アーティスト紹介

WSC #104 K

[96]

 デジタルモデリングという《黒船》がガレージキットの世界へ来航し、もはやアナログによる造形よりもそちらのほうがメインストリームと化しはじめてからすでに3年近くの年月が経過した。
 そして、いま現在は「普段は統合型3DCGソフトを使いアニメーターを生業としているが、ガレージキットにおけるフィギュア造形の世界に興味を抱いた」という同じオタク系ジャンルからの越境組がワンフェス会場を(さらに言うならば『ワンダーショウケース』をも)席巻しているわけだが、それとはまったく異なるフィールドの才能がいよいよワンフェス会場に出現した。現役バリバリのプロダクトデザイナーが、いよいよガレージキットの世界へ参入を果たしたのである。
 「カーデザインを生業としつつも、高校時代から人体の造形に本気で傾倒していた」というプロフィールを持つ“K”は、『スター・ウォーズ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などのハリウッド系SF洋画にこそ強い興味を抱きつつ、ただし、「造形物の持つ立体デザインへの興味」からガンプラやエヴァンゲリオン、マシーネンクリーガーなどのプラスチックモデルをいくつか組み立てた経験こそあったものの(つまり、パーツを組み立てて立体情報を指先から脳にインプットすること自体に目的があった)、基本的にはオタク的趣味の世界とは距離感のある人物であった。それゆえに、カーデザイナーにて培った繊細な造形感覚と、高校時代から強く憧憬を抱き続けてきた人体造形がZBrushというデジタルツールを通じ的確に融合した結果、今回の『ワンダーショウケース』選出へと相成ったわけである。
 さらに言うと、「ワンフェス会場でレジンキャスト製キットを多数販売して儲けまくる」ということに目的を見据えた人物ではなく、卓上型光学式3Dプリンターの『Form2』専用レジンを使い量産~販売するという方法論を選択していたため、『ワンダーショウケース』においても初の「全パーツがForm2専用レジン製」というプレゼンテーション作品が誕生することとなった。
 まさかこんな時代が巡って来ようなど当然ながら5年ほど前には想像するこそすらできなかったし、ここ数年における月日がガレージキットの世界にもたらす速度はリニアモーターカー並のスピードに感ずるほど進化している。もちろん、大前提としてKの突出したデザインセンスと立体感覚、そしてその造形再現能力の高さという才能があってこその話であるわけだが、デジタルという革新的な現代の科学(魔術)が我々にもたらす驚きはこの先も止まることはないのであろう。

text by Masahiko ASANO

けー1985年8月14日生まれ。幼少期はクルマが好きで、「パーツレベルまで詳細なスケッチをよく描いていた」とのこと。また、レゴで乗りものやロボット等を組み立てたり、R/Cカーや『ミニ四駆』といったホビーにも手を出したことはあったそうなのだが、アニメやゲームのようなオタク的趣味とは深く関わることなく小学生時代を過ごすことに。なお、高校時代からは人体の造形に対し俄然興味を抱きはじめ、彫刻などの純粋美術に憧憬を抱くも、結果的にはもろもろの事情からプロダクトデザイン専攻が存在する美大へ進学し、カーデザイナーの道へ進むことになる。そして数年前、趣味として粘土で人体造形を手掛けていた際にワンフェスの存在を知り、一般参加者としてガレージキットの世界を初めて目の当たりにすることに。その際にはディーラー参加など想像すらしなかったそうだが、「ワンフェスへの出展を通じ自分の作品を他者に見てもらうことで、新たな一歩を踏み出してみたい」という気持ちが生じはじめ、'19年夏のワンフェスに“96”名義で初ディーラー参加を果たすこととなった。

ツイッター https://twitter.com/itomojo

WSC#104プレゼンテーション作品解説

© 2019 K




© 2019 K


Android EL01

from WSCアーティスト自身による創作キャラクター
1/6スケール(全高270mm)3Dプリンター“Form2”専用レジンキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/18,000円(税込) ※ワンフェス会場販売分40個限定
ワンフェス以降の一般小売価格/23,000円(税別)

完成見本製作/pygmalion 田川 弘
       https://gahaku-sr.wixsite.com/pygmalion


 その作品を一見しただけで、「……あ、まちがいなくこの人は“こっち側の世界の住人”ではないな」と分からせるその作風とデザインセンス。これまでは、普段生業としていじっている3DCGソフト使用スキルを駆使しゲーム業界からフィギュア業界に辿り着いた方は何人もいましたが、いよいよついに、現役のプロダクトデザイナー(カーデザイナー)がワンフェスにディーラー参加するという時代が到来したのです。ワンフェスというガレージキット即売会イベントが35年前に誕生したとき、このような未来予想図を描くことができた人はまちがいなく皆無だったはずです。
 ちなみに、“K”によるWSCプレゼンテーション作品『Android EL01』(愛称=エル)は、当初より卓上型光学式3Dプリンター『Form2』で生産することを念頭に置きZBrushにてモデリングされていたため、「そのコンセプトまで込み込みでの作品」と考え、『ワンダーショウケース』初となる全パーツがForm2専用レジン製によるプレゼンテーション作品となりました。数多く存在する著名造形作家の誰の作風にもまったく似ていない、肉体とメカニックのフェティッシュな高次元融合作品を堪能してください。

© 2019 K


© 2019 K


※WSCプレゼンテーション作品とは別個に製作された、Android EL01の魅力をより幅広く伝えるための「大腿部から頭部中央までを大胆に切り取ったモデル」。当然ながらWSCプレゼンテーション作品と同一のモデリングデータを元にして製作されており、「デジタルモデリングの強み」を端的に表した作品とも言えるはずです

© 2019 K


※こちらは昨夏ワンフェスにおける96ブースにて大型パネル出力し展示されていた、ZBrushでのモデリングデータを『keyshot』(フォトリアルな画像を作成することが可能な、レンダリングに特化したソフトウェア)を使い写実的描写されたAndroid EL01。この画像を見ると、Kの生業がプロダクトデザイナーであることがよく分かると思います

© 2019 K


※(この画像内では数点ほどパーツが欠落していますが)WSC#104のプレゼンテーション作品は、このようなForm2専用レジンによる形態となります。成型色がグレーのため美少女フィギュア塗装には少々不向きかもしれませんが、サポート材をニッパーでカットすれば、通常のレジンキャストキットと同様の表面磨き~塗装にて仕上げることができます

※Kからのコメント

 “K”と申します。この度は『ワンダーショウケース』に選出いただきありがとうございます。ワンフェス初参加どころか、フィギュア製作自体が初めての自分を選んでいただき、大変恐縮です。ガレージキットの作成もほとんど経験がないため、塗装もpygmalion田川氏にご協力いただけたことで、プレゼンテーションまで持って来られました。重ねてお礼申し上げます。
 普段はプロダクトメーカーでデザイナーとして働いていますが、仕事では出来ないような表現をしてみたいという思いがありました。言葉ではうまく表せませんが、ものすごく漠然と言えば「生きていること」とでも言えばよいのでしょうか。今回のアンドロイドという題材は肉体の物質としての側面を、メカ部分との対比によって鮮明に浮かび上がらせることができる、その点が自分の表現したいテーマと合っていると感じています。もちろんメカが好きだという単純な理由もあるのですが、この視覚的な違和感の中に、何かを表現できたらと製作しました。
 本作品は「三幅対」のイメージで、あと2体作成し、3体揃っての完成を予定しています。作業時間の確保が難しく、少々時間がかかると思いますが、その他にも作りたいイメージはたくさんあり、塗装をはじめ身に付けたい技術もまだまだあります。もし今回の作品に興味を持っていただけたなら、今後ともお付き合いいただけるとうれしいです。