大丈夫! アナタほどの才能ならば3体ほど習作を手がければそんなギャップはたちまちなくなるから絶対に平気!
 人妻キャラ人気ディーラーとしてのうらまっく、それはそれで見てみたくないですか?

text by Masahiko ASANO

うらまっく1971年10月21日生まれ。小学生のときから怪獣の絵ばかり描き続け、同時期に『ホビージャパン』と朝日ソノラマの『3D怪獣全集』と出会いガレージキットという悪魔の世界を知る。中学生に入ると海洋堂製の怪獣ガレージキット製作に早くも手を染めはじめ、同時に、紙粘土を使った怪獣造形にも着手。中学時代はその程度の活動に止まるも高校に入ると周囲にオタク仲間が生じ、『コミックマーケット』を通じての同人誌活動をスタートさせると同時に'88年には東京都立産業貿易センターにて開催された第4回ワンフェスに“怪獣無法地帯”として早くもディーラー参加を果たす。ちなみに高校卒業後は美術アトリエに通い、デッサンや平面/色彩構成を学び、のちに東京デザイナー学院を卒業。大手イベント会社に就職し、舞台やテレビの大道具を経験。退職後には某ゲームソフトメーカーにてグラフィックを担当し、退職後に漫画家として独立、現在に至っている。近年は生業の漫画家と並行し造形活動を継続、一般流通作品の原形製作も手がけている。

Webサイト http://uramac.ti-da.net/

WSC#076プレゼンテーション作品解説

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モンハン大辞典セット

from ゲームソフト『モンスターハンター』シリーズ
ノンスケール(ティガレックス=170mm,イャンクック=110mm,ザボアザギル=60mm)


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/9,800円(税込) ※限定数100個のみ販売
諸般の都合により一般販売はありません


 高速で大地を駆け抜けるイャンクック、獲物を狙い上空を飛び交うティガレックス、そして、氷上で不気味に目を光らせるザボアザギル―複数のゲーム筐体を跨ぐ超人気ソフトウェア『モンスターハンター』シリーズに登場するこれらのキャラクターたちを、格好よく、しかもユーモラスでいながら緊張感に溢れるマスコットスタイルにて続々とシリーズ化し続けているうらまっくは、じつはアダルト漫画家と二足のわらじを地で行くというユニークな造形作家。「なぜそんな摩訶不思議な事態に!?」というバックストーリーの部分はアーティスト解説に譲るとして、まずはここに掲載されたクリーチャーたちが醸し出す「3D絵画的な存在感」にぜひとも見入ってみてください。漫画家を生業としている者だからこその「それぞれ独立しているはずのキャラクターを絡め合わせたときに生ずるストーリー性の紡ぎ出し方」は、モンハンマニアならずとも大いに参考になるはずです(ちなみに3体が配置されている飾り台はWSC用の造り起こしであり、プレゼンテーション作品には付属しません)。

※うらまっくからのコメント

 どうも、うらまっくです。本業は漫画家でして、地道にアダルトな漫画を描き続けております。ワンフェスとの付き合いは長く、'80年代後半より“怪獣無法地帯”なるサークルで参加を続け(途中途切れた時期もありましたが)、2012年より屋号を背負ってソロ活動をはじめました。
 元々はウルトラ怪獣中心で造形活動をしていたのですが、友人の勧めで『モンスターハンター』というゲームに触れ、その世界に息づくモンスターたちにウルトラ怪獣と同じ匂いを感じ取って惚れ込んでしまいました。個々の個性が強く、ときに恐ろしく、ときに愛らしい。かわいいヤツらです。
 カッコいいモンハン造形作品は多くの方が作られるのですが、凶暴性や愛らしさを読み取って強調し、デフォルメに落とし込む。それが自分の表現スタイルです。

 さて、WSCの存在はなんとなく知ってはいましたが、自分には無関係の世界だと横目で眺めてる程度でした。そもそも自分のような泥臭くて古いタイプのガレキ世代の作品はワンフェス会場内の大半を占める華やかな女の子フィギュアとはまったく正反対の世界ですし、今回声を掛けていただいて
心底驚いてしまいました。ひとつのことを長く続けているとおもしろいこともあるものですね。
 ちなみにアーティスト写真を見た息子が大爆笑していました。「父ちゃんアーティストっぽい!」だと。

 撮影会で海洋堂の宮脇センムに対し「初期海洋堂の速水仁司さんや外川 祐さんの作品に惚れ込んで造形をはじめて、いまも続けてます!」と伝えると、返ってきた言葉が「それ、いちばんあかんやつやん!」でした。いまの時代、商業的に……という意味でしょう。だから自分のキットは売れないのか~と妙に納得です。

 センムのお言葉で開き直れました。ありがとうございました。今後もこのスタンスで続けます。
 あかんやつですが、これからもどうぞよしなに。