アーティスト紹介

WSC #106 ココハチ

[clips]

「引き算」「足し算」、そして「寸止め」の美学
グラフィックデザイナーならではの周到な戦い方

 WSC#046 Noa(第19期『ワンダーショウケース』/'09年夏選出)が主宰するディーラーである“clips”から、Noaに引きずり込まれるかたちでこの世界の住人となった造形作家──それがココハチという人材だ。
 そして、「おそらくそうなのではないだろうか? ……いや、まちがいなくそうだろう」というこちらの予想どおり、その生業はフリーランスのグラフィックデザイナーだという。
 なぜそういった予想をしていたのかと言えば、創作系というカテゴリーの問題ではなく、ココハチの造形作品が醸し出す空気感は一般的な美少女フィギュアのそれと絶対的に異なるためだ。それをなるだけ簡潔な言葉にするならば、「ココハチが手がける美少女フィギュアはグラフィックデザイナー視点にて、引き算と足し算をフルに駆使して構成されている」のである。
 その引き算の部分は、(失礼なもの言いにはなるが)己の決定的なデッサン力不足を覆い隠す狡猾さ。そもそもグラフィックデザイナーという職種自体そうした毛色が強く、爆発的なエネルギーの放出以上に、ウィークポイントを見抜かれぬ計算高い手法が重宝がられる。
 対して足し算の部分は、「ここにこうしたデザインの小物を配置すれば、フィギュアを眺める側の視線誘導を自分の考えどおりにコントロールできるのでは?」といった計算高い巧妙さ(しかも、上限ギリギリまで、寸止め状態にて多数の小物を配置するのが絶妙に上手い!)。これもやはりグラフィックデザイナーならではの特性であり、結果的には「フィギュア本体の造形よりも視線誘導用の小物作りのほうに興味が行っているのではないか?」と感じさせるほど、小物のデザインとその作り込みが秀逸なものと化している。
 ちなみにそうしたフィギュアの完成見本の塗装自体はいまやフィギュアペインター(PVC製塗装済み完成品フィギュアの、量産用ペイントマスター製作者)として超売れっ子状態のNoaが全面的に担当しているそうなのだが、フィギュアの原型ができあがった時点でココハチがそれをデジカメで撮影し、その画像に対し彼がイメージしていたカラーリングを画像加工ソフトを使い彩色。そうして作成した彩色画像をベースとしてNoaと共に色相を検討していく……という、これもまたグラフィックデザイナーならではの手法を活用してフィニッシュへと持ち込んでいるのだという。
 このように「そもそもはフィギュア造形に対し一切興味がなかったものの、自分なりの、自分にしかできないスタイルによる戦い方」をしっかりと見つけ出し、階段を着実に一歩ずつ登り続けていよいよ『ワンダーショウケース』にまで到達する──こんな異質な才能が生まれてくるのも、ワンフェスの懐の深さがあってのことだろう。

text by Masahiko ASANO

ここはち生年月日非公開。小学4~6年生のころにそこそこ本気でガンプラ製作に取り組むも(改造や塗装にもきちんとチャレンジしたとのこと)、ただし「飽き」の問題からあっというまにそうした世界から離脱。高校生のときはバンドを組んでキーボードを担当、シンセサイザーの打ち込みで作曲をするなど、おおよそオタク的趣味とはかけ離れた青春時代を送る。大学は4年制の経済学部へ進むが卒業時に就職はせず、専門スクールにてグラフィックデザイン(DTP)を学習。その後、広告等の制作会社へ就職し、2社を通じて10年ほどサラリーマンデザイナー生活を過ごしたのちに、フリーランスのグラフィックデザイナーとして独立し現在に至る。WSC#046 Noaの主宰するディーラー“clips”にて創作フィギュアを初めて出品したのは'07年夏のワンフェスで、いわゆる「作品然」とした本格的な造形物を発表しはじめたのは'15年冬から。ちなみにプロの原型師は目指していないものの、「自分の好きな要素だけで構成できる創作系フィギュアはこの先も発表し続けていきたい」と考えている。

WSC#106プレゼンテーション作品解説

© clips




© clips


梅真寺 小毬丸

from WSCアーティスト自身による創作キャラクター
ノンスケール(全高200mm)レジンキャストキット+水転写式デカール4枚


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/23,500円(税込) ※ワンフェス会場販売分40個限定
ワンフェス以降の一般小売価格/28,000円(税別)

完成見本製作/Noa(clips)


 グラフィックデザイナーという2D世界でのデザインを主戦場とした生業ならではの資質を十二分にフル活用し、「3Dのフィギュアを2Dの延長線的手法にてデザインする」という感覚にてここまで創作系美少女フィギュアのみを造形し続けてきたココハチ。プレゼンテーション作品となった『梅真寺 小毬丸』はまさしくその最たるフィギュアであり、カテゴリーこそ誰がどう見ても美少女フィギュアでありながら、そのじつ、「美少女」という要素は単なる「器」であるという事実に対しぜひとも気付いていただきたいところです。
 たとえば、クリアーレジンでの成型パーツを適材適所に多用した数多くの小物や、キャラクターの有する世界感に併せてデザイン&造形された専用ベース(台座)、そして、複雑極まりないカラーリングデザイン設定を再現するための水転写式デカールまで自らグラフィックソフトウェアを駆使しデザインしたという(※それを再現するための専用デカール4枚がプレゼンテーション作品内に付属します)、「……ああ、なるほど、そういうことなのか!」という感じで各所に対し凝りに凝りまくった作品であることがご理解いただけるのではないでしょうか?





※複雑なカラーリングデザインを再現するための、専用水転写式デカール4枚が付属します(「DECAL SHEET A」の瞳デカールのみ、デカールデザインはclips主宰のNoaの手によります)

※ココハチからのコメント

 この度は選出いただきありがとうございます。これまで私共のブースに立ち寄ってくださった皆さまに、この場を借りてお礼を申し上げます。
 当ディーラー代表のNoaに「店番」として駆り出され渋々着いて行った、それが初めてのワンフェスでした。アニメ等に関心の薄かった私にはフィギュアも同様に縁のないものと思っておりましたが、何度か参加するうちに展示を見て回るようになり、ある時、強く印象に残る作品に出会いました。
 BUBBAさんの体温を感じさせるような表現、植物少女園さんの妖しさを纏った美しさ、Long Longさんの洗練された世界観。それぞれが強い個性を放ち、逆に立体ではなく絵画のようにすら思え、「2次元のキャラクターをただ立体化したもの」という従来の私のフィギュア観とはまるで違う世界にしばらく目を奪われたことを覚えています。そのような印象深い体験とNoaからの勧めもあり、私はフィギュア造形への第一歩を踏み出したのでした。
 しかし、はじめてすぐに気付きます。たとえるなら、好きなバンドのライブを見て弾けもしないギターをはじめてしまう、それを体現してしまったのだと。当然、技術面での問題は多発し、そのたび葛藤はありましたが、それでもちいさなものを作ることは楽しく、次第に多くの時間を割くようになりました。
 作品を携えての参加はなんとも言えない緊張感を伴いましたが、世界観を演出するための展示台やパッケージ等、デザインが楽しめる要素が造形以外にもあり、さながら“ちいさなお店”を作っているようでなかなかおもしろいものでした。
 さまざまな体験ができるワンフェス。自身の価値観が変えられてしまうような個性溢れる作品との出会いを楽しみに、今後も参加したいと思います。