アーティスト紹介

WSC #107 青井きみどり

[磯リズム]

「極めて大きく美しい」六角形のレーダーチャート
客観的視点で己のウィークポイントを潰す超秀才型

 正直に白状してしまうと、青井きみどりという才能をいまこのタイミングで『ワンダーショウケース』に選出するのは明らかに遅すぎた。'19年冬のワンフェスの時点で、彼女の造形レベルはすでに筆者が線引きしているWSC選出基準に達していたのである(要は「完全にそれを見逃していた」ということであり、いまさらながら猛省することしきり……)。
 彼女の造形的才能を六角形のレーダーチャートで描くと極めて大きく綺麗な六角形を描いており、あまりにもバランスがよすぎるゆえ「ここがこう上手い」と説明するのが猛烈に難しいのだが(泣)、「数を作って上達していった」のではなく、「ほぼいちばん最初の段階からすでにもうこのレベルにあった」という事実に対しまず最初に驚かされた。しかも、彼女のプレゼンテーション作品となった“ルシファー”はZBrushにてモデリングされているのだが、この作品が彼女にとってのデジタル造形処女作であり、その作風がアナログ造形時代と寸分違わぬものとなっていることにもまた驚かされた。さらに言うと、「やはり鎧などのカチッとしたモチーフや繊細な装飾の造形はデジタルのほうが強いと感じたためにZBrushによる造形を導入した」そうなのだが、ZBrushを購入してからわずか3ヶ月後にルシファーが完成したというデジタル造形への対応力の速さにもやはり驚かざるをえない。
 また、自分の作風を客観的に捉え言語化する能力にも長けており、たとえば「元絵に存在する2次元的なウソをあえて受け入れつつ、布のシワや筋肉の付き方や肉感には、どこかにリアルを感じられるような造形を意識している」といった言葉がスラスラと出てくるあたりには感心させられることしきり。無理矢理あえて難癖を付けるとしたら「とにかく元絵を忠実に再現したい」という偶像崇拝的な思考があまりにも強く、造形作家としての己の個性が前面に出づらいことにあると思うのだが、「◯◯◯◯というキャラクターを一度自分の中で解体してアレンジしたのちに再構成してみました」という古き良き手法が完全に旧態依然化しつつある昨今、そのことをあえてマイナスに解釈する必要はないだろう。
 ちなみに今回こうして『ワンダーショウケース』に選出されたことにより「違った世界が見えてきた=上を目指す意思が固まった」そうなので、男性キャラクターフィギュアの原型師が足りないと嘆いているフィギュアメーカー関係者は、ぜひとも彼女に仕事を振ってみていただきたく思う。まちがいなく、よい意味で当初の予想を大きく裏切るレベルのタスクをこなしてくれるはずだ。

text by Masahiko ASANO

あおいきみどり1995年7月23日生まれ。小学4年生のころに父親の影響でオンラインゲームにハマり、お下がりのノートPCを通じインターネットにも触れはじめたため徐々にライトなオタクと化していくことに。なお、幼少期から美術の成績は高かったため最終学歴としてそちらの方向へ進む選択肢もあったはずなのだが、「本当にやりたいこと以外のものごとに手が付かない」という性分ゆえ、高校卒業後、いきなりフリーランスとしてイラスト描きやフィギュア造形に着手しはじめる。フィギュア造形に関しては独学にてあっという間にそのハウツーを習得したものの、ただし「自らに締め切りを課さないと作品が永遠に完成しない」と早々に気付き、'17年冬のワンフェスから“磯リズム”名義にてディーラー参加をスタート。いま現在は『グランブルーファンタジー』に登場する男性フィギュア造形に熱中しているが、作品を作り重ねていくうちに「グラブル以外の男性フィギュアを手がけてみたいと思う気持ちも生じてきた」とのことで、この先はプロ原型師として活動していくことを目標により一層の鍛錬を心がけていくそうだ。

ツイッター https://twitter.com/ikzwr_t

WSC#107プレゼンテーション作品解説

© Cygames, Inc.


ルシファー

from スマホ用ゲームアプリ『グランブルーファンタジー』
ノンスケール(全高190mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場販売価格/19,800円(税込) ※ワンフェス会場販売分40個限定
※諸般の事情により一般販売は行われません


 「……結局のところ、アニメ絵系のイケメンキャラというのは、やはり女性造形作家に作らせたほうがいろいろな意味でよいんだろうな」ということはここ数年ずっと考えていたことなのですが(「アニメ絵系美少女キャラ→若手男性造形作家向きの対象」というのと同様に、その心の中に秘めた2Dキャラへの愛情が直接的に造形へ反映されるので)、女性造形作家が驚くほどの勢いで躍進してきた昨今、そこに加わるべきであろう新たな才能が青井きみどりという存在です。
 プレゼンテーション作品である『ルシファー』(スマホ用ソーシャルゲームアプリ『グランブルーファンタジー』に登場する、その道に長けた人でいないと設定が複雑極まりないボスキャラ的存在)は、彼女初のZBrushを駆使したデジタルモデリング造形ながら、「それ以前のスカルピーを使用していたアナログモデリング造形作品とまるで見分けが付かない」という(ZBrush習得期間は、なんとわずか3ヶ月ほどとのこと!)、年齢的な若さが有する順応性の速さ&高さが際立った、見ようによっては「凄み」さえ覚える傑作。グラブル&イケメンキャラ好きの女性ファンには、驚きを覚える造形物だと確信しています。

※青井きみどりからのコメント

 好きなキャラクターのフィギュアが欲しいからという私利私欲により、転がるように造形に手を出した身ですが、まさかこのようなお話をいただけるとは露ほども思っておりませんでした。名だたる方々が名前を連ねる中、ただただ恐縮するばかりです。
 初めまして、青井きみどりと申します。
 ここ最近はずっと『グランブルーファンタジー』のキャラを作らせてもらっているのですが、何よりも作中の立ち絵が大好きで、そのまま忠実に再現したいという気持ちを第一に作っております。
 そしてこのルシファー、「彼を作るなら絶対にデジタルで」という謎の使命感もあり、また転がるようにデジタル造形に手を出したのも記憶に新しいです。
 元よりアナログ造形では布や人の肉の柔らかさなどに重きを置いて造形していたのですが、彼のようなアシンメトリーでツギハギ的なデザインの中の、そこはかとなく感じる精巧で硬質的な美しさを造形で表現するにあたって、不器用かつ大雑把な私のアナログ原型ではとても表現できなかったように思います。
 改めましてお世話になっております版権元様、このような大変光栄な機会を下さった関係者の方々、いつも作品を見てくださる皆さま、本当にありがとうございます。ずっとひとりで続けてきたせいか、「ガレージキットの作り方って本当にこれで合ってるのかな?」という不安が未だに拭えなかったのですが、今回『ワンダーショウケース』に選出いただいたことでようやく、「これで合ってたのか……」という安堵に変わった気がします。
 技術的な面でもまだまだ未熟者で課題も山ほどありますが、そのキャラクターが好きな方に、そのキャラクターの持っている魅力を共感していただけるような造形を理想に、今後も活動していけたらと思っています。