アーティスト紹介

WSC#108 針桐双一

[G-Rug]

運命的とも言える「3Dスカルプトツールとの邂逅」
抑揚の利いたスタイリッシュな造形美の持ち主

 新型コロナウイルス感染拡大予防対策にて2年間ワンフェスが開催されなかった期間=締め切りに追われないで済むという環境を逆手に取り、スカルピーを使ったアナログ造形からZBrushを使ったデジタル造形へとチェンジ。結果、いまどきの美少女フィギュアから禍々し──いクリーチャーまで、その作風の幅の広さを一気に身に付け「大化け」したのが針桐双一という人物だ。
 無論、デジタル造形へ転じたことでそのメリットを手に入れた造形作家は少なくないが、針桐の場合は、己の資質と3Dスカルプトツールの相性が驚くほど──おそらくは自分が想像していた数倍以上高かったのであろう。その結果、アナログ造形時代に見られた「頭打ち感」から完全に開放された最近の作品からは、そのどれもが「振り切った感」を見て取ることができる。
 その事実を物語るのが本人からのコメントだ。
 曰く、「ZBrushを使いはじめてから2年目で、まだ同ソフトを触るたびに新しい機能に気付いているような状態なので、完全に使いこなせているとはとても言えない」と語りつつも、「アナログ造形時代に課題であった筋骨格と表皮のディテールの両立がかなりできるようになった感触がある」「製作スピードは体感でアナログ時代より3~5倍は早くなった」と語る言葉はじつに軽やかで、躍動感と自信に満ち溢れている。
 たとえば今回プレゼンテーション作品となった墓王ニトに関して言えば、「事前に同様の造形作品が世に存在していたためいまさら自分で作るほどでもないと考えていたのだが、この毛で詰まった排水溝のような描写を実際に植毛で再現できたら造形作品としておもしろく、かつ、過去に造形されてきた他作品との差別化が図れるかもしれない」と考えたからこその立体化であり、また、「ズジスワフ・ベクシンスキー(ポーランド人の画家で、主に死、絶望、破損、廃退、廃墟、終焉などをモチーフに扱い、不気味さや残酷さと同時に荘厳な美しさを感じさせる作風が特徴)の作品に近いフィーリングに惹かれてのチャレンジでもあった」とも語る。
 「正直なところ昔から、自分にははっきりとした作風が存在しないのではないかと考えている。ただし明白な作風が存在しないことが、長所でもあり短所でもあるのではないか」と鳥瞰視点にて己を語るところは、いかにも理系脳の「それ」だ(ちなみに大学~大学院では、医療福祉系のロボット工学を専攻していたとのこと)。
 今後は新作発表のたび、常時よい意味で我々を裏切り続けてくれるであろう“異能者”の誕生である。

text by Masahiko ASANO

はりぎりそういち1989年5月22日生まれ。幼少期よりミニ四駆やガンプラを嗜み、08年に、当時ネット上で人気を誇っていた造形作品投稿サイト『fg』を発見、同サイトへ投稿するために造形へ着手しはじめる。そしてそれと同時期にワンフェスの存在を知り、11年、大学3年生の際に“G-Rug”名義にてワンフェスへディーラー参加を開始。本人的には「基本的になんでも作れる造形屋でありたい」という感覚の持ち主で、『東方Project』『艦隊これくしょん -艦これ-』といった美少女系キャラクターを造形しつつ、同時にクリーチャー系の造形も手掛けるなど、幅広い造形力が特徴。「作品コンセプトを文字に起こした時点で魅力的であること」「何か一要素でもよいからそのキャラクターの造形物の中でいちばんを目指したい」という自己規約に当てはまる対象作品に巡り合った際には、「どんなキャラクターでも構わないのでチャレンジしてみたい」とのこと。ちなみに18年から本腰で造形に取り組みはじめ、現在はすでにフリーの原型師としてガレージキットの販売やオーダーメイド作品製作等を開始、プロの造形作家としての活動をスタートさせている。

ツイッター https://twitter.com/harigilly

WSC#108プレゼンテーション作品解説

Dark Souls™& ©BANDAI NAMCO Entertainment Inc./ ©FromSoftware, Inc.


DARK SOULS(墓王ニト)

from マルチメディアで展開されたアクションRPGソフト『DARK SOULS』
ノンスケール(全高200mm/全幅300mm)マルチマテリアルキット


※諸般の都合により、当プレゼンテーション作品は展示のみで販売は行われません


 不気味でおどろおどろしく、死や廃墟的なものを想起させるこの造形作品に対し、思わず目を背けたくなる人もいるかしれません。が、その中からじわりじわりと滲み出ている圧倒的なオーラは、まさしく“ガレージキットスピリッツ”そのもの。針桐のプレゼンテーション作品である『DARK SOULS(墓王ニト)』(複数のメディアで展開されたアクションRPGソフト『DARK SOULS』の後半ボス)は、「上手い」というよりは「巧い」と表現したほうがよいかもしれません。目視できぬ箇所に自重を支えるパーツがきちんと存在しているとしても、こんなに細くて繊細な骸骨パーツの周囲に人毛製の毛束パーツを巻き付け(※キットにはその43本の毛束パーツがきちんと付属していました)、設定イラストそっくりの造形作品を作り上げるという、突飛、かつ無茶とも言える造形を見事成し遂げてしまった時点で、作者の異能者ぶりに驚く人は多いはずです。
 なお、針桐本人曰く「正直に申し上げますと、これまでのワンフェスにおける目標のひとつがWSCに選出されることでした」とのことですが、WSCを踏み台にして、もう一皮もふた皮も剥けてほしい造形作家であることはまちがいありません。

Dark Souls™& ©BANDAI NAMCO Entertainment Inc./ ©FromSoftware, Inc.


※針桐双一からのコメント

 初めまして、針桐双一と申します。ワンフェスに参加するたび、今回の『ワンダーショウケース』のプレゼンテーション作品はどんな作品なのだろう、と毎度楽しみにしておりました。ですので、この度、自身の作品を選出いただけたことを非常にうれしく思っております。
 今回、クリーチャー造形の『墓王ニト』でワンダーショウケースに選出いただいたのですが、普段からずっとクリーチャーのみを作っているわけではなく、さまざまなジャンルで造形しております。今回の夏ワンフェスに出展する新作も、また異なるジャンルになっているかと思います。
 そういうわけで「自分の作風はどういうものか?」という話題になるたびにいつも困っているのですが、もし共通点があるとすれば、製作に及ぶ際に「ちょっと無茶なことをやってやろう」という考えが毎回どこかにある、という点かもしれないです。
 立体物は、イラストや3DCGと比較して物理的・技術的に「できないこと」がたくさんあります。それは逆に言えば、そこをクリアした場合、上手い下手とは違う評価軸でのインパクトを与えることができる、ということだと考えております。自分がわざわざ立体造形という苦労の多いジャンルでやっている理由はそこにあるのかもしれません。「これって立体化するの無理では?」と思った瞬間がいちばんやる気がみなぎりますし、「これどうやって作ったの!?」と言われるのがいちばんうれしいです。とはいえそろそろ落ち着いた作風になりたい気持ちもありますが……。
 本腰を入れての造形活動はまだまだはじめたばかりだと思ってますので、今後ともよろしくお願いいたします。