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WSC #033 岡崎武士

Takeshi OKAZAKI

[はぽい処]

「絵が描ける」という無限のアドバンテージ
時代はついに「黒船」を呼び込みはじめた

 ぶっちゃけ、いま現在トップクラスの原型師で、まともな“絵”が描ける人間は皆無に等しい。造形技術は匠の業そのものだが、2Dの絵画(アニメ絵含む)を描かせてしまうと途端に苦笑レベル。そのことを別段恥じる必要はないと思うが、しかし、「……もしも2Dの世界でブイブイ言わせている絵描きが造形の世界へ本気で参入してきたら、いまの原型師たちは蹴落とされちゃうんじゃない?」という疑問をつねづね抱いていたのは事実。そして、そうした“黒船襲来”を切望していたのもまた事実である。別に無理やり原型師たちを貶めたいわけではないのだが、この世界が次のステップへ進むためには、「それ」は必要不可欠な通過儀礼だと思うのだ。
 そこで岡崎武士という存在である。
 まず初めに言っておくと、必要に駆られぬ限り漫画やアニメなどをいっさい見ないぼくは、岡崎武士という人物をつい先日まで知らなかった(←ザ・勉強不足)。ゆえに、「一世を風靡した漫画家」「著名イラストレーター」「精鋭3DCG作家」というプロフィールをまったく知らぬまま、ワンフェス初参加だった岡崎の造形作品といきなり対峙したことになる。そして、岡崎の造形作品を眺めたときのファーストインプレッションは、「……たぶんコイツは絵が描ける! そして、頭のなかではもっとずっと解像度の高い完成図が思い描けているんだけど、でも、造形技術がまだまだ未熟なのでそこへ到達できていないのだろう」というものであった。
「でもね」。岡崎は語る。
「頭のなかで完成図が思い描けても、それを3Dでアウトプットできるようになる保証はどこにもない。だから、絵描きであることがすべてアドバンテージに直結するほど単純な世界だとは思っていませんよ」
 確かにそれはそうだ。だが、しかし―。
「元々自分の絵には華がないと思っていたので、“萌え”ムーヴメントの到来に対し、クリエイターとして危機感を抱いた」ため、「萌えというものを見極めたくなった」。結果、「フィギュアを買いたい、お持ち帰りしたいという気持ちこそが、萌えムーヴメントの本質を体現した姿ではないか」というひとつの結論に達し、「クリエイターとしてこの世界で生き残っていくため、フィギュア造形を通じて萌えを習得する勉強をしはじめた」。ゆえに、「自分の絵を立体化しても構わないが、他者がデザインした版権キャラクターを造形することで得られるものも大きい」のだという。
 原型師たちがいま現在の岡崎に脅威を感じているかどうか、それはぼくにはわからない。しかし、“黒船襲来”という事変はこうして確実に進行しつつあるのだ。

text by Masahiko ASANO

おかざきたけし1967年8月29日生まれ。'87年、『エクスプローラーウーマン・レイ』(学研)にて漫画家デビュー。代表作として『リリカルかれんちゃん』(角川書店)、『恋』(原作/大川七瀬、新書館)、『カウンタック』(学研)、'97年に第1回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞も受賞した『精霊使い(エレメンタラー)』(角川書店)などがあるが、『精霊使い』の連載終了後、漫画家としての活動を突如休止。以後は小説の挿絵などを中心としたイラストレーター業へシフトし、『EXIST』(角川書店)『void』(講談社)といった画集も発売。そして'00年、自らがキャラクターデザインを手がけた『@Run-city』(小学館)『プラトニックチェーン』(エンターブレイン)が共に3DCGでキャラクター化されることになったのをきっかけに、3DCGモデリングの世界へ進出する。現在は、3DCG映像企画制作会社(有)アルファモデルの代表取締役を務めつつ、'05年夏より“はぽい処”名義でワンフェスにも参加。マルチクリエイターとして、作家活動の幅をいまなお広げつつある。
(※出版元の記述はすべて初版発売時のものです)

WSC#033プレゼンテーション作品解説

© 福盛田藍子/スクウェア・エニックス


デヴィー

※ノンスケール(全高150mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/5,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/8,000円(税込)

(※販売は終了しています)


 漫画家として、イラストレーターとして、3DCG作家として、つねに第一線で活躍し続けてきた岡崎武士。「それだけの華々しいキャリアを有していながら、なぜいまさらガレージキットの原型製作などを!?」と不思議に思う人も多いでしょう。さらに、オリジナルキャラクターの創作に対し人三倍長けているにも関わらず、版権モノの既存キャラクターを造形してしまうという謎……。そこには、「キャラクター産業が盛況な今日、その産業を支える“キャラクター”というものの魅力の本質を造形を通じて研究したい」「造形を通じて“萌え”ムーヴメントの本質を読み解き、萌えを自分のなかに取り込みたい」といった理由が潜んでおり、それゆえに製作された異色作が、今回のプレゼンテーション作品となった“デヴィー”(コミック『ティルナフロウ』より)というわけです。
 見どころはやはり、造形デビュー間もない人間とは思えぬそのしなやかな作り。「絵が描ける」というアドバンテージを実感すること必至です。

岡崎武士からのWSC選出時におけるコメント

 “はぽい処”の岡崎武士です。この“はぽい処”というディーラー名は、自分が同人誌即売会でサークル参加をしたときに使っていた名前です。
 自分は絵も描きますし3DCGも作ります。昨年より造形をはじめました。一見バラバラなジャンルを食い散らかすようにモノを作っているように見えるかもしれませんが、自分の目指すところは共通していて、魅力的なキャラクターを作り出すことです。
 絵も3DCGも造形も、魅力的なキャラクターを観る側の方々に提示することだと、自分のなかではあまり分け隔てることなく捉えています。自分の脳内にあるビジュアルを実際にかたちにするという意味でも、造形は絵や3DCGと本質的に何ら変わるものではないと思うのです。
 もちろん造形には造形にしかない魅力があって、物質として「そこに在る」というそれだけで、絵や3DCGでは表現しきれない存在感があり、だからこそ夢中になって毎日造形をやっているのですが。
 今回WSCのプレゼンテーション作品に選出していただいたデヴィーは、「版権モノで動きのあるフィギュアを作ろう」という目標で取りかかった作品でした。原作のキャラクターの持つ躍動感を作品に盛り込もうと、慣れない素材と格闘しながら四苦八苦して作り出したものです。技術的にもまだまだ未熟で、うまく伝えられたか自信はあまりないのですが、今後も魅力を感じるキャラクターがあれば、版権モノであろうとオリジナルであろうとこだわることなく作っていきたいと思っています。
 キャラクター産業の盛況が伝えられる昨今、キャラクターの魅力について思いを巡らせながら削りカスにまみれる毎日なのです。