アーティスト紹介

WSC #084 つるぎ だん

[つるぎや]

「巧い」と「すごい」のミリメートル単位の境界線
そこを1年がかりで越えてみせた実力派系苦労人

 ある意味、歴代WSCアーティストの中ではめずらしい「実力派系苦労人」である。じつは役者を生業としているという時点でかなり特殊な人材でもあるのだが(もっとも、よくある話で主な収入源は役者業以外のアルバイトに頼るところが大きいそうだが)、'07年冬のワンフェスより、イラストレーター藤沢 孝の創作デザインによる宇宙服少女にて本格的な造形活動をスタート。その後いくつかの版権タイトル系作品を挟みつつ、'13年冬に同宇宙服少女の完全リメイク版たる《橙》、'14年冬に《黒》、'15年冬に《緑》の新3部作を発表~完結させるも残念ながらほとんど注目を浴びることができず、「仕方がないので(たまたま事前に別件で名刺交換をしていた)『レプリカント』の編集長に自らコンタクトを取って嘆願し、同誌に件の新3部作をスタジオ撮り下ろしの写真で掲載してもらいオチを付けた」のだという。
 そもそも創作系キャラクターを造形対象としている時点で不利であったわけだが、デッサン力的にも造形力的にもプロ原型師と同等の実力を有していたのに、なぜつるぎの作品はそこまで陽の目を見なかったのか? その答えは、「造形物から本人の生真面目さだけが多量に滲み出てしまっていて、ケレン味や粗密感(造形作品としてのエンターテインメント感)が明らかに足りていない」という点にあったように思うのだ。
 ちなみにぼくは(先のレプリカント掲載の件を知らず)'15年夏のワンフェス会場で件の宇宙服少女新3部作の展示を目撃、「本人が本人のウィークポイントに気付いてそれを克服することができればWSC選出基準に達することができるはず」と考えWSCの名刺を渡し2~3分ほど立ち話をして別れたのだが、その一週間ほどのち、つるぎからぼく宛に直接メールが届くことになる。
 「……すでに次期WSCアーティストの選考は終了している段階かもしれませんが、非常に申し上げにくい申し出ではありますが、仮に“立候補”という状況が許されるならぜひ私は手を挙げたいと思い、メールさせていただきました。WSCに選ばれたらどのように世界が変わるのか、あるいは変わらないのか、新しい世界(変化)をぜひ見てみたいと思っています」
 そこからちょうど1年。自らのウィークポイントをしっかりと解読し地道な努力の積み重ねで見事克服することにより、ここにこうして第32期WSCアーティストとして彼を選出できたことをぼく自身もうれしく思う。
 もっとも、WSCに選ばれたらどのように世界が変わるのか──そこは貴方の今後の努力次第であるはずだ。

text by Masahiko ASANO

つるぎ だん1971年10月5日生まれ。それほどオタク属性の強い人物でなかったものの『宇宙刑事ギャバン』のコンバットスーツの格好よさに一発で魅了されてしまい、中学校卒業時にはジャパンアクションクラブへ入るか本気で悩むレベルのガチな特撮マニアへ。高校は映画研究部のある私立高校へ進学。が、実際の映研はやる気のない連中が多く失望したのだが、同じクラスに特撮好きがいることを知り意気投合。その彼が美術部に属していたため、「美術部の活動」の名の下に映画を撮ったり同人誌を作成したり自由奔放な創作活動を行う。大学は普通大学へ進学したものの入学前から「将来は役者になる」と心に固く決めており、3回生のときに役者の養成所に合格、卒業と同時に役者の道へ。ワンフェスへは'80年代中盤の東京都貿易産業センター開催時代から一般参加をしはじめ、'07年冬より知人との共同参加のかたちでディーラー活動をスタート。現在の“つるぎや”名義での参加は'11年冬~。今回のWSC選出を機に「役者活動は縮小するかも」とのことだが、それだけは避けてほしいというのが本音である。

ツイッター https://twitter.com/prahs230

WSC#084プレゼンテーション作品解説

© 藤沢 孝




© 藤沢 孝


宇宙服少女 -休息-

from イラストレーター藤沢 孝による創作キャラクター
ノンスケール(全高90mm)レジンキャストキット+藤沢 孝 描き下ろしイラストポストカード


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/13,500円(税込) ※ワンフェス会場販売分80個限定
ワンフェス以降の一般小売価格/17,500円(税抜)


 自らWSCアーティストに立候補するも、「現段階の実力ではWSC選出基準に達していない」という理由に基づきそれを却下されたところから、つるぎの「WSC選出を明確に見据えてへの一念発起チャレンジ」がはじまりました。そしてその一念発起は丸1年の歳月を費やし見事結実することとなるのですが、つるぎの過去作品を知る人からすれば、WSCでのプレゼンテーション作品となった『宇宙服少女―休息―』(イラストレーター藤沢 孝による創作キャラクター)におけるメリハリと抑揚が利いたその造形に彼の成長ぶりが見て取れるはずです。わざわざ言うまでもなくそれは宇宙服の造形に顕著であり、硬質的なパーツと布的な部分の質感表現の違いや、情報量過多ではあるものの決してやりすぎには至っていないディテーリングはこれまでの彼の造形とは明らかにグレードが異なっていると言えるでしょう。
 さらに、ヴィネット(小型情景模型)仕立てによる同作品は、フィギュア本体の造形だけではなく「単なる小物を通り越したひとつのキャラクター」として緻密に計算されたヘルメットの造形にもぜひとも注目してみてください。

※つるぎ だんからのコメント

 誰しも少なからず願望というものがあって、宇宙飛行士になって宇宙(そら)から地球を見てみたいとか、オリンピック選手に選ばれたいとか思っていたり、歌が上手いのならミュージシャンだっていいし、本が好きなら物書きだって、映画監督だっていい。スナフキンのような旅人になるのも悪くない。
 それが自分の場合、役者であり、モノ作りなんだろうなぁ、と。
 役者では結局華を咲かせることはできなかったけれど、今回WSCのお話をいただいて本当にうれしくて、連絡をいただいたときギャグ漫画のように小躍りしたくらい(苦笑)。いつかはほしいと思っていたもののひとつ。それが叶いました。
 おもしろいことをしたい、それを見てくれる人にもおもしろがってほしい。おそらくモノ作りをしている人はみんな、そう思っているはずです。自分の作品を好きになってくれる「誰か」がいるって、すごいことじゃないですか。
 創造する世界においていつまでもワクワクしていたいです。
 でも、まだまだ自分はその旅の途中なんだなと感じます。
 今回WSCに選出していただいて分かったことは、「結局ずっと最後まで作り続けていくんだろうな」ってことでした。

 藤沢 孝さんとご縁があって、無理を言ったり迷惑をかけたりいままでお付き合いいただきありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします!
 イベント会場でアドバイスをくれたあなた、ねんど会で話を聞いてくれたあなた、買ってくれたり新作待ってますと言ってくれたあなた、なかよくしてくれるあなた、みんなのおかげです。
 そして「とくに言うことはない(本当はあるけれど)」といままで見逃してくれた両親へ感謝を込めて。