アーティスト紹介

WSC #080 sai

[アリヌとsaiの工作部屋]

アナログ時代のセンスをデジタルへ「完全置換」
急成長ぶりが誰の目にも見て取れる期待の新鋭

 いまや「旬な新進プロ原型師のひとり」と化してしまったsaiをこの期に『ワンダーショウケース』へ選出するのは、正直な話、「ちょっとタイミングを逸してしまったなあ……」と言わざるをえない(それはぼくの個人的都合ゆえに生じた前回の1回休みからの影響が大きいので、ひたすら平謝りするしかないのだが)。
 ただし、これはある意味言い訳にもなってしまうが、次期WSCアーティスト候補としてsaiをマークしはじめたのが2年半前の'13年夏のワンフェスであったことと、saiを実際に選出するまでにここまで時間を費やした理由にはきちんと触れておかねばなるまい。
 '13年夏のワンフェスにWSC#064 ウミヤマヒロシと共に“こねっか~ず”の一員としてディーラー参加していた際、ボリューム感の的確な把握とその再現性、柔らかみのある造形(作品は『化物語』の忍野忍)にてそのときすでに次期WSCアーティストの最有力候補のひとりに挙がったものの、さまざまな理由から惜しくも選外に。そして、そのときはまだアナログ造形であったのだが、直後から3ds Maxを使ったデジタルモデリングに移行したことを人づてにて聞かされる。アナログであろうとデジタルであろうとどういった手段で造形するかは本人の意思や都合の問題なのでそこはなんとも思わなかったのだが、デジタルに切り替えた直後はデジタル化に試行錯誤している様子(アナログ造形では絶対に生じないであろう悪い意味での実験的表現)が、その後も「おそらくは、頭の中に思い描いている完成予想図と実際に3Dプリンターから出力されてきた造形物にまだギャップが存在しているのではないか?」という感覚が見て取れたため、正式なオファーを出すまでにここまで時間がかかってしまった……ということなのだ。そもそもアナログ時代からその立体把握感覚と柔らかみのある造形は人一倍優れていたので、それがそっくりそのままデジタルで再現できるようになったのだから、saiを『ワンダーショウケース』へ選出するのは我々的には必然以外の何ものでもなかったというわけだ。
 じつの話、プレゼンテーション作品となった宮内れんげですら「最新型のsaiの造形」とは言い難い(プレゼンテーション作品化にあたりリファインが入ったが、何せ、最初に造形されてから1年半が経過しているわけだから……)。そして、最近発売になった某フィギュアメーカーの新作では造形力の大幅な向上が見て取れ、彼の造形がまだまだ現在進行形であることに大きなよろこびを感じていることも最後に記しておきたい。

text by Masahiko ASANO

さい1990年8月15日生まれ。小学3年生のとき、父親がガレージキットイベントへディーラー参加するような友人と知り合い、歳不相応な造形マニア道へ邁進。プラスチックモデルにエポキシパテを盛りつけて創作ロボットを製作したり、中学生のころにはシリコーンゴムの半面型にエポキシパテを押し込む複製なども経験する。また、同時期に世の中でギャルゲーが流行りはじめ、『D.C.~ダ・カーポ~』にハマったことで、雑誌に掲載されていた作品を真似て美少女フィギュア造形にも着手。その後も美少女フィギュアの習作を造形し続け、'10年5月に開催された『トレジャーフェスタ in 有明4』に『東方Project』の伊吹萃香と封獣ぬえを初のガレージキット作品として出品する。同年夏のワンフェスにもディーラー参加して造形で食べていくことを決意し、'12年、デジタルフィギュアデベロッパー会社のKneadにアルバイト期間を経て就職。そして'14年にはKnead退職後にアルターへ転職するも、今後も会社での仕事とは別にアマチュアディーラーとしての活動は続けていきたいという。

WSC#080プレゼンテーション作品解説

© 2015 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合二期


© 2015 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合二期


宮内れんげ

from TVアニメーション『のんのんびより りぴーと』
1/8スケール(全高145mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/7,500円(税込)※ワンフェス会場販売分100個限定
ワンフェス以降の一般小売価格/9,800円(税抜)


 典型的な、イマドキの美少女キャラクター造形の秀作……と言ってしまえばそれまでかもしれませんが、アナログによる古典的な造形からデジタルツール(ちなみに使用しているのは3DCG統合型ソフトウェアの3ds Max)を駆使した最新の造形への切り替えに対し人一倍試行錯誤を繰り返し続けたsaiが、ようやく自分なりの結論へと辿り付いた造形スタイルにて生み出したターニングポイント作となったのが、このプレゼンテーション作品『宮内れんげ』(TVアニメーション『のんのんびより りぴーと』のヒロイン)です。柔らかみと暖かさに溢れるほっこりとしたキャラクター本体の造形ももちろんですが、カッチリとしたディテールにて仕上げられたデジタル造形ならではのランドセル(そのパーツ構成や精度は、まるで金型整形によるプラスチックモデルのよう!)やリコーダーなどの小物の造形も見どころのひとつ。見ようによって、そして考えようによっては、「ワンフェスにおけるモデリングスタイル(アナログ×デジタル問題)のこれから」をいろいろと想像させる作品と言ってよいかもしれません。

※saiからのコメント

 にゃんぱす。初めまして、saiです。
 造形は楽しいです。表現すること、再現すること、盛る削るという行為が楽しい、いろいろな楽しみがあります。
 少し前は、表現を認められたい、自分が前に出たいって感じでした。でもそれをなんでもかんでも押し付けるのも違うなぁと思って。
 今回は『のんのんびより』を見て感じたまんまのれんちょんを形にしたくて、ちゃんとキャラを尊重しようと思ったんでしょうね。だからって自分を抑え込んでというのではなく、表現と再現をいい感じに両立したいなって。
 キャラクターの魅力ってなんでしょう。声や性格や口ぐせ、仕草とか趣味や食べ物や服の好みとか、いろんな要素がキャラクターを成して、だからアニメのカット以外でもいろんな姿が思い浮かぶんですかね。そういうのを伝えられたらいいなと思うんですが、難しいですね。こだわりや表現も大事にしたいですが、一方的になりがちで。
 キャラを尊重しつつ、でも自分が作る意味や価値……っていうのじゃないんですけど、何かしらの何かをほんのり付加できればと思うんですが「何か」って何でしょうね。指差して説明しても「このへんの何か」としか言えないんですけど。このへんにぼんやり何かが詰まってます。僕の思う「何か」と皆さんが作品を見て思う「何か」が繋がっていたら最高にいい感じです。違っても何か心に触れるものが、僕も知らない新しい何かが生まれたなら、それも最高です。
 あ、もちろんゴリゴリに自分を出したのも好きですよ。あれもこれもやりたいことのうちのひとつ。
 作品毎にテーマを持ってやっていますが、最近やっと全部ひっくるめた本当にやりたいことが見えてきた気がしなくもないような。それを見出せたら最強に楽しく作れるんじゃないかなとか思ってます。
 また、このような機会に巡り会えたのも、いままで出会った多くの方々の支えがあったからだと思います。
 本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします。