アーティスト紹介

WSC #085 あいし

[うねり階段]

「超秀才型」ゆえになかなか越えられなかった壁
いまこそ猛プッシュをかけるべき才能がここにある

 「センスがよくて一見天才型に思えるのだが、じつは器用貧乏な超秀才型」。'12年冬のワンフェスにあいしが出品した、ひょろひょろと細身にアレンジされた初音ミクを見た際に、ぼくは彼の資質をそのように捉えた。実際にその後も次期WSCアーティスト候補としてチェックし続けていたのだが、どうしても最後の一線を飛び越せない期間が長らく続く。「……もしかしたら、美術的表現における何かしらのコンプレックスが彼の足を長らく引っ張っているのではないか?」。そんな思いを漠然と抱きつつも、今回のプレゼンテーション作品となった“シンシャ”がWSC選出基準をいよいよもってクリアしたため、ようやくあいしをWSCアーティストとして選出するに至ったというわけだ。
 しかし今回彼を選出したのちに(プロフィール&アーティスト解説執筆用に)ヒアリングを行ったところ、「小学校3年生のときに同じクラスにとてつもなく絵が上手いヤツが現れ、それまでの『自分、イケてるじゃん!』的な心がポッキリと折れてしまった」とのことで、自慢するわけではないがやはりぼくの見立ては正しかったことになる。そしてその体験に基づき、以降は「他人が容易に真似できるような創作活動は絶対にしたくない」と考えるようになり、「WSC#006 臼井政一郎やWSC#034 石長櫻子の造形のように元のデザイン画を一応は踏襲しつつも、それを自己流にアレンジしそれが世間一般に対しきちんと認められるような存在になりたい」という明らかに高めのハードル設定を掲げつつワンフェスのディーラー活動をスタートさせたのだという。
 実際のところここまで実力を付けてきた以上、この先のあいしは前述した「元のデザイン画を一応は踏襲しつつもそれを自己流にアレンジし~」という方向性にて明確にプロ原型師を目指すべきであろう。「過去に何度かプロ原型師の面接を受けたんですが、全部落ちちゃったんですよ」とのことだが、「そのときのことはきれいさっぱりと記憶から消去し、ここでもう一度猛プッシュをかけるべきだ!」と強く思わずにはいられないのだ。
 「器用貧乏な超秀才タイプ」というのは、一度きちんとコツをつかんでしまえばそれ以降は絶対に空振り三振はしない。もちろん単打で終わってしまうことはあるかもしれないが、この先は常時2ベースヒットや3ベースヒットを狙っていくことができるはずだ。フィギュアメーカーにおける企画開発担当の方々はぜひともあいしの才能を信じ、そしてここからの彼の活動ぶりにくまなくチェックを入れてみてください。たぶん……いやまちがいなく、彼は「よい仕事」をしてくれるはずです。

text by Masahiko ASANO

あいし1988年1月27日生まれ。小学3年生のときに『新世紀エヴァンゲリオン』ショックを体験、同4年生から『月刊ホビージャパン』を購読しはじめるなど、幼少期からエリートオタク街道へ一直線。その素地には「父親が本格的な鉄道模型マニアであったため創造的なオタク趣味への理解度が高かった」という恵まれた環境が存在した。ただしその後は部活動が忙しく一旦その手の世界を離れるも、高校へ進学したのち友人に引きずられるかたちでオタク趣味を再開。大学は理工学系水産学科のある大学へ入学し生物系研究者の道へ進むことを夢見たのだが、その過程で「何かが違う」と断念。結果、就職はあきらめ「フリーターになり趣味としての造形活動を続ける」という道を選択する。ワンフェスへは大学在学時の'06年冬に初めて一般参加し、その後、実験的な造形こそトライしたもののひとつも作品を完成させた経験のないままディーラー参加を申請し、'08年夏に“うねり階段”名義にてディーラー活動をスタート。プロ原型師を夢見つつも、一筋縄では行かぬ独自路線の探求に明け暮れる日々を過ごす。

WSC#085プレゼンテーション作品解説

© 市川春子/講談社


シンシャ

from コミック『宝石の国』
ノンスケール(全高240mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/9,500円(税込) ※ワンフェス会場販売分80個限定
ワンフェス以降の一般小売価格/12,000円(税抜)


 野球にたとえるならば、どんな速球や変化球が来ても確実にセンター前へきっちりと打ち返せる打撃職人タイプ。つまりは2番バッターにピッタリの資質を有しているものの、若干、というかどうしても玄人好みであり「造形情弱な人が好む誰にでもわかりやすい派手さ」に欠ける作風ゆえに、その卓越した器用さに対し気付いてもらえる人が少なかったのが“あいし”という存在です。もっとも、プレゼンテーション作品となった『シンシャ』(市川春子原作によるコミック『宝石の国』の登場人物)は「見た目は人間に見えるもののじつは鉱物の一種」という複雑な設定を有しており、さらに、原作の絵柄が相当に特徴的なため立体化する際の解釈の余地があまりにも大きいがゆえ、それを立体化する際に造形作家のセンスが大いに問われるキャラクターであったわけですが、それを見事に表現し切ったいま、彼はまさしく「新進造形作家」と称するに相応しい位置付けに達したと言えるでしょう。
 クリアーレジンにて成型された美しい髪の毛のパーツにだけ目を奪われがちですが、全身を構成するしなやかで美しく、見ていて飽きの来ない体のラインこそが最大の見どころとなっています。

※あいしからのコメント

 こんにちは、うねり階段のあいしと申します。滝本晃司と芦名野ひとし作品を愛する昭和の残党です。
 夏のワンフェスを終え、結果と反省に向き合い、さて次回はどうしたものかと考えていた折、WSC選出のお話をいただきました。とにかくおもしろそうと思ったらすぐ行動するタイプなので、即断即決でお受けしました。まだWSC的な活動はプロフィールやアーティスト解説原稿執筆用のヒアリングと作品撮影で関係者の方々と顔合わせした程度なので、これから徐々に実感が沸いてくるのではないかと楽しみにしております。
 このたび選出していただいた“シンシャ”は、大好きな原作・キャラクターという思い入れがあるのと同時に、「原作の線を立体で再現したい」という目標に尽力した作品でもあります。市川春子さんの描く軽やかでセンチメンタルで凛とした線、再現できているでしょうか? 漫画やアニメのような二次元媒体での機能を生かした表現をした場合、立体として成立しなくてはならないということから自由になるのは当然で、そういったものを三次元媒体に転移するときに要求される補完作業は自分がその存在をこの次元に顕現させるんだというぜいたくな楽しみのひとつであると考えています。
 またそれとは別に、キャラクターの持つ色や匂いといった存在感を強調するために元の絵から外れたディフォルメ造形も魅力的で大好きですし、今後も製作していきたいです。
とにかくおもしろそうならなんでもやってしまう、というのが一貫したスタンスかもしれません。
 そんな私の原型師としての立ち位置は水棲生物の生活様式で言うとプランクトンだと思います。今後潮流に逆らう遊泳力を獲得するのか、あるいは底層で職人的に役割をまっとうするのか、変わらずふらふらと漂い続けるのか。
 どれも楽しそうです。
 では今後ともよろしくお願いいたします。