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WSC #035 矢竹剛教

Yoshinori YATAKE

[ACCEL(アクセル)]

処女作からいきなり巧い、ブレのない抜群の安定感
「造形を見る目」の重要性を体現した塗装の匠

 '04年末、ぼくは矢竹に仕事をオファーした経験を持っている。その内容とは、「WSC#023吉沢光正が原型製作を手掛けたキャミィを、PVC製塗装済み完成品化するためのペイントマスター(=量産フィギュア用塗装見本)を作成してくれないか?」というものであり、当時の矢竹といえば、生粋のモデルフィニッシャー(模型製作代行業者)として活動していた。つまり、矢竹が造形に着手しはじめたのはそれ以降の話なのだ。
「フィニッシャー活動を通じて造形を見る目は養われていたので、なんとなく“そろそろ自分で原型作れるんとちゃう?”みたいな感じからスタートして。
 というのも……この世界におけるフィニッシャーの位置付けって、しょせんは原型師の引き立て役なんですよ。どんなに上手く塗装して仕上げても、けっきょくはそのキットの原型製作を手掛けた原型師の評価を高めることに荷担しているだけで、自分自身の評価にはほとんど繋がらない。花形はつねに原型師なんです。だから、そのことに対する疑問というか、原型師に対するコンプレックスみたいなものはずっと抱いていたので、造形で自分がどのぐらいできるのか試してみたくなって」
 矢竹の造形作品は処女作から突出していた。ひとことで言うならば「巧い」。顔の造作に少々クセがあるものの、デッサンにしても空間構成にしてもディテーリングにしても専業原型師レベルにあり、何よりその「安定感」が見事だった。見る者を不安にさせる要素が極めて少ないというか、造形にブレがないのだ。さらに、分不相応な高望みをすることなく、自らが設定した現実的な(しかし、決してハードルが低いわけではない)ゴール地点に向け迷わず駆け込んでいったことが他者からも読み取れる、その「大人の仕事」ぶりもまたすばらしかった。ぼくは「絵が上手に描ける才能を有しているならばフィギュア造形なんかお茶の子さいさい」論を掲げている人間なので、「処女作からいきなり上手い」という部分にはなんの驚きも感じないのだが、「処女作からいきなり巧い」ことに対しては大いに感心させられた。
 が、それと同時に、そうした「安定感」と「大人の仕事」に対しもの足りなさを感じたのも事実である。
 原型師に対するコンプレックスが創作意欲の源となり、自分がどれだけやれるのかを試したくなったのならば、それこそ「ぶっ倒れるまで走る」べきではないか? ゴール地点の設定をもっと厳しくするべきではないか?
「この先も生業はペイントマスター製作であり、造形は副業的に考えている」という人間に対しそこまで言うのは酷かもしれないが、矢竹の『ワンダーショウケース』選出は、ある意味ぼくからの「愛の鞭」なのだ。

text by Masahiko ASANO

やたけよしのり1968年5月25日生まれ。小学生時代にガンプラブームで模型製作にハマり、美大(短期)デザイン科在学時にはオタク趣味を一旦放棄するも、ゲーム制作会社へ就職し、再びオタクの世界へ。その後、FRP成型会社、塗装会社勤めを経て「次の就職先を探してデザイン会社まわりなどをしていた」際、大阪市中央区にあるホビーショップ『怪物屋』に出入りするようになり、同ショップからの依頼でクリーチャー系ガレージキットの製作代行を請け負いはじめる。'03年、のちにWSC#023として『ワンダーショウケース』に選出されることになる吉沢光正との交流がはじまり、'04年[夏]のワンフェスにて、吉沢のWSCプレゼンテーション作品キャミィの展示用完成見本(俗称“白版”&“黒版”)作成を担当、凄腕フィニッシャーとして一躍脚光を浴びる。ガレージキットディーラーとしては'05年[冬]に“ACCEL(アクセル)”名義で初参加、いきなりの「50個完売」を経験し、造形が有する魔性の魅力に取り憑かれていくことになる。

WSC#035プレゼンテーション作品解説

© 2006 ACCEL


丑蜜(うしみつ)

※WSCアーティスト自身によるオリジナルキャラクター
ノンスケール(全高150mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/5,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/8,000円(税込)

(※販売は終了しています)


 当初はプロのモデルフィニッシャー(模型製作代行業者)としてガレージキット業界でのキャリアをスタートさせた矢竹剛教。現在は、ペイントマスター(量産フィギュア用塗装見本)制作を生業としつつ、'04年末から造形にも着手、誰もが驚くほどの成長曲線を描きながら「あっ」というまにここまで駆け上ってきました。手掛ける造形作品は美少女フィギュアならぬ“美女フィギュア”とでも呼ぶべきジャンルに属するものですが、フィニッシャー時代に触れ馴染んだ『エイリアン』や『プレデター』といったクリーチャー系造形のディテールや質感表現を上手く採り入れているあたりが矢竹造形ならではの特徴。塗装前のレジンキャストパーツ状態でも「この服はこういう縫製なのか」「ここのパッドは皮製なんだな」などということが見て取れるディテーリングが成されているゆえ、キットを組み立てる側のイマジネーションをいやが応にも駆り立てるはずです。
 ちなみに、プレゼンテーション作品となる“丑蜜”は、矢竹自身の手による創作キャラクター。その妖艶な雰囲気と揺るぎのない造形テクニックをたっぷりとご堪能ください。

矢竹剛教からのWSC選出時におけるコメント

 いろんな意味で「よく自分を選んだなぁ」とか思いながらも粛々とお受けすることにしました。WSCに至っては、勝ち負けの線引きが「売れ行き」に関係ないってことがレーベルプロデューサーとの会話の中で感じ取ることができ納得。なので「ソレ以外の観点から選出しているのだろう」と。でないと「自分を選ぶ=すでに完敗」だと思うから。WSCをバックアップする海洋堂さんといい、非常に「酔狂」だなぁという印象(笑)、でもそういう部分におもしろ味を感じます。
 で、WSC選出を受けて以降自分がどうするのか? ……たぶん、相変わらずなモノを作っていくんでしょう。いまだイロイロと模索中ですが、いろんなジャンルをやってみたいとか思ってます。結局この先も手探り状態、明確な目標があるワケでなしって感じで。ただ、ずっと続けられたらよいなァと思ってます。そしてソレを可能にするために悪戦苦闘が続くでしょう。また、そういう部分にやりがいを感じたりもします。
 さて今回は「造形」でWSCに選んでいただきました(……だよね?)。しかし自分がモノを作るにあたって「塗装」って要素は外せません。私的にココはとても重要で、原型製作と塗装は等価です。原型製作の段階から「どう塗るのか?」を考えてモールドを付けていきますし、塗るために作ってるって部分もある。いざ塗って、はじめてマズイ部分が見えてくることもありますし。塗装を通して原型の善し悪しを知り、ソレを基準に次回以降の糧としています。じつは原型のアラを塗装でごまかせたりも(笑)。「コンマ数ミリの面研ぎで表情が変わる」って原型師は言いますが、「コンマ数ミリの線描きでも変わるっス!」と主張したい……つか、「お前どっちやねん!」って感じですが。
 まぁ両方とも重要だってことで(笑)。そんなこんなでコレからもがんばります、皆さんヨロシク!