アーティスト紹介

WSC#110 ひいらぎはじめ

[Hi-raging-2629]

トータルコーディネイトで魅せる創作系タイトルは
壮大にして絶対的な「究極のイマジネーション」

 まずは、まったくのゼロ状態から壮大な世界観と物語を構築し、続けて、その世界観に見合った登場キャラクター(メカニクス)をデザインする。そして、その創作タイトルに登場するメカニクスを自らが造形し、タイトル内で欠けているピースを順番に埋めていく。……そう、「足していく」のではなく「埋めていく」のだ。なぜならば、ひいらぎはじめの頭の中に存在する世界観内ではすでに「それら」が存在しており、「それら」はひいらぎが立体物としてアウトプットしてくれる瞬間をいまかいまかと待ちわびているのだから──。
 こうして言葉に置換すると永野 護の『ファイブスター物語』を想起する人が多いと思うが、確かにその手法自体はファイブスター物語に極めて近い。
 しかしファイブスター物語との決定的な差異は、言うまでもなく、そうした創作デザインをアウトプットするのがひいらぎ自身であるという点に尽きる。
 この「よい意味での壮大なマスターベーション」とでも呼ぶべき行為を、ひいらぎ自身はこう説明する。
 「自分のストロングポイントは、設定、デザイン、イラスト、立体化など、創造の全行程を自分が手掛けているトータルコーディネイト志向だと思います。
 というのも……誰かがデザインしたキャラクターやイラストを自分が立体化したとして、そして、それが仮に売れたとして、それって本当に自分の手柄なのでしょうか? それで心の底から納得がいくでしょうか?
 版権モノは、自分ではなく版権元が王様です。どんなに凄い造形物を自分が作ったところで、王様は自分ではありません。自分が王様であるためには創作系タイトル=オリジナル作品しかあり得ないわけです。
 なので、『Royal Inner Self』というシリーズ名には“自身の王は自分”という自戒と言いますか、創作活動への根源的な信念が込められているんです」
 なお、このRoyal Inner Selfという作品は作中で登場する時代と地域が厳密に設定されており、今回プレゼンテーション作品としてピックアップした始皇帝は第1章のボスキャラ、スイコは第2章のライバルヒロイン的な立ち位置にてデザイン&造形されているのだという。
 が、そうした世界観や設定をまったく知らない人が眺めても、これらの創作デザインの切れ味の鋭さとそのアウトプット能力の高さは誰の目にも明らかなはず。同タイトルが完結するまであと何年かかるかは分からないが(下手をしたら10年近くかかるかもしれない)、それを投げ出さずきちんと完結させることを期待したい。

text by Masahiko ASANO

ひいらぎはじめ1990年生まれ。児童雑誌のオリジナルロボット投稿コーナーに毎月応募したり(誌面掲載された経験あり)、ミニ四駆を改造してマーカーで塗装するなど、幼少期からオタク的趣味をフルスロットル状態。美術系大学へ進み上京したのちにワンフェスへ一般参加し、「自分でフルスクラッチビルドしていた作品をすでに見知らぬ誰かが作っていて、しかもそれがイベント会場で買えてしまうなんて……」とショックを受け、'12年冬のワンフェスより“Hi-raging-2629”という名称にてディーラー参加をスタートさせる。現在使用している3DCGツールはハードサーフェイス系モデリングソフトとZBrushで、3Dソフトの導入理由は「重力が存在しない空間内で、分割したパーツを空中固定させておけること」がいちばんであり、「それに比べればアンドゥ・リドゥやミラーコピーはおまけみたいなもの」と語る。なお、いま現在はイラストレーション作成会社へ務めており、そうした「きちんとした生業」を持ちつつ、「自分が王様になれるRoyal Inner Selfをきちんと完結させることが当面の目標」だという

ツイッター https://twitter.com/Hi_ragiHajime

『Royal Inner Self』公式Webサイト http://hiraging.dip.jp

BOOTH(通販サイト) https://hi-raging-2629.booth.pm/

WSC#110プレゼンテーション作品解説

© Hi-raging-2629




© Hi-raging-2629


始皇帝&スイコ

from WSCアーティスト自身による創作タイトル『Royal Inner Self』
1/10スケール(始皇帝=全高220mm スイコ=全高160mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格28,000円(税込)
ワンフェス終了後の一般価格31,900円(税込)


 「自分の創作したキャラクター(メカニクス)たちは、それぞれに作中で登場する時代と地域(独立した3エピソード)が設定されています。たとえるならば、これは『スター・ウォーズ』の旧3部作、プリクエル(前日譚)、シークエル(後日譚)ぐらい独立したものと考えてください」。そう言われても、ひいらぎが構築した重厚な世界観=『Royal Inner Self』のストーリーの全容を知らない限り「一体何がなんだか……」だとは思いますが、最近作である「始皇帝=古代中国文化と青銅器美術の咀嚼。大型キットに相応しい粗密感、シルエット、彫刻密度」と「スイコ=クリアーパーツを目立たせる面積比と配置、空間バランス。クリアーパーツを活かしたモールドの透け具合、透明度とツヤ管理」といったあたりを目標に定め、極めて高いデザイン&モデリングクオリティによりそれらをラインナップしている事実は誰の目にも見て取れるはずです。
 「立体物にて創作タイトルシリーズを手掛けるならば、ここまで本気に、そしてここまでストイックになる必要がある」という、過剰なまでのガレージキットスピリッツを体現している存在がひいらぎであると言えるでしょう。

© Hi-raging-2629


※今回のWSCでは商品価格を下げるためにスイコ単体をフューチャーしましたが、BOOTH内における『Royal Inner Self』の通販サイトでは「スイコ with リーンスチュワード」としてスイコに2機の随伴機が付属した状態の製品が販売されています

© Hi-raging-2629


※始皇帝もスイコ同様に単体のみをフューチャーしましたが、Royal Inner Selfの通販サイトでは始皇帝の随伴機となるアンドロブリゲイド:霊匣(リンシァ)やアンドロブリゲイド:小屍(シャオシー)が販売されています

© Hi-raging-2629


© Hi-raging-2629


※ひいらぎのプレゼンテーション作品『始皇帝&スイコ』には、始皇帝とスイコ(つまり計2部)の冊子が付属します。冊子はデザイン画のイラストレーションと機体解説にて構成されており、作品世界をより詳細に楽しむための副読本となっています

※ひいらぎはじめからのコメント

 2体選出とはある意味自分ならではかも……。初めまして、ひいらぎはじめと申します。
 今回選出いただいたのは『Royal Inner Self』という私のオリジナルシリーズに登場するキャラクターたちです。
 彼らは遥か先の時代の執政用ユニット。歴史上の王君の名を冠されています。ちょうど戦艦等に偉人の名前が付けられるようなイメージですね。執政を目的とするメカなので、必然的に人間と同サイズです。
機体ごとに国柄もデザイナーも駆動原理も違う(という設定だから)デザインラインも相応に違うはず。その違いを見比べられる2機種というわけです……たぶん。
 たとえば始皇帝は中国製、スイコ(推古天皇)はニホン製。他にもクレオパトラ、カエサル、ダビデetc……彼らを取り巻く大河的世界観も含めて楽しんでもらえたらうれしいです(どのキットにも設定資料ブックが同梱されています)。
 各キャラを造形する前にバックボーンをめちゃくちゃ考えこみます。王様がいるなら配下も、国柄や風土、歴史、国交関係、誰と誰がいつ出会い、どんな人生を歩み、歴史がどう動くのか……誰もがこう思うでしょう、「立体造形するだけなら、そこまで考えなくてよくない!?」
 本当にそのとおり。でも表に出てくる「造形」とは、その裏に潜む壮大な氷山の一角に過ぎません。歴史やSFの専門家の方が見た時に「お、この氷山……」と思ってもらいたいですし、せっかく作るならハリボテではなく厚みを持たせたい。何せ彼らは王君ですから。
 誰もやらないようなやり方でもよいんです。自分がやってみたいことを無心で続ける。その先にもしかしたら何かいいことあるんじゃないかな……そう信じてます。