アーティスト紹介

WSC#114 柚P

[YZPhouse]

キャラクターデザイン画との計り知れないフィット感
よくも悪くも「2020年代を表現した造形感覚」

 冒頭からいきなり辛口発言(?)になってしまうが、柚Pを今回の『ワンダーショウケース』に選出した最大の理由は、マゼランというキャラクターのデザイン画と柚Pの造形資質がジャストフィットしていたことにある。そもそもが非常に立体映えするデザインなのだが、この凛々しい雰囲気のキャラクターをそっくりそのまま再現したテクニックに対し(複雑なデザインによる服もものすごく適切に造形されている)、もちろん「上手い」「凄い」という言葉を用いてもよいのだが、今回のケースにおいては「巧い」と表現するのがいちばん適切であるように思う。
 ただし、1点疑問に感じたのが目の造形表現だ。眼球が位置する部分が緩く窪んでいるだけで、目と皮膚の境界線が基本的に存在しないのだ(本当の人体における目は皮膚部分から盛り上がってRを描いており、皮膚と目には明確な境界線が存在する)。
 もっとも、もちろんこうした造形に見覚えがないわけではない。昨今のPVC製塗装済み完成品のフィギュアでは、むしろポピュラーな造形表現である。タンポ印刷で目を再現する場合は、目の周辺に凹凸が存在するほうがむしろ邪魔になってくるからだ。ただしそれは「PVC製塗装済み完成品フィギュアだからこその造形表現=ディスアドバンテージとも言える足かせ」であり、そうした呪縛から逃げることができるアドバンテージを有するのがガレージキットではないのか?
 「もちろん目のモールドが存在せず、目が一切盛り上がっていないことは自覚した上で造形をしています。というのも、最近はフィギュア製作時に目のモールドをすべて消してしまう人が少なくないんですよ。
 あと、たとえば『ルパン三世』みたいな比較的リアルな劇画タッチの絵柄ならば目はモールドしないといけないと思うんですが、最近の美少女系アニメ──たとえば『らき☆すた』みたいな作品のフィギュアは目をモールドすると妙に生々しくなってしまい、アニメの世界観が崩れてしまうんですよね」
 この言葉には「……なるほど!」と唸らされるものがあった。これまであまり気にしていなかったのだが、確かに最近の美少女キャラクターが登場するゲームでは顔の動きが制限されたものが多くを占め、少々大げさにたとえるならば「まるでゲーム劇中にてPVC製塗装済み完成品フィギュアが動いているように見える」というものが少なくない。
 それがよいのか悪いのかは置いておくとして、柚Pの造形表現がある意味において時代の雰囲気を反映した作品であることはまちがいないと言えよう。

text by Masahiko ASANO

ゆずぴー1994年5月8日生まれ。小学校に入学する以前からプラスチックモデルやミニ四駆などの製作に勤しみ、中学生になると早くもエアブラシを使った塗装や、自作パーツをシリコーンゴム型&レジンキャストで複製するまでに達する。高校に進むと『ホビージャパン』で作例担当モデラーを引き受けるなど、年齢と比例しない早熟ぶりを遺憾なく発揮。その後、お手伝いで参加したワンフェスにおいて、自分で作業した成果物をお金でやり取りする熱量を目の当たりにし強い刺激を受ける。結果、14年夏から造形仲間とディーラー参加をはじめたが、19年夏からは自らが代表であるディーラー“YZPhouse”を立ち上げることに。なお、「プロの造形作家になることは考えていない」と言いつつも、いま現在はフリーランスとして模型雑誌やフィギュアメーカーの仕事を幅広く受け付けつつ、自身のブログ『YZPハウス』で情報発信したり、YouTubeの『ゆずぴほうせ』というチャンネルで模型製作動画を公開するなど、インターネットの環境を存分に活かした行為も行っている。

ツイッター https://twitter.com/YZPhouse

YZPハウス(Webメディア) https://yzphouse.com/

ゆずぴほうせ(YouTube) https://www.youtube.com/@yzphouse/

WSC#114プレゼンテーション作品解説

© Hypergryph ©Yostar Inc.


『マゼラン』

from スマホゲームアプリ『アークナイツ』
1/7スケール(全高260mm)レジンキャストキット


※大変恐縮ですが、諸般の事情により本プレゼンテーション作品は展示のみで販売はいたしません。各WSCアーティストのブースにて直接お買い求めください


 “集中と拡散”理論に基づき服装がデザインされているマゼラン(スマホゲームアプリ『アークナイツ』に登場する、ドローンを召喚できる補助オペレーター)は、3DCGソフト使いの上手い造形作家が作れば必ず立体映えするキャラクター。
 ただしデザインの読解段階で意図的に盛り込まれた微妙な粗密感に気付けないと、なんとなく間が抜けたような作品になってしまう存在でもあります。
 柚Pはそうしたデザインの読み解き段階で非常に優れた能力を発揮し、デジタルツールにてそれを的確に再現(塗装のため粉々にパーツ分割することも考えたが、「完全な上級者向けキットにならぬ寸止めを狙った」とのこと)。そもそもは「手で作るものよりも高密度で正確なものが作れるから」「時代に取り残されないように覚えておこう」という軽い気持ちから導入した3DCGモデリングの利点が120%よい方向に転んだ、じつに清々しいオーラを背負った造形物となりました。

© Hypergryph ©Yostar Inc.


© Hypergryph ©Yostar Inc.


© Hypergryph ©Yostar Inc.


※柚Pからのコメント

 こんにちは、YZPhouseの柚Pと申します。
 ワンフェスに参加しはじめて約9年、毎回すばらしい造形作家さんが選ばれている『ワンダーショウケース』を見続けてきましたが、まさかまさか自分に声がかかるとは思ってもいませんでした……。選出していただけたこと大変光栄に思っております!
 このような場で言うようなことではないのかもしれませんが、正直な話、普段の私は、造形作家としての大きな目標があったりだとか、立派な大義名分があって造形活動をしているわけではないです。ただ単に「ものを作るのが好き」という一心で、自分が楽しいと思っていることを続けているだけなんですよね。
 私のものづくりが好きは、車・バイクいじり、木工や金属加工といったDIYまで幅広くあって、そのひとつにフィギュア造形があるイメージです。
 そのなかでもフィギュア造形というのは、大好きなものづくりの技術を使って、大好きなキャラが自分で作れるんですよ。最高の趣味だとは思いませんか? ハマらない理由がありません。
 今回WSCに選出していただいた『マゼラン』は、私が2年前くらいに友人に勧められてはじめたスマホゲーム『アークナイツ』に登場するキャラクターです。一発で私を「作ってみたい!」と思わせてくれる、とても魅力的かつ複雑な衣装デザインでした。が、作るのも超大変でした……。
 造形技術もまだまだ未熟ではありますが、造形活動は続けていくつもりですので今後ともよろしくお願いします!
 最後になりましたが、このような活動が続けられているのも、イベント関係者様、版権元様、いつもお手伝いしてくれる友人たち、イベントに参加してディーラーを支えてくれている皆さまのおかげです。本当にありがとうございます!