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WSC #030 森 洋文
Hirofumi MORI
[HIROFUMIX]
造形以上にプロデューサー的俯瞰視点が際立つ
20年遅れの「ポスト横山 宏&小林 誠」
こちらから聞いたわけでもないのに、明らかに分不相応なレベルの夢や野望を自分からペラペラと語りはじめる輩ほどウザいものはない。
ただし――ガレージキットのような表現形態の場合、造形物からはぜひとも夢や野望を滲み出させてほしい。盆栽に取り組むような枯れたスタンスもあれはあれで素敵だが、やはりガレージキットは思春期的なパッションをぶつける場であってほしいのだ。
それで言うと、森が手がけた作品たちはじつに雄弁であった。「……ん? これってオリジナルデザイン?」「創作メカ系ディーラーで潜水艦(注/じつは潜水艦ではないらしい)なんて勇気あるなあ。っていうか、バカ?」「たぶん、山下いくとあたりのデザインラインに影響を受けたんだろうけど、自分のデザイナー的資質が人真似レベルを脱却できていないことには気付いているみたい」「……いや、部分的には人真似を脱却できてるぞ。これってやっぱり、横山 宏や小林 誠と同じく、2Dと3Dでキャッチボールしながらデザイン検証している結果かな?」「しかし、空間構成能力はともかく、造形自体は拙いなぁ」「あああ~、どこもかしこもモールドがよれよれじゃん」「……うん、でも、この空まわり感がキュートでおもしろい!」。森の個人ブース前に立ち止まってから、以上の思考を巡らすのにわずか30秒ほど。そしてその瞬間、森に話しかける前に、彼のWSCアーティスト選出は99.9%確定していた。
「模型雑誌のライターや、モデラー、プランナーといったかたちでこの業界に関わりながら、最終的には横山や小林のように総合プロデュース的な立場でオリジナル作品の制作を手がけてみたい。そのためには村上 隆のように、自分で造形を手がけず、下請け職工に造形を発注するのも全然アリだと思う」と語る23歳。しかしこの台詞は、1時間ほどアルコールを飲み交わしつつ、やっとのことで引っぱり出した夢や野望だ。
森がこうした夢や野望を本当に叶えることができるのかどうか。正直に言えば、ここから先の道は極めて厳しいと言わざるをえない。森の才能どうこう以前に、「時代が変わってしまった」がゆえ、かつての横山や小林のようなスタート位置から「その先」をイメージすることが困難となってしまったためだ。
ただし、その横山や小林から20年遅れという時代遅れ感がまたおもしろい。ガレージキットという超アナログの世界から、デジタル全盛のマーケットに打って出られるか否か。じつに無責任な話だが、一介のサポーター的スタンスからエールを送り続けてみたいと思う。
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text by Masahiko ASANO |
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もりひろふみ●1983年2月3日生まれ。父親がプラモデルよりも手作り玩具を推奨するタイプであったために竹ひごで作るライトプレーンにて工作(造形)に開眼、レーサーミニ四駆を買ってもらえなかったがゆえに紙でニセ ミニ四駆を作り、それを学校で褒められたことにより味をしめる。小学2年生のときに初めてスケールモデルキット(エルエスの1/144航空機シリーズ)に触れ、「……SDガンダムとはレベルが違う!」と感激するも、小学5年生からはキャラクターモデルキット道をまっしぐら。以降、順当にステップアップを果たし、高校入学後はキット改造からフルスクラッチビルドへ転ずる。美大在学時に現代美術アーティストの村上 隆が台頭、同級生たちからの村上バッシングをものともせず、「これはこれで全然アリだろ!」と擁護派にまわり、そうした流れからGEISAIやワンフェスへの参加を決意する。ワンフェスには'02年冬、“HIROFUMIX”名義で初参加。大学卒業後の造形会社勤務を経て、今春より本格的にフリーランス原型師としての活動に入る。
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WSC#030プレゼンテーション作品解説 |
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© 森 洋文 HIROFUMIX
国連国家統一機構軍旗艦
戦艦イーハトーヴ
※1/700(全長265mm)レジンキャストキット
■ 商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/5,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/8,000円(税込
(※販売は終了しています)
美少女フィギュア全盛のガレージキットシーン内において、メカ系ガレージキットが苦戦を強いられている昨今。さらにその造形ネタが、多くの人が知っている人気アニメの主役ロボットなどとはほど遠い、無骨な潜水艦風の創作メカだとしたら――。一見すればわかるとおり、いわゆる「売れ線」のデザインや造形ではないかもしれません。しかし、弱冠23歳の新鋭・森の手がける自身の創作デザイン造形からは、「流行に合わせた人真似的なデザインではなく、自分のオリジナリティでシーンを切り裂いていきたい!」という気概が見て取れるのではないでしょうか?
プレゼンテーション作品となる“国連国家統一機構軍旗艦 戦艦イーハトーヴ”は、ディテールにとどまらず、パーツ分割の段階から全面的に改修された“WSCヴァージョン”とでも呼ぶべき存在。実際にモデルを手にしてみると、眺める角度を変えるたびにどんどん表情が変化していく、その「立体映え」するデザインに驚くはずです。また、キットにはアーティスト自身のデザインによるデカールも付属します。
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森 洋文からのWSC選出時におけるコメント |
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創作メカものなんてジャンルをやりだしたのは、横山 宏氏や小林 誠氏のフォトストーリーなんかに触れて「自分もやりて~」っていう独創性みたいなものに対するあこがれから。最初はロボット描けばガ○ダムもどき、戦艦描けばヤ○トもどきになっちゃうような自分のオリジナリティのなさに絶望。でも、思春期自家中毒真っ最中の少年はあきらめない。
「よく見るメカ記号は使わない」。具体的にはロケットノズル的なもの、連装砲塔なんかは使わないってのをルールにしてなんとかカタチにしたのが今回選ばれたブツ。
「奇形化した国連が掲げる地球国家統一を目的とした事実上の世界侵略も、国連敗戦での終戦が濃厚になっていた。そんななか、起死回生をかけて国連軍が展開する最後の作戦の舞台は東京。その最優先占拠目標は世界の情報管制塔“秋葉原東京ニュータワー”だった。
国連軍と自衛隊の反重力制御の巨大兵器による戦闘がいま、はじまった。
吹き飛ぶビル、瓦礫とともになかのテナントに陳列されていたであろうフィギュアやらエロゲーやら“アキバのカケラ”が地上の兵隊たちに振り注ぐ。
そう、これはまさにオタク好みの兵器に破壊されるオタクの聖地……まさしく萌える聖戦……萌える女の子なんかどこにも見あたらないけど。」
(『決戦艦やまとあらた』最終章「決戦、秋葉原」より)
……なんていう勝手な物語を妄想し、カタチにする。そんなスタンスで参加費トントンくらいの売り上げで参加してたら、まだまだ拙い造形なのにこんな舞台に立っちゃった。
『ワンダーショウケース』選出はひとつの目標だったんで、とてもうれしく思ってます。
次の目標は何? ポスト横山? ポスト小林? ポスト新海 誠? マーク・パーカーにお呼ばれ?
とりあえず、もっともっと作ってから考えよう。
このままじゃ、きっと思春期モラトリアムキャラの香ばしさだけで終わっちゃいそうだから……。
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