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WSC#006 臼井政一郎
Masaichiro USUI
[軽音堂]
「処女作」にしてその他を圧倒した
正真正銘のスーパーノヴァ(超新星)
彫塑(ちょうそ)的なアプローチで2Dのキャラクターを造形する手法は、'80年代の中盤からひとつのスタンダードとされてきた。もっとも、その大半が「彫刻の枠組みにマンガの絵を強引に当てはめてみました」的な力技ばかりで、「造形の元となった絵にどれだけ似ているか」が過剰に重んじられるガレージキットシーンにあって、それらが「奇抜」という評価を越えることはほとんどなかった。
臼井政一郎の作風も、大別するならばその彫塑系に括られることになるのだろうが、先人たちのそれとは明らかに異なるオーラを放っている。彫塑とガレージキット、そのどちらの岸辺から眺めても無理がないというか、「自分は芸術的な視点から造形に取り組んでいるんだ」という、鼻に付く自意識はまったく感じられない。じつに嫌味なくふたつのテイストが混じり合い、真意での《彫塑的造形とガレージキット的造形の融合》が成し遂げられているのだ。外国人の骨格を意識した頭蓋骨や、眼球がきちんと“球”であることを感じさせる作りでありながら、コアなオタク的視点で眺めても「元絵から逸脱していない」その感覚―ガレージキット黎明期を支えたイノベーターたちが夢見た風景のひとつが、まさしく「これ」だったのではないだろうか?
また、臼井を語るうえでもうひとつ触れておかなければいけないのが、彼が「正真正銘のド新人である」という点だ。
フィギュア造形に手を染めはじめたのは前回のワンフェスからで、その際も、バリと気泡だらけのレジンキャストパーツを無塗装のままゴロゴロと机上に並べていただけの超テキトーぶり。ガレージキット製作に対するハウツーもまったく知らず、原型の造形から型取り/複製まで、すべて独学でテキトーに習得したらしいのだが……、WSC選出後にいくつか具体的な課題を与えてみると、原型の改修にしても塗装にしても、こちらがイメージしたビジョンの数倍のクオリティーをもってそれらを楽々とクリアしてみせたのだ。臼井が塗装した造形物を一度も見ることなくWSCへ選出した自分も大胆だったと思うが、その英断を「コレなら誰でも選びたくなるよね」というところまで下落させてしまうだけのものを、彼はたかだか1~2カ月のうちに身に付けてしまったことになる。
WSCという存在がガレージキット作家のモチベーションを高め、目標を得たことで才能が加速的に開花していく―ぼくが当初掲げたこの理想像を見事体現してみせてくれた臼井には、レーベルプロデューサーとして感謝しても感謝し切れないのである。
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text by Masahiko ASANO |
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うすいまさいちろう●1976年2月14日生まれ。小学生時代から漠然と「イラストやマンガ関連の仕事に就きたい」というビジョンを持ちつつも、オタク道にどっぷりハマることなくデザイン学科のある高校へ入学。高校卒業後は名古屋芸術大学(美術学部洋画コース)へと進学、「西洋美術史をきちんと学んだのち、ジョルジェット・ジウジアローのような感覚派系プロダクツデザイナーになりたい」という明確な未来予想図を描き、某自動車メーカーのカーデザイナーを目指して邁進。ただしその夢は諸般の理由から果たされることなく終り、同大学卒業後、友人の影響から一気にガレージキットの世界に開眼する。ワンフェスへの参加は、作家紹介文中にあるように'00年冬から(販売アシストとしては'99年夏より参加)。「自分がほしいと思うタイプのフィギュアは現状のシーンから欠落している。だからこそ、それを自分で作って埋めていきたい」というのが今後の目標である。
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WSC#006プレゼンテーション作品解説 |
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© CAPCOM CO.,LTD
春麗
※from 『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』
1/4胸像(全高170mm)レジンキャストキット
■ 商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/7,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/1万2,000円
(※販売は終了しています)
前回のワンフェスにおいて「フィギュア造形の処女作(のバリと気泡だらけの複製パーツ)を無塗装のまま展示していたら、いきなりレーベルプロデューサーに声をかけられた」という超ラッキーボーイ、臼井政一郎。そのいわくつきの処女作“春麗”が、各部にリファインを施したWSCヴァージョンとしてプレゼンテーションされます。カプコンの絵柄をきちんと尊重しつつも、写実的な人体彫刻をイメージさせる(きちんと頭蓋骨を感じさせる)ソリッドにしてスピーディ&パワフルな造形を、じっくりと堪能してください。
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臼井政一郎からのWSC選出時におけるコメント |
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ファッションデザイナーのアレキサンダー・マックィーンがこの前のショーで言っていたこと。
「今回伝えたかったメッセージは、もう一度“ファッション”というもののあり方を考え直してほしいということなんだ。インターネット等のテクノロジーの発達がめざましい現在、ファッションが持つ本来の意味――つまり、人々が求めるファンタジーであったり、夢であったりという部分だと思うんだけど――それが商業ベースに流され、忘れられているような気がする。だからあえて僕は、ここにファッションの意味と、それに対する愛情の意を表したんだ」
同じようなことがガレージキットにも言えて、流行に振りまわされたり、自分を偽ってまで売れ筋を狙ってみたりせず、いま自分のなかにある造形に対する愛情を表現すれば、それに同意してくれる人は必ず出てくると思うのです。実際に、前回のワンフェスで“人集め”用に作った2体(1/8キャミィと1/8神月かりん)は不評で、いま見ると「何がしたかったの?」というような作りでした。そのほかにもう2体(春麗と1/4キャミィ)作ったのですが、これは純粋に「作りたい!」という気持ちから作ったので、春麗は初作品にも関わらず『ワンダーショウケース』に選ばれたし、1/4キャミィは、本場の金髪の外国人(キャミィも金髪)に片言の日本語で「いくらでも出すから譲ってくれ!」と言い寄られました。
要は、好きである以上に、愛しているということが大切なのだと思う。仕事だから……といって、愛情を込めるのを忘れていませんか?
「原型師はあんまりもうからないよ」とかよく言われるのだけど、“ガレージキット版スター誕生”の別名を持つ『ワンダーショウケース』だけに、デビューしたての芸人にでもなったつもりでがんばっていこうと思います。
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