アーティスト紹介

▲施工デザインが固定されているため毎度同じような絵になってしまうので、今回はあえて開場前(9時42分)における、販売スタッフの打ち合わせ風景を掲載してみました


■そんなこんなですでに恒例となっております「WSC公式Webサイトという場を使ったWSCプレゼンテーションのアフターリポート」を今回も綴らせていただきます。
 まずは何より、今回もまたWSCブース(幕張メッセ 4ホール内)へ足を運んでくださった方々、誠にありがとうございました。
 スタッフ一同、謹んでお礼を申し上げます。


■なお、「今回ワンフェス会場で限定販売した第36期WSCアーティスト3名のプレゼンテーション作品が何個売れたか」ということに関しては、今回も、そして今後も、具体的な数字はこのプレゼンテーション報告書内に記載しない方向性で考えています。
 その理由に関しては、前回=第35期プレゼンテーション報告書をいま一度読み返していただければ……と思います。


■さて、前置きはこんなところにしておくとして、具体的な話に入っていきましょう。
 すでにお気付きの方も多数いらっしゃる……というか、今季WSCアーティスト3名のアーティスト解説やプロフィールをきちんと読んでくださった方ならば全員がすでにご理解されているわけですが、前期に続き、第36期WSCアーティストの3名も「全員が3DCGソフトを駆使したデジタルモデリング系モデラー」という結果と相成りました。
 よくも悪くも「もうこの先は毎回こんな感じになっていくんだろうな」と思う反面、WSC#097 MIZ / 水野功貴のプレゼンテーション作品である『MAMORU』以外は、ポリエステルパテやファンドなどで造形することが可能な作品であることも事実です。
 要するに、「造形手段の選択肢が増えた」「デジタルモデリング環境が完全に一般化した」ということ以上でも以下でもないんですよね。実際のところ、今冬のワンフェスではZBrushの開発元であるPixologicがワンフェス会場図を使い、アマチュアディーラーゾーンにおけるZBrush / ZBrushCoreユーザーを一覧表化したのですが(結果、なんと会場内の8%ほどのアマチュアディーラーがすでにZBrushユーザーであった旨が発覚!)、ただしそのおかげで、「……コレってデジタルでモデリングする必要がどこにあったの?」というような作品がワンフェス会場内に山ほどあることも同時に確認できてしまったわけです。
 つまり、デジタルモデリングに切り替えたことにより左右対称が簡単に出せるようになったり超絶に緻密な造形が可能になったからといっても、ガレージキットスピリッツ=つねに圧倒的な造形であろうとし続ける精神性や造形センスが感じられない作品にはまったく魅力を感じませんし、そうしたデジタルモデリング作品がWSCに選出されることは今後も絶対にあり得ません。
 そこのところだけはきちんと分かっておいていただきたいな、と思います。


■ちなみに今期WSC最大のトピックと言えば、「アーティスト3名中2名が創作メカ(ロボット)系モデラーだった」ということに尽きると思います。
 メカ系や怪獣系が好きな人からは「WSCはメカと怪獣に冷たい」とよく言われるのですが決してそんなことはなく、じつは毎回、「なんとかメカ系や怪獣系からWSCアーティストを選出できないものだろうか?」と、むしろ贔屓目にワンフェス会場を練り歩いているぐらいなんですよ。
 ……が。仮にその造形対象が版権キャラクターだった場合、昨今のガ●プラの完成度などと比べるとそれを凌駕するような造形センスを有するメカ系作品はほぼまったく見つかりませんし、怪獣系にしても、WSC#063 大山 竜のような「怪獣という対象を一度客観的に突き放し、それを解体~高解像度にて再構築しているような造形」でない限り、WSC選出対象には成り得にくいんです。それで言うとやはり、美少女フィギュアというジャンルのほうが表現力や造形力のスピードが日々加速し続けているので、どうしてもWSCアーティストとして選出しやすい環境にあるという。


■そうした状況な中で、「アーティスト3名中2名が創作メカ(ロボット)系モデラーだった」というのはやはり、(自分で選出しておきながら)猛烈に驚いている次第でして……しかも両者のアプローチがほぼ真逆なのがまたおもしろいというか。
 ちなみにWSC#096 稲葉コウに関しては、ぼくから言いたいこと・言うべきことは本当に何もありません。本業が2Dメカニックデザイナーなのだから、ワンフェスでの造形は素直に楽しみ、それをよい意味で生業にフィードバックしてもらえればなあ、と。
 ただし唯一告げておいたほうがよいと思うのは、RUDOLFに続く残り8頭のトナカイ=8体の創作系少女型ロボットを本気で造形するつもりがあるならば、「細部は最後に煮詰めるにしても、なるだけ早めに8体すべての基本デザインを終わらせてしまうべきだ」ということです。こういうシリーズものは必ず後半でインフレが生じシンプルなデザインを発表することができない蟻地獄にハマるので、プロのメカニックデザイナーなのだからそこはやはり上手く凌ぎ切ってほしいところですね。

▲稲葉のRUDOLF完成見本は塗り分けパターンが2種存在しているのはプレゼンテーション用画像を見てお分かりだと思いますが、アマチュアディーラー卓で販売されていたときの完成見本は左側2体のカラーリングデザインでした。しかしこれだと「塗り分けパターンに整合性がない(同じ武装に対し、片方は赤の差し色が入っているのにもう片方はグレーのまま)」「目の塗装が差し色の役割を果たし切っていない」とレーベルプロデューサーが難癖を付け(苦笑)、Photoshopを使い作成したのが右側2体のカラーリング改定案。この改定案に対し稲葉がすんなり納得してくれたお陰で、WSC版RUDOLFの完成見本はこのカラーリングデザインと化したわけです


■対して、WSC#097 MIZ / 水野功貴に期待したいのはそれこそWSC#060 小林和史のウィーゴと同様に、できればどこかの企業と組んでMARUTTOYSを早々にブランド化することでしょうか。というのも、彼の手掛けるプロダクトデザインというのは手作り作品=ガレージキットの段階で止まっていたら「負け」だと思うんですね。言い方を変えれば、現時点ですでに「マスプロダクト化されてなんぼなレベルにある」と。
 当然ながら本人もそのことには自覚的だと思うのですが、ただし、たとえば「ならばMAMORUがどこかの企業から合金トイとして発売されたら勝ちなのか?」と言えば、それもまた違うと思うんです。彼自身がプロデューサーとして、企画そのもの自体に絡んでいけるマスプロダクトデザイナーにまで行き着いてほしいんですよ。
 無論、そんなにたやすい話でないことは分かっていますが、MIZ / 水野功貴が進んでいかないといけないベクトルは、まちがいなくそういう方向性だと思うわけです。

▲昨夏ワンフェスにおいて、MARUTTOYSブースにて配布されていたMARUTTOYS &『ATARASY products』の両面カラー印刷フライヤー(A4サイズ)と、MARUTTOYSブース風景。誰も知らない創作系タイトルでワンフェスに打って出る際には当然ながらそれ相応の「プレゼンテーション」が必要だと思うのですが、現状、大抵のアマチュアディーラーはそうしたプレゼンテーションをほぼ一切行っていないのが実情です。そういう環境下に、MIZはいきなり「これ」を提示してきたと。これこそブランディング戦略のお手本であり、「ここまで含めての「MIZはもっと先のステージまで辿り着かないといけない才能」だということなのです


■そして最後に、今回唯一の美少女フィギュア造形作家として選出されたWSC#098 イノリサマについて。
 これはアーティスト解説に書いたことの繰り返しになってしまうのですが、とにかく彼はこれまで「2Dのアニメ(漫画)絵と3Dの生身の女体の“よいとこ取り=セミリアル的造形の正解値”を探求し続けてきた」わけです。たとえば生身の女の子だとチャームポイントとなり得る“えくぼ”を、アニメ絵系イラストレーターがそれを描くと途端に“お母さん顔の記号”と化してしまう──こうしたことはセミリアル的造形でも多々生じ、「口腔をリアルに造形してもアニメ系キャラに見えるのか?」「上唇溝(唇上端から鼻の下へ通じる溝)を再現したときアニメ系キャラとして違和感は生じないのか?」等々、まだまだその表現を進化させていく余地は多大に残されています。
 そうしたトライアルのひとつの結晶が今回プレゼンテーション作品となったラヴィニア・ウェイトリーであり、ここでの成功例を次回作に繋げられるかどうかは彼次第。彼のトライアルはもうしばらく続きそうな気配も見えるので、もう1~2年ほどは冷静にその動向を見守ってみたいと思っています。

▲イノリサマが過去にチャレンジしてきたセミリアル創作系美少女フィギュア造形を、ぜひともここで紹介させていただきたく……左側のキツネツキは、「口腔をリアルに造形してもアニメ系キャラに見えるのか?」というトライアル。右側の白鬼(シロオニ)は、「上唇溝(唇上端から鼻の下へ通じる溝)を再現したときアニメ系キャラとして違和感は生じないのか?」というトライアル。正直に言わせていただくとどちらも完成の域には達していない(=やはり「どちらもちょっと怖い」)と思う反面、それでもこうしたトライアルを決してやめようとしないハートのあり方にガレージキットスピリッツを強く感じますね


■というわけで、仮に次回もWSCのプレゼンテーションが行われた場合は、WSC創立20周年プレゼンテーションとなります(規模こそ分かりませんが、できればやはり“創立20周年特別展示”はやはり行いたいし、行うべきだろうと考えています)。
 さらに、次期WSCアーティストが2名以上だった場合、通算WSCナンバーがついに100番を越えます(ちなみに交渉こそまだはじまっていませんが、この原稿を書いている時点ですでに、ぼくの中では次期WSCアーティスト2名が決定しています)。WSCが創設された際、こんな日が巡ってくると一体誰が考えたでしょうか?
 というわけで特別記念回となる、次回の夏のプレゼンテーションにて再見、です!

▲“レジンキャスト& ABSフィラメント(※FDM式3Dプリンタ出力パーツ)キット”というWSC#097 MIZのプレゼンテーション作品である『MAMORU』の販売風景を眺めていて、いまさらながら「……ああ、ガレージキットはいよいよこんなところにまで来てしまったのか」という感慨深さを覚えることに。ガレージキットが日本各地で同時多発現象的に誕生し、爆発的に広まりはじめたのが'82年ごろ。そこから37年、まさかこうした形態のガレージキットが販売される日が来ようとは……