アーティスト紹介

■これまでこのWSCプレゼンテーション報告書は『ホビージャパン』と『モデルグラフィックス』というふたつの模型雑誌に「広告出稿」というかたちで掲載してきたのですが、アマチュアディーラーによるガレージキット即売会イベントとしてのワンフェスと模型雑誌の読者層が徐々に(しかし確実に)ズレてきているという現実、そして、「『ワンダーショウケース(以下WSC)』公式Webサイトがきちんと定着したいま、模型雑誌にWSCプレゼンテーション報告書を掲載するのは得策ではない(というか、じつはまちがっている)のではないか?」という話へ至り、今回からはWSC公式Webサイトにてプレゼンテーション報告を行うことと相成りました。
 模型雑誌にてこれまでWSCプレゼンテーション報告書を読まれていた方には「お久しぶりです」、模型雑誌に掲載されていたWSCプレゼンテーション報告書の存在を知らなかった方には「はじめまして」。このWSCプレゼンテーション報告書は、ワンフェス当日にWSCアーティストたちの作品がどのような売れ方をしたか=信任投票をされたかを赤裸々に報告すると同時に、「レジンキャストキットのリアルな現在(いま)」をアマチュアディーラーの皆さんと共有していくためのリポートだと考えてください。


■さて、第30期WSCのプレゼンテーション報告書を綴るには、まずは今期のWSCが置かれた状況の特殊さをきちんと説明する必要があるかと思います。
 第29期WSCのプレゼンテーションが実施されたのは、1年前の'15年2月8日(日)に開催された冬のワンフェスでした。そして、同年の7月26日(日)に開催された夏のワンフェスに向け、じつは第30期WSCアーティスト3名にはすでに'14年末の時点で「ほぼ内定」が出ていたのです(つまり見方を変えるならば、'14年夏のワンフェスにはあまりにも優れた作品が多数出品されていたということです)。
 が、レーベルプロデューサーであるぼくが'14年12月末より体調を崩してしまい、1ヶ月以上にわたる入院を経た末に'15年冬のワンフェスを欠席せざるをえなかったがため、話が非常にややこしくなってしまいました。
 どういうことかと言うと……'15年冬のワンフェス会場にて次期WSCアーティスト候補探しを行わなかった(行えなかった)以上、いかにほぼ内定が出ていたとはいえ、第30期WSCアーティスト候補だった3名をそのままスライドして'15年夏のワンフェスにてプレゼンテーションを行ったとした場合、WSCとしての根本的な理念が崩壊しかねません。何せ、「'15年冬のワンフェスにて優れた作品を発表していた造形作家がいたとしたら、その存在を無視することに繋がってしまうから」です。
 この問題を宮脇修一センムを筆頭とするWSCスタッフ一同と真剣に話し合った結果、そこで導き出された結論は以下のようなものでした。
 「'15年夏のワンフェスではWSCのプレゼンテーションを『1回休み』とし、'15年夏のワンフェス会場で再びきちんと次期WSCアーティスト候補探しを行う。その上で、'15年夏のワンフェスで新たに見つけた才能や作品と、すでにほぼ内定が出ていた第30期WSCアーティスト候補3名をフラットな視点にて両天秤にかけ、そして真の第30期WSCアーティストを決定しよう」。
 確かに真剣に考えれば考えるほどこれ以外の選択肢は存在しなかったわけですが、ただし、このことにより、ほぼ内定が出たまま宙ぶらりんの状態になっていた第30期WSCアーティスト候補たちが落選に至ってしまう可能性も生じてしまったということです。
 この事実には正直な話、胃に穴が空くほど悩みに悩んだのですが……ただし幸か不幸か、あまりにも高水準であった'14年夏のワンフェスを凌ぐ出品作品を見いだすことができなかったため、結果、「ほぼ内定」の状態で止まっていた3名の次期WSCアーティスト候補をそっくりそのまま第30期WSCアーティストとして正式にプレゼンテーションできることとなったのでした。
 つまり、第30期WSCアーティストの3名には丸1年にわたって気を揉む状態を強いてしまったわけで、本当にいくら謝っても謝り切れないというのが実情なのです。WSC#078 岩元邦仁、WSC#079 のら、WSC#080 saiの3名には、改めてこの場を借りてお詫びさせていただきます。本当に申し訳ございませんでした。


■……という感じで第30期WSCプレゼンテーションの特殊な状況を説明し終えた上で、ようやく本題たる第30期WSCプレゼンテーションの報告へと入っていきたいと思います。
 まずは何より、今回もまたWSCブース(幕張メッセ 4ホール内)へ足を運んでくださった方々、誠にありがとうございました。
 スタッフ一同、謹んでお礼を申し上げます。


■それでは、まずは毎度恒例の赤裸々な売り上げ報告から。WSC#078 岩元邦仁の『ハゴロモちゃん』(ワンフェス会場販売分50個=総生産数50個完全限定)が、50個を持ち込んで41個の販売。WSC#079 のらの『ジュラちゃん』(ワンフェス会場販売分100個限定)が、100個を持ち込んで31個の販売。WSC#080 saiの『宮内れんげ』(ワンフェス会場販売分100個限定)が、100個を持ち込んで100個の販売=完売、という結果でした。
 「流行りの美少女キャラ以外のレジンキットが加速的に売れなくなってきている」という問題と、「レジンキャストキットの成型単価がどんどん高騰していっているため、WSCプレゼンテーション作品の価格から以前のようなお徳感がなくなってしまった」という問題から、第27期WSC('14年夏)よりプレゼンテーション作品の生産数を大幅に絞り込むしかなくなってしまったわけですが、それでもやはり、『宮内れんげ』以外では完売が生じなかったというのが現実です。
 もっとも、『ハゴロモちゃん』には「ワンフェス会場特価でもじつに23,900円もする」という特殊性が、『ジュラちゃん』には「美少女フィギュアファンならばスルーするほうがむしろ自然」という特殊性が存在したため、この2作品に関しては当初より完売はありえないと考えていたのですが、印象的だったのは『ハゴロモちゃん』のその売れ方でした。「過剰なまでに繊細、かつ、細小で多大なパーツにて構成された特殊な高額未組み立てキットゆえ、ワンフェス終了後の追加生産はいまのところ予定されていません」という旨と「ワンフェス会場販売分50個=総生産数50個完全限定」という旨があらかじめ謳われていたため、「どうしてもハゴロモちゃんを確保したい!」という人が午前10時の開場と同時にWSCブースへ駆け付け、20個ほどが瞬時に売れてしまったのです。
 これは、WSC#063 大山 竜(第25期WSC/'13年冬)の『ガラモン』のときとよく似た現象であり(ワンフェス会場特価でも19,000円したのに、158個を持ち込んで158個の販売=完売!)、「やはり本当に優れた(そして気に入った)作品に対しては大金の投入を惜しまない、ガレージキットスピリッツに溢れる人は少数派とはいえまだ存在するんだ」という事実を改めて確認させられた思いです。
 そういうのって、本当に素直にうれしいですね。


■WSC#079 のらの『ジュラちゃん』に関して言えば、極端なことを言えば「ひとつも売れなくても仕方がない」と考えていたのも事実です。おそらく、この作品が秀逸であるという事実を理解してくれた人が一定以上いたであろうと考える反面、「じゃあ、だからといってこういうマスコット的な作品(それも未塗装未組み立てのキット状態)に対し、4,500円を投じる人の顔が思い浮かぶか?」と問われれば、「う~ん……グラフィックデザイナーを生業としている女性ぐらいしかイメージできないかも……」というのが正直なアンサーでしょうか。
 こうした特異な才能をピックアップすることができるのがWSCを続けていくモチベーションに繋がっているのもまた事実ですが、当のアーティスト本人からすれば、やはりこの販売個数にはがっかりしてしまうかもしれません。
 まあ、この件は「これこそがリアルな現実」として受け止めるしかないのですが……。


■WSC#080 saiの『宮内れんげ』の完売は非常に妥当な結果だったと思います。いまプロ原型師としてバリバリ伸び盛りであるsaiの「the 美少女フィギュア」たる作品が7,500円で入手できるわけですから、レジンキットの美少女フィギュア好きならば「押さえておきたい」と考えるほうが普通かもしれません。
 ちなみにこの宮内れんげですが、プレゼンテーション作品を購入した人しか知り得ないおもしろい「お遊び」が隠されています。左手で握っているリコーダーの裏には「みやうちれんげ」という名前が凹状でモールドされており、リコーダーの基本塗装終了後にエナメル系塗料の白などでスミ入れすると、文字が浮かび上がる……という仕組みです。
 3ds Maxという3DCGツールを用いたデジタルモデリングだからこそ成し得たお遊びであり(アナログでそんなことをするのは「米に文字を書く」のと同様の苦労を強いられるはず)、プレゼンテーション作品を購入した人はいますぐにでもリコーダーのレジンパーツを確認してみてください。「……へえ~!」と感嘆すること、請け合いです。


■さて、この原稿を綴っているのは'16年2月13日(土)なのですが、すでに第31期WSCアーティスト候補は出揃っており、本WSCプレゼンテーション報告書がWSC公式Webサイトにアップロードされたときにはおそらく第31期WSCアーティストの3名が決定に至っていることと思います(ちなみにすでに忘れてしまった人やそもそもその話を知らない人のために再度ここに記しておきますが、WSCのプレゼンテーションは「該当者なし」と思った場合には1回お休みにしますし、1回のプレゼンテーションで選出するアーティストは第13期='06年冬以降はMAX 3名にて固定しています)。
 じつは今回の'16年冬のワンフェスは「いつにない大当たりの回」で、WSC選出基準をクリアーしている人や作品が7人(個)以上存在したという現実を目の当たりにし、いま現在、誰から順番に声をかけていくべきなのか猛烈に悩んでいるという状況です。
 もっとも、WSC選出基準をクリアーしている人や作品が7人(個)以上存在したということは、仮にWSCからのオファーにお断りを入れてくる人が何人かいたとしても、'16年夏に第31期WSCのプレゼンテーションが開催されるのは99.9999……%まちがいないと考えてよいと思います。
 最終的に誰に決まるのかぼく自身楽しみであると同時に、今回選出することができない人が生じるであろうことも決定的なためまたまた胃が痛いのですが(何せ枠は「MAX 3名」と決まっているわけですから)、それでは次回のワンフェスにて再見!

▲このWSC第30期プレゼンテーション報告書のいちばん上に貼り付けた写真が、開場直後の10時12分に撮影したWSCブースの光景。閑散とした状態で、購入窓口に並ぶ人たちが手にしている商品はそのすべてが『ハゴロモちゃん』でした。で、こちらの写真は、昼食を取るため一度ワンフェス事務局へ戻ってきた13時27分に撮影したWSCブースの光景(このとき、宮内れんげはすでに完売)。毎度のことながら13時以降は大体が「プレゼンテーション作品完成見本の大撮影会」と化しており、17時の閉場時間までほぼほぼこんな状態が続きます