アーティスト紹介

WSC#111 干潟為四

[干潟為四]

デジタルどうこうを超越したフェテッシュな造形
人形遣いならではの「指先の豊かな表情」に着目すべし

 ここ5年ほどのあいだで造形の手段をデジタル(主にZBrush)に切り替えた人は驚くほどたくさんいるが、正直な話、「デジタル切り替えた意味がない」と思う造形物はごまんと存在する(もっとも、造形を行う場所がPC内のため「造形素材の異臭がしない」「削りカスが生じない」といった物理的な理由からデジタルへ切り替えた人の場合は話が異なってくるのだが)。
 それでいうと干潟為四の作品は「デジタルだからこそできる造形表現」と「アナログでも可能だが、デジタルであろうがアナログであろうが絶対に気を配らないといけない造形箇所」の使い分けがじつに見事で、見ている者を飽きさせない情報量に溢れている。
 たとえば今回『ワンダーショウケース』のプレゼンテーション作品となったアリス・マーガトロイドの場合は、“人形遣い”という設定を活かすため一度大きなサイズで造形した人形をデジタル空間で縮小していることが「デジタルだからこそできる造形表現」だ。
 対して、人形遣いだからこその指の表情付けがじつに見事で、こちらは「アナログでも可能だが、デジタルであろうがアナログであろうが絶対に気を配らないといけない造形箇所」に分類される。人形と指のあいだにテグスが存在しなくとも、アリスが人形を動かしている様子がまじまじと感じられるのが凄いのである(実際に干潟は「作品世界の1場面を切り取ったような、見た人が周りの情景を思い浮かべれられるような作品にすることもテーマとして盛り込み製作した」と語る)。
 なお、彼女がいま考える自分自身のストロングポイントとウィークポイントを語ってもらった。
「自分で考えるストロングポイントは、作りたいジャンルが幅広く完成までモチベーションが継続できることと、製作速度が速いこと。学習意欲が高く、新しいことを身に着けながら製作できること。
 対してウィークポイントは、きちんと方向性を意識しないと造形対象の特徴が混じってしまい、どっち付かずになってしまうこと。あと、一度完成した作品から興味がなくなってしまうことかと思います」
 現時点において、ここまで自分自身の立ち位置がはっきりと見えているならばもう大丈夫。
 おそらくこの先、いろいろなフィギュアメーカーから引く手あまたでマスプロダクト用原型製作依頼の声がかかるはずだし、その都度自分に課した新しい美少女フィギュア造形表現を生み出してくれるはずだ。

text by Masahiko ASANO

ひがたなるよ生年月日非公開。夫が裏方として事務関連を担当するだけでなく、造形に関してもデザイン、ポージング、自己監修、塗装などをふたりでいっしょにこなすこともある、非常にめずらしい夫婦による造形ユニット。妻の干潟は中学1年の際に家族に連れられ渡米した経験があり、英語が話せないまま突然現地の学校に編入させられたため、唯一日本語に触れることのできるオンラインゲームへ傾倒することに。そうした流れから将来的にはゲーム製作や3Dモデラーに携わりたいと思うようになり、ZBrushやBlenderを用い基礎練習を繰り返していた際に、日本へ帰国する話が浮上。帰国後の2021年には、アメリカで伝え聞いていたワンフェスへ“干潟為四”名義によりディーラー参加をスタートしはじめた。現在はすでにフィギュアメーカーから依頼されるマスプロダクト原型の造形に従事しているが、ワンフェスのようなイベントへ出品する作品は「創作系のデザインで、造形的な魅力だけでなく、背景の世界観の魅力を伝えられるような作品をシリーズ化して発表していきたい」とのこと。

ツイッター https://twitter.com/naruyotame4

WSC#111プレゼンテーション作品解説

© 上海アリス幻樂団




© 上海アリス幻樂団


『アリス・マーガトロイド』

from 『東方Projectシリーズ 東方妖々夢』
1/7スケール(全高220mm)レジンキャストキット


※大変恐縮ですが、諸般の事情により本プレゼンテーション作品は展示のみで販売はいたしません。各WSCアーティストのブースにて直接お買い求めください


 もしもこのプレゼンテーション作品を手に取ったならば、真っ先に表情豊かな指のパーツに見入ってみてください。昨今では滅多に見られぬほどすばらしい「演技」付けが成されており、指のパーツを見ているだけでも「アリスの設定=人形使いの魔術師」が手に取るように分るはずです。さらに組み上がった状態のキャラクターを眺めれば、体をひねった状態のアリスとそれに追従して動く人形が見事な演技を見せており、「単体の美少女フィギュア」というよりは「ヴィネット(小型のディオラマ)」としてデザインされていることが分かるはず。
 ちなみにこの件は干潟的には計算済みで、「ポーズを取って目線を向けた飾り物ではなく、作品世界の1場面を切り取ったような、見た人が周りの情景を思い浮かべられるような作品にすることもテーマとして持りこんだ」と語ります。つまり、そうした目論見が見事成功しているのが本作品の特徴だと言うことができるでしょう。

© 上海アリス幻樂団


※干潟為四からのコメント

 干潟為四です。
 ここでは『ワンダーショウケース』のアーティストコメント欄ということで、拙い文を書かせていただいていております。最初は何を書いたものかと迷いましたが、ここまで目を通して下さっているということは選出作品や作者に興味をいただけたと思って紹介文を書くことにしました。
 原型師を志して早二年。コロナ禍と重なりイベントの中止が相次ぎワンフェス2022冬にてついに初参加とよろこんでいた中、足を運んでいただいたあさの様方からWSCについてお声がけいただけたのがことのはじまりでした。
 駆け出しの自分が初参加のイベント会場でこのようなお話をいただけるとは思っておりませんでしたので、その時は困惑することばかりではありましたが、貴重な機会をいただいたことに感謝すると共に、今後の活動の励みにしたいと思っております。
 さて今回WSCに選出いただきました本作は「人形劇」をテーマに製作を行いました。優れた人形師であり、自身もまた人形のような少女と称されるアリス・マーガトロイドというキャラクター。そんな彼女の設定に惹かれて、普段製作する機会の多いキャラクターフィギュアとは違った「人形」の魅力を自分なりに詰め込むつもりで製作にあたりました。
 自身の作った人形たちを操り劇を披露するアリス。指先まで造形された様な彼女の立ち姿を含めて一服の絵画のように感じていただければ幸いです。もし本作を気に入っていただけた方でワンフェス会場へ足を運ばれていましたら、どうぞお気軽に干潟為四ブースにも遊びに来てくださいませ。
 そのときどきで自由に(気まぐれに)作っているので一見すると「違う原型師の作品じゃないか?」と思うような作品が展示されているかもしれませんが、どんな作品も魅力的なものになるよう精一杯努めていますのでお楽しみいただければ幸いです。