プレゼンテーション報告書

▲2021年秋ワンフェスの開催は幻に終わってしまいましたが、2021年秋ワンフェスにおける第39期WSCプレゼンテーションのブース施工デザインはこのように大幅に変更される予定でした。「WSCアーティストがWSCに選出されたことを今まで以上に誇りに思えるようにしよう!」ということがそのコンセプトで、3mサイズの巨大なターポリン(塩化ビニール系多層素材)にプレゼンテーション作品画像を印刷し装飾する──という内容になるはずだったのですが……


■「波乱万丈」。第39期WSCのプレゼンテーションはとにもかくにもこの一言に尽きたため、そこへの経緯を包み隠さず開示していきたいと思います。


■まず、第39期WSCプレゼンテーションの概要が公開される日付が「2021年1月7日(木)」である旨が、2020年12月7日に当Webサイトのトップページで予告されました。
 冬ワンフェスにおけるこうした情報公開のタイミングは毎年同時期であり、その後新年を迎え、2021年1月7日(木)正午に、当Webサイトにて第39期WSCのプレゼンテーション概要が公開になりました。
 そして、ここまでは準備万端というか、何もかもが予定どおりだったわけですが……。


■しかし問題はその直後に生じます。よりにもよって同日の夕方、首都圏の1都3県を対象に1月8日から2月7日までの期間、新型コロナウイルス感染拡大防止対策として、特別措置法に基づく緊急事態宣言が政府から発令されてしまったのです。
 そして、その緊急事態宣言内には「1イベントにつき参加者上限5,000人の施設の利用制限」という項目が設けられており、出展ディーラーだけで6,500人近い方が参加される『ワンダーフェスティバル2021[冬]』は、もうこの時点で開催することができなくなってしまったと。
 その結果、「わずか数時間」というほんの誤差的なタイミングにて、第39期のWSCプレゼンテーションの「延期」が決定しまったというわけです。
 とにもかくにもこうした状況に対し、第39期WSCアーティストの3名に対してはとにかく素直にお詫びを申し上げることしかできなかったわけですが、こんな「嘘のような本当の話」が、事前の段階で誰に想像出来たことでしょう?


■いずれにせよこうした事態を受け第39期WSCプレゼンテーションは、『東京2020オリンピック&パラリンピック』終了直後の2021年9月20日(月/祝)開催による『ワンダーフェスティバル2021[秋]』に持ち越された訳ですが──秋ワンフェスを本格的に企画制作していた夏季は、デルタ株に基づく新型コロナウイルス感染の第5波が全国各地で猛威を奮っていた時期であり(9月12日まで4回目の緊急事態宣言が各地に出されていた時期でもあります)、8月23日には再び、ワンフェス実行委員会から「秋ワンフェス開催中止」のアナウンスが出されることに。
 2020年夏、2021年冬、そして、2021年秋。ワンフェスの開催が3回連続で取り止めになったのは、当然ながらワンフェス史上初の由々しき事態です。
 新型コロナウイルス感染拡大防止問題と日々対峙している我々からすれば「ある意味当然」だと思うしかない反面、やはりこれは、「異常(非常)事態」以外の何物でもないとしか言いようがありません。


■前置き(?)が長くなってしまい恐縮です。ようやくここからが、「第39期WSCプレゼンテーション」の話となります。
 結局のところ、第39期WSCプレゼンテーションは2021年10月9日(土)にインターネット上にて開催された、『ワンダーフェスティバル2021[秋]オンライン』をもってようやく実施されることになりました。同オンラインイベントを通じ第39期WSCアーティスト3名を支持=彼&彼女らのプレゼンテーション作品をお買い上げになってくださった方々には、スタッフ一同、謹んでお礼を申し上げます。
 ……ただし正直なこと=ぼくの気持ちを率直に言うと、「ガレージキット(的な造形作品のレプリカ)の販売」とは、「塗装まで施された完成見本をじっくりと現場で眺め、その質感や量感等を読み解きそこにお金を投資するもの」だと考えているので、オンラインイベントでの販売だけで第39期WSCプレゼンテーションを終了させてしまうのは、第39期WSCアーティスト3名に対し申し訳が立たない気分なのです。
 なので、この後、どういうかたちかはまだ分かりませんが、彼&彼女ら3名の作品を「生」で皆さまに見てもらう機会をなんとしても設けたいと考えています。
 もちろん、現時点では確約的なお約束はできませんが──。


■というわけで、今回のプレゼンテーションはあまりにも特殊な環境であったがゆえ、「オンラインイベント当日での販売の勢いがどうであった」とか、「SNSでどう盛り上がっていたか」というような話題は意図的に排除し、第39期WSCアーティスト3名に対する「覚え書き」的な内容+αを綴っていきたいと思います。


■それではまず、WSC#105 Sagata Kick(Sculborns)から。
 新型コロナウイルス感染対策を万全に施し2020年10月10日に都内の某スタジオで実施された第39期WSCプレゼンテーション撮影会では、Sagata Kickからそれまでに教えてもらっていなかった話が多大に聞け、非常に興味深かったことをよく覚えています。
 ……が! そうした詳細な内容とその関連画像が2021年2月12月に発売された『レプリカントEX8』(竹書房)に掲載されてしまい、こちらとしては完全に「ムキーッ!」状態w(マジで覚えていろよ~、F編集長!)
 というわけで(同誌を読んでいただければ「そのまんま」なのですが)彼のプレゼンテーション作品である『Brains & Brawn』にはいわゆる「裏設定」が存在し、一見すると完全に主役に見える巨大トカゲ系クリーチャーのBrawnはじつは脇役(?)で、Brawnの頭部に乗っている相棒の小型トカゲ系クリーチャーのBrainsが「子供だった囚人のBrawnを監獄内で育て上げ、いま脱獄に乗り出した」という設定なのだそうです。
 そうした創作作品のバックボーンを多弁に語ることなく、空気感のみでそれを感じさせるあたりがSagata Kickならではの特性であり、やはり「これまでのクリーチャー系造形作家とはひと味もふた味も異なる米国臭の漂う人物」という気がしますね。

▲プレゼンテーション作品『Brains & Brawn』の以前に製作された前日譚的な作品、『Brains meets Baby』。Brainsが抱いている赤ちゃんトカゲがのちに成長して巨大化し、Brawnと化す……という設定です。「説明がなくとも画を見ただけで伝わってくるふたりのあいだの空気感や繋がり」を大切にする、“関係性萌え”属性たるSagata Kickらしい作品と言えるでしょう


■次いで、WSC#106 ココハチ(clips)に関して。
 ココハチによる造形作品の完成見本を仕上げているのはclipsの主催者であり、いまやフィギュアペインター(PVC製塗装済み完成品フィギュアの、量産用ペイントマスター製作者)として超売れっ子状態のWSC#046 Noaが全面的に担当している旨は、アーティスト解説内で記したとおり。
 そして、「Noaの独断でそれが進められている訳ではなく、フィギュアの原型ができあがった時点でココハチがそれをデジカメで撮影し、その画像に対し彼がイメージしていたカラーリングを画像加工ソフトを使い彩色。そうして作成した彩色画像をベースとしてNoaと共に色相を検討していく」という旨も、アーティスト解説内で説明しました。
 そこで今回は、プレゼンテーション作品となった『梅真寺 小毬丸』を通じ、いったいどのような感じでそうした作業が展開されていたのかを理解するための資料を提供していただくことに。
 下に掲載した画像を見れば一目瞭然だと思いますが──左側が、造形が仕上がった状態で撮影したデジカメ画像を一度モノクロ化し、その後、ココハチが画像加工ソフトを使いカラーリングデザインを決めていったもの。そして右側が、そのデジカメ画像をベースに、Noaと共に色相を検討していった様子。「塗装」というものに対しあまり興味のない人からすると、「……ここまでするのか!」という驚きを隠せないのではないでしょうか?

▲共にフリーランスのグラフィックデザイナーを生業とするココハチとNoaのコンビだからこその、「絶対音感」ならぬ「絶対色感」的な資質に基づくカラーリングデザイン作業行程。もちろんこうした色彩設計図をここまで厳密に作成することが「偉い」「すごい」というわけではなく、こうした行為を感覚的にこなしてしまう天才肌も世には存在するわけですが、少なくともこれが「彼なりの戦い方」というわけなのです


■そして、今期唯一の女性アーティストであるWSC#107 青井きみどり(磯リズム)について。
 これもまた彼女のアーティスト解説内に記してありますが、彼女の造形的才能は、じつは2019年冬のワンフェス時点で充分WSC選出基準に達していたんですね(汗)。そのことに気付かされたのが2020年冬のワンフェスであり(つまり1年遅れ)、その造形作品とは、今回彼女のプレゼンテーション作品となった『ルシファー』と同じスマホ用ゲームアプリ『グランブルーファンタジー』に登場する『パーシヴァル』。2019年冬のワンフェスで初出展(販売)された、なんとガレージキット的造形2作目(!)にあたる作品だそうです(もっとも、もう1体のフィギュアを同時進行で製作していたため、厳密に言えば「2作目なのか3作目なのかは断定できない」とのことですが)。
 ちなみにこのころの彼女はまだスカルピーによるアナログ造形であったわけですが、フィギュア全体から醸し出されるすばらしく安定した完成度の高さ(地面にかかっている1G感がすごい!)と同等以上に驚かされたのが、ディテーリング能力の高さ。たとえば、マントの端を1周縁取っている金色の装飾縁編みなどは「これ、一体どうやって造形したんだ!?」とまったく理解できなかったのですが、本人曰く、「あ、これ、意外と簡単で、糸状に細く伸ばした2本のスカルピーを編み込んでいって、それをマントの縁に付けただけなんですw」とのアンサー。
 ……これ、ずいぶん前から感じていたことなんですが、女性作家による造形作品って、その根っこの部分にじつは「手芸」的なものがあるんじゃないかと思うんですよ。これはこれまで選出してきた歴代女性WSCアーティスト皆にほぼ共通したものを感じていたのですが、発想力の柔らかさや手先の異様なまでの器用さ、集中力、忍耐力みたいな部分に、「造形魂」みたいなものとは確実に異なる「手芸力」的な感覚を覚えるんです。
 というわけで青井の作風には、「このぼくの考え方はやはり案外的を外れていないんじゃない?」と思わされるものがあったことをここに記しておきたく思います。

▲2020年冬のワンフェス会場で撮影させていただいた、2019年冬のワンフェスで初出展されていたパーシヴァル。じつの話、青井のプレゼンテーション作品となった『ルシファー』よりも個人的にはこのパーシヴァルのほうが気に入っており(元絵の再現度数がとんでもなく高い!)、青井のプレゼンテーション作品を決定する際には大きな悩みを抱えることに……(最終的には、「せっかくZBrush造形を覚えた最新作であるルシファーをプレゼンテーション作品にしてほしい」という青井の希望を立てて、ルシファーをプレゼンテーション作品化することにしたのですが)


■なお、ラスト前に絶対に公表しておきたい(おかなければいけない)エピソードがひとつあります。
 WSCの撮影会は都内の某スタジオで午前10時ごろからスタートし、午後6時ごろまで続きます(それだけ「時間をかけて凝った撮影をしている」ということでもあります)。その後はスタジオ付近の居酒屋へ移動し、宮脇センムの仕切りにて打ち上げを行うのですが、その場には前期(今回で言うならば第38期)WSCアーティストを招待し、そして今期(今回で言うならば第39期)WSCアーティストとの「顔合わせ」を行い、「2期に亘るWSCアーティストたちのバトンタッチの場」とすることにしていたのです。もう、これは第2期WSC(2000年冬)から続く「伝統行事」のようなものです。そうすることで、「点でしか繋がらないはず」のWSCアーティストたちを、「線として繋がってもらうことにより、仲間意識やライバル意識、共同体意識を持ってもらう」ということを、当初の企画段階から考えていたんですね。
 ただし。2020年10月10日に実施された第39期WSCの撮影会は、「こうした状況下」ゆえに、その場に第38期WSCアーティストたちを招待することができませんでした。撮影会が終わったら、全員がスタジオから即解散。ぼくも打ち上げ=アルコール摂取がないことが前提でスタジオ入りしたため、自家用車でそのまま自宅へ戻ることに。
 これに対しては、第1期の撮影会から欠かさす参加してくださっている宮脇センムも「この状況はホンマにアカンなあ。かと言って、この時期に多人数で会食し、コロナのクラスターとかやらかしたら最悪だし……」と至極当然ながら本気で頭を痛めていました。
 この件、「どうでもよい人にとってはどうでもよい話」でしょうけれど、WSCという企画を20年以上続けて来たぼくや宮脇センムにとっては本当に大打撃だったのです。
 そして、こうした状況がこの先いつまで続くのかと考えると、とにかく気分が重くなります。


■さて、ラストのラストに「この先のWSC」の話を綴っておく必要がありますね。
 2021年秋のワンフェスがオンラインイベントになってしまったおかげで、ぼくをはじめとする次期WSCアーティスト選出委員会的なメンバーは、各造形作家さんの作品を「生」で眺めていません。同様のことを前述したように、造形作品というものは「塗装まで施された完成見本をじっくりと現場で眺め、その質感や量感等を読み解き初めて評価ができる」ものです。よって、仮に2022年冬にワンフェスが再開できることになっても、そこで第40期WSCのプレゼンテーションを行うことは100%不可能なのです。
 また、海洋堂が2020年に投資ファンド企業と資本業務提携を締結し新体制と化したため、仮に今後もWSCを存続させるためには、昨今は大赤字企画と化しているWSCの根本的な見直しを迫られているといった現実もあります。
 新型コロナウイルス感染拡大問題がいつ終息するのかといった問題まで含め、現状では何もかもが不透明。モヤモヤとした気分は一向に晴れる気配を見せませんが、少なくともぼくとしては、「WSCはワンフェスにおける“ガレージキットスピリッツ(つねに圧倒的であろうとするガレージキットならではの精神性を意味する概念)”の象徴として、絶対に継続させていかなければいけない企画である」と考えていることだけはお伝えしておきたいと思います。

▲本文中でも触れた2021年2月12月発売の『レプリカントEX8』(竹書房)では、筆者の手による記事“MAレプリカント ワークショップ”『「ワンダーショウケース」20周年回顧録』なる記事が9ページにも亘って掲載されているので、まだ未読の方はぜひともご一読いただきたく思います。WSC誕生への経緯から今現在におけるまでの流れが一気に把握できる内容となっていると共に、これまで明かされなかった宮脇センムのWSCへの本音などがダイレクトにテキスト化されています。しかしこの「WSC創設20周年記念プレゼンテーション」が開催されたのは、2019年7月28日……つまり、もう2年以上も昔の話なんですよね。「ワンフェスが3回連続で開催中止になっている」という異常(非常)事態を、いやがうえにも実感させられる次第です