アーティスト紹介

WSC #014 バサロキック

Vassallo Kick

[バサロキック21]

「半端な知名度」の悪影響から伸び悩む
女子小中学生造形(苦笑)のファンタジスタ

 バサロキックはつくづく星まわりの悪い男だ。じつの話、WSC#002や#003あたりに名を連ねていてもおかしくなかったはずなのだが、こちらが乗り気のときにはあちらが声優の追っかけで心ここにあらず状態だったり、いざあちらが乗り気になるとプライベート面のごたごたで急遽NGになったり、過去5回のプレゼンテーション、そのすべてを星まわりの悪さだけで逃してきた人物なのである。
 もっとも、歴代WSCアーティストのなかでは「WSC選出以前から名が売れていた」部類に属するガレージキット作家でもあり、今回のこの選定に、「こんな有名人をいまさらなぜ!?」といぶかしむ輩も少なくないかもしれない。
 しかし、はっきりと言っておこう。「現在バサロキックが有している知名度は、誤った評価軸に基づくものでしかない」と。また、「メディア露出の機会が多いのも、模型雑誌編集者とのコネクションを複数有しているがゆえに、いたずらに採り上げられる機会が多いに過ぎない」のだと。
 もちろん、それらは本人の責任ではないのだが、そこからの影響として、「自分のどの部分が優れているのか、他者からそれを具体的な言葉で聞かされたことがほとんどない」という状況が生じ、結果、「何をどう作っても“バサロキック作品”というレッテルが貼られるだけで、作品ごとの善し悪しでは勝負できない」という、表現者としてもっとも悲観すべき泥沼的シチュエーションに彼は首まで浸かりかけている。つまり、そうした現状の是正に微力ながらでも協力したいがゆえのWSC選出であり、彼の資質の真実(ほんとう)を、ぜひとも皆に知っていただきたいのだ。
 そう―バサロキック造形の神髄は、何よりもまず、都や県の倫理条例的にヤバそうな「女子小学生や女子中学生の女体表現」にある。たとえば、大腿骨~内モモに伸びる縦スジの窪みであったり、下っ腹の出っ張り具合であったり、ヒジの微妙な反り返り方であったり、その秀逸さ具合に気付いている人はどれほどいるだろうか? しかもそれが、「生身のカラダを模しただけ」という短絡的なものではなく、写実表現とアニメ的デフォルメーションの高次元融合にまでいきなり達しているあたりがとにかくすごいのだ。
 そうした目で、バサロキックの過去の作品をぜひとも眺め直してみてほしい。ものすごくよく作り込まれているのに「流行りのキャラじゃない」というだけで不当な評価を受けているものがあったり、逆に、顔以外は適当に作ってある半手抜き作品のほうが高評価を得ていたり……これまでひどくちぐはぐな扱いを受けていたその事実に、あなたもきっと気付くはずだ。そして、そうした視点が広く共有されることをきっかけに、バサロキックが「レッテルという泥沼」から這い出してくることを、ぼくは心の底から願っている。

text by Masahiko ASANO

ばさろきっく本名/米津宏一、1963年8月6日生まれ。'85年、東映ビデオガレージキットフォトコンテストにおいて『甲賀幻妖斎』で東映賞を受賞したのを皮切りに、'87年に『B-CLUB』誌上オリジナルオーラバトラーコンテストで2席入賞、'95年にはスーパーフェスティバル・ハロウィンスペシャル第1回モデルコンテストにて『マグニートー』でグランプリを受賞するなど、地方(徳島県)在住のハンディキャップを逆利用し、各方面の“造形コンテスト荒らし”としてゲリラ的に活躍。その実績と本人の腰の低さから、『B-CLUB』『S.M.H.』『月刊モデルグラフィックス』『レプリカント』『電撃ホビーマガジン』『D.D.D.』といった複数の雑誌に作品が掲載された過去も持ち合わせる。ワンフェスとの関わり合いは、B-CLUBの販売代行システムで'88年に間接的デビューを果たしたのち、'96年冬からは自身のディーラー“バサロキック”として参加。また、アーティスト紹介文では女子小中学生造形(苦笑)の件に終始してしまったが、実際には、写実的でファインアート性の高いリアル系フィギュアの作り手としても有名だったりする。

WSC#014プレゼンテーション作品解説

© Mizutama Keinojo, Kaiyodo 2002


ワンダ&リセット

※from ワンダーフェスティバル オリジナルマスコットキャラクター
1/8(全高約180mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/2,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/4,800円(税別)

(※販売は終了しています)


 女子小中学生造形にかけては右に出る者がいない存在であるバサロキック。そんな彼の才能がもっとも顕著に体現されていた逸品が、'98年夏のワンフェスにて発表された“ワンダ・(バサロキックの手によるワンダの3作目)”でした。その名作キットが、「もっとも脂の乗っていた時期のバサロ造形をもう一度みんなに見せてみたい」というレーベルプロデューサーたっての希望で復活を果たします。しかも、「ワンダ・と作風を揃えたリセットを新たに作り起こして、かつての造形感覚を取り戻してほしい」というリクエストにバサロキックが応えた結果、ワンダ(=ワンダ・)とリセットの2体セットによる豪華なプレゼンテーション作品と相成りました。
 この年代の女のコならではのプロポーション表現が最大の見どころですが、ふたりの足元にも要注目! ワンダのエア・シェイクインデストラクトとリセットのエア・フォース・、そのどちらもスニーカーマニア大感激の出来映えです。

バサロキックからのWSC選出時におけるコメント

 私は“出来のよい模型”を作りたいんじゃなくて、“本物”を作りたく思ってます。
“本物”と言ってもいわゆる“リアル”とか“写実”とか呼ばれるものとはちょっと違っていて、アニメキャラだったとしても、「本当にこんな顔の生きものがいたらこんな感じかな?」って感じで。
 でも、なんでガレージキットという形態を選んでるんでしょう?
 造形することそのものに魅力を感じているのならば、別にワンフェスとかに参加したり
しないで作品を作り続けててもいいのに。面倒な型取りや量産なんてしなくてもいいのに。キャラクターものだろうが肖像権ものだろうが、権利関係を気にすることなく好きなものを好きなように作れるのに。性表現だ構いなしに作っちゃえるのに。なのに、なぜ……?
 それは、もちろん「売ることでお金になる」っていう部分もないことはないけれど、でも本当に肝心な部分は、「触れてほしい」からなんです。
 最近のワンフェスでは、写真だけ撮って去って行く人が結構多いです。見向きもされないよりはうれしいことには違いないけれど、でも、立体なんだから立体として味わってほしいですよね。買ってくれた人にも、不思議と「キレイに完成させてほしい」っていう気持ちより、「アルミ線で軸を打ってパーツを固定するだけでもいいから、それを手に取って、上からも下からもあっちこっちぐるぐるまわして見てほしい」って思っちゃいます。むしろそのほうが、私なりの“本物感”を感じてもらえる気がして。
 そんなことを考えながらフィギュアを作ってるわけなんですけど、WSCに選ばれたってことは、もしかしたら、そのあたりとガレージキットスピリッツってなんとなく関係あるんじゃないですかね?