アーティスト紹介

WSC #078 岩元邦仁

[キロハナ]

「仕事の造形と趣味の造形」の明確な使い分け
ベテラン原型師だからこそ辿り着いた新たな境地

 「岩元邦仁」でインターネット検索をかけると、岩元が複数のフィギュアメーカーを通じこれまで世に送り出してきた塗装済み完成品フィギュアを10体以上簡単に探し出すことができる。つまりはそれだけのキャリアを有したプロ原型師であり、なぜそんな岩元をいまごろ『ワンダーショウケース』に選出したのか、そして岩元自身がこちらからのオファーをなぜ断らなかったのか、疑問に感ずる人も少なくないだろう。
 実際の話、(上記したようにネット検索で探し出すことができる)岩元が原型製作を手がけた塗装済み完成品フィギュアは、そのどれもが安定感に溢れ非常に高いクオリティーを有する反面、とくにこれといった特徴がなく、あえて辛辣に言うならば没個性的だ。ただしある意味優良ブランド的存在でもあり、「岩元が原型製作を手がけているのであればまちがいない」といった感じで岩元作品を盲目的に信頼しているファンも多いのではないだろうか。つまるところ『ワンダーショウケース』とは最も縁が遠いタイプの造形作家とも言えるのだが、彼が'14年夏のワンフェスに出品した自身初の創作キャラクター作品であり、結果的にWSCプレゼンテーション作品ともなった“ハゴロモちゃん”をワンフェス会場で見つけたときには心底驚かされた。
 「……ああ、仕事の造形と趣味の造形では、ここまで作風やコンセプトが異なるのか!」と。
 仕事としての造形における岩元は、「ひたすら元絵に似せる=そのキャラクターを愛する人に受け入れやすい造形」を心がけている。言うなれば、アニメ系キャラクター造形におけるプロ原型師の鑑とも言えるスタイルだ。しかしハゴロモちゃんを通じ世に初めて公表したその趣味としての造形は、「仕事としての造形ではできない(クライアントや購買者に求められていない)こと」や「昨今の(己すらも含む)均一的な造形へのアンチテーゼ」に満ち溢れたロックンロール的芳香が漂う。ディテールが極めて繊細、キャラクターデザインの完成度が高い、クリアーパーツの使い方がユニーク、といったことよりも、「ワンフェスでしかできないこと」を本気で模索しはじめたスタイルに感銘を受けたのである。
 「ワンフェスでは、もう今後は版権キャラクターは作らない」と断言したわけではないので、ハゴロモちゃんに続く創作キャラクター造形を次にいつ見ることができるかは分からない。しかし当人の口から「アイディアは溜まっている」という言葉が聞けている以上、この先の創作キャラクター造形に対しても期待してよいはずだ。

text by Masahiko ASANO

いわもとくにひと1970年7月16日生まれ。小学5~6年生のころにガンプラブームを体験したが、ハマり方具合的には「ぼちぼち」程度。その後、『超時空要塞マクロス』の影響から代々木アニメーション学院へ進むもアニメーターにはならず、25歳ぐらいまではアニメ鑑賞やプラスチックモデル製作を嗜みつつフリーターとして過ごす。が、アニメーターの友人がいたためワンフェスやJAF・CONへの一般参加は経験したことがあり、'00年冬のワンフェスに『ルパン三世』TV第2シリーズ最終話「さらば愛しきルパンよ」に登場するロボット兵シグマを持ち込み初ディーラー参加を果たす。その際の楽しさに取り付かれ、以降のディーラー参加も決意、深夜アニメにハマってからは『キディ・グレイド』などに登場する美少女キャラクターの造形へ推移していくことになる。その後、フィギュアメーカーの目に留まり複数のフィギュアメーカーの仕事をこなしつつもワンフェスへのディーラー参加は継続し、'15年1月にアルターへ入社。仕事での造形とワンフェスでの造形は切り分けたかたちで、今後もワンフェスへのディーラー参加は続ける予定だという。

WSC#078プレゼンテーション作品解説

© KILOHANA/kunihito iwamoto 2016


© KILOHANA/kunihito iwamoto 2016


ハゴロモちゃん

from WSCアーティスト自身による創作作品
ノンスケール(全高165mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/23,900円(税込)
※ワンフェス会場販売分50個=総生産数50個完全限定
(過剰なまでに繊細、かつ、細小で多大なパーツにて構成された特殊な高額未組み立てキットゆえ、ワンフェス終了後の追加生産はいまのところ予定されていません)
ワンフェス以降の一般小売価格/29,000円(税抜)


 すでにプロ原型師として数々の製品を複数のフィギュアメーカーより世に発表している岩元が、採算度外視にて「ワンフェスだからできること、ワンフェスでしかできないこと」を模索しはじめた創作キャラクター、それが今回のプレゼンテーション作品となった『ハゴロモちゃん』です。ちなみにハゴロモ(ビワハゴロモ)とは東南アジアに生息する蝉科に属する思議な(ある意味毒々しい色彩のユーモラスな)昆虫で、そんなハゴロモをモチーフに用い孤高たる戦士的なイメージを彷彿とさせる凛々しい妖精(?)へと擬人化させたその柔軟な発想と、全高わずか165mmというサイズとは信じられぬ繊細な造形はとにかく驚愕もの。さらに、フィギュア本体だけがパーツ化されているのではなく、腰掛けている樹木やその樹木を這うカタツムリなど、作品を構成するすべてのパーツが成型品として付属しているのも特筆すべき点です。
 そして、頭髪、服装、羽根、靴、カタツムリなどの、ほぼ半数にも達する多数の部品がクリアーパーツにて成型されたそれは、塗装をせずただ接着して組み上げただけでもアート作品的な芳香が漂います。

※岩元邦仁からのコメント

 初めまして、キロハナの岩元です。
 歳を重ねるたびに人見知りと老眼がひどくなる今日この頃です。このたびはWSCに選出いただきありがとうございます。今回が初めての創作作品でした。やりたい気持ちはだいぶ前からあったのですが、持ち前の腰の重さで時間が経ってしまいました。きっかけは、版権モノに少々疲れてしまったのと、ワンフェスの抽選に落ちて1回休みになり、自分の方向性を改めて考えたためだと思います。
 今回のモチーフはハゴロモ、ビワハゴロモです。東南アジアなどに住む、多種多様でそれぞれ奇妙でカラフルでユーモラスな昆虫です。でもモチーフが羽の形ぐらいしかなんだか残ってないような……。
 WSCのプレゼンテーション作品化にあたっては、初出品時から時間が経っているので、デザイン、ポーズ、脚のラインなどに少し手を入れました。塗装も変えたのですが、自分はあまり塗装をやらない未熟者なので、お手にした方は自分の好きなように塗っていただけたらうれしいです。
 創作キャラクターの製作にあたっては、自分の好きなモノの要素を入れたいと思いました。昆虫、動物、樹木、花、鉱物、ミリタリー、ファッション(プレタポルテ、オートクチュール)、Perfume(3人組)、『有吉弘行のSunday night dreamer』、エレ片のコント太郎……? など。今回はシンプルなものですが、どれかが少しずつ入っています。アイディアは溜まっているのでこれから展開していきたいです。
 自分がここまでやってこれたのは、いろんな方々のおかげにほかなりません。イベントを手伝ってくれる仲間、スカウトしてくれた萩さん、仕事で関わった皆さん、会社の同僚、上司の方々、知り合いのディーラーさん、ブースに足を運んでくれる皆さん、この場をお借りしてお礼申し上げます。本当にありがとうございます。そしてこれからもよろしくお願いいたします。