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WSC #037 アキヒロ

Akihiro

[中吉や!]

絵が描ける人間が造形を手掛ければ必ず開花する
「時代の過渡期」に登場した絵描き系造形作家

 アキヒロのことを長々と論じるのは難しい。
「絵を上手に描くことのできる人間が本気で造形に取り組めば、必ずや造形面での才能も開花する」
ぼくがつねづね口にしている、このたった1フレーズだけでほぼすべてが語り尽くせてしまうからだ。

■そもそもの属性は“絵描き”。いま現在も某ゲーム制作会社にて日々絵を描くことを生業としている
■'03年[冬]ワンフェスにて、ディーラー初参加。その時点ですでに、並み居る古参ディーラーたちと対等に肩を並べる作品を提示する
■'04年[夏]ワンフェス。フィギュア作品としての完成度を過度に追い求めたことからの弊害か、同時期にブイブイ言わせていた著名原型師の作風を意識しすぎたあまり、自身の作風が微妙に崩れてしまう
■'06年[冬]ワンフェス。ここから自身オリジナルによる創作キャラクターの立体化がスタート。著名原型師たちが用いた造形表現を取り込むことと、自身の作風との融合が上手く機能しはじめる
■'06年[夏]ワンフェス。製作途中で未完成作品の展示であったが、「WSC基準を完全に満たした」との理由から第15期WSCアーティストに選定される

 ある意味、順風満帆そのものである。
39歳という年齢ゆえにお世辞にも「若手」とは言えぬものの、著名原型師たちの造形表現を上手く盗み、自身の作風と融合し昇華させていくそのスタイルは、じつにしたたかかつクレバー。勢いに任せるだけの若手とはひと味もふた味も異なる、自分自身をつねに俯瞰視した“いぶし銀”的な戦い方が光る。
また、造形力が右肩上がりで向上してきた結果、絵描き面での絵柄やタッチが造形作品にきちんと反映されてきたことも特筆すべきポイントだ。いたずらにディテールを加えずとも、しなやかな面の表情だけで魅せることができるその艶っぽい造形は、まさしく「絵描きならではの造形」と言えよう。

 なんにせよ、絵描き上がりの造形作家たちがガレージキットシーンを(力量的に)席巻する瞬間は確実に近付いている。また、『コミックマーケット』において版権作品系エロパロ同人誌と作家オリジナルの同人誌が等価に機能していることと同様に、“創作系”というジャンルが版権キャラクターのキットと肩を並べるのも時間の問題だろう。そしてそれは、「精巧で出来のよい版権キャラクターのキットを自分で作ってしまおう」という地点をスタートとしたガレージキットという表現形態が、真意でのオリジナリティを獲得する瞬間でもある。
アキヒロは、そうした時代への過渡期を象徴する絵描き系造形作家なのかもしれない。

 

text by Masahiko ASANO

あきひろ1968年1月19日生まれ。父親が鉄道模型やプラスチックモデルを趣味としていたため、小学校時代からエアブラシ塗装まで含めた本格的な模型製作に勤しむ。中学1年生のときにガンプラブームを体験、模型雑誌も読みはじめるが、「ぼちぼち買ってぼちぼち作った」程度。高校卒業後、幼少期から絵を描くことが好きだったこともあってデザイン専門学校のグラフィックデザイン科へ進み、ゲーム制作会社へ就職。フィギュアに関しては客観視を続けていたのだが、『新世紀エヴァンゲリオン』のブーム後からガレージキットフィギュアの完成度が飛躍的に向上しはじめた事実を肌で感じ取り、徐々に存在を意識しはじめる。その後、模型雑誌のワンフェス特集号に掲載されたWSC#006 臼井政一郎のキャミィに触発され、一般入場でのワンフェス参加を初体験。'02年からいよいよフィギュア造形へ着手し、'03年[冬]より“中吉や!”名義にてディーラー参加し続けている。現在もゲーム制作会社で勤務しているが、「造形特有のおもしろさに激ハマり中」とのこと。

WSC#037プレゼンテーション作品解説

© 中吉や!/AKIHIRO


ぺたんこナース・ペンネさん

※WSCアーティスト自身による創作(オリジナル)キャラクター
ノンスケール(130mm※台座なし状態)レジンキャストキット+ペンネさんイラストポストカード(4枚セット)


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/5,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/8,000円(税込)
(※販売は終了しています)


 そもそものポジションは、美少女イラストを得意とする「絵描き」。絵を描くことだけで満たされていたはずの「キャラクターを生むよろこび」が、ワンフェスとの遭遇により次第に変化しはじめ、2Dデザインとその3D化をひとりでこなす楽しさに魅了されていく―そんなスタイルでWSCまでたどり着いたアキヒロ。プレゼンテーション作品“ぺたんこナース・ペンネさん”は、もちろんアキヒロ自身の手による創作キャラクターです('06年[夏]のワンフェスでは未完成状態での展示のみであったため、WSCでの販売が初売りとなります)。
 絵描きとしてのしなやかなタッチが生かされた艶っぽい造形はもちろんのこと、キットとしての完成度も抜群。組み立てやすさと塗装のしやすさを考慮し、眼球は顔面パーツの裏側からはめ込む方式になっているなど(これにより、市販のドールアイを購入してはめ込むことも可能です)、ぜひともパーツ状態でじっくりと眺めていただきたい作品となっています。また、アキヒロの画によるペンネさんイラストポストカードも4枚付属します。

アキヒロからのWSC選出時におけるコメント

 私が避けて通りたいことのなかに「文章を書く」というものがある。
なのに、なぜかいま、その作業をする羽目になっている! とても逃げ出したい気分だ。
でも「面倒だからイヤ!」と言ったら0.3秒であさの氏に眉間を撃ち抜かれそうなのでがんばって書くことにする。

 いまから5年前ぐらいかな、ワンフェスに初めて行ったのは(それまでは雑誌で見ているだけでした)。写真で見ているだけでも「最近のフィギュアはすごいな」と思っていたのだが、実際に会場に行って生で見てから「自分でも作ってみたい」という気持ちがむくむくと起き上がってきて、知り合いに「どうやって作るの?」と聞いたり、ネットで調べたり、本を読んだりして実際に作りはじめました。ま、やはりと言いますか、最初は「何これ!?」なものでしたが。れもんとか頭のなかにある「こういうかたちにしたい」という願望をかたちにするべく、せっせと削り続け現在に至っています。そして、いまになってもまだ、頭のなかにあるイメージへ近付けるスキルは身に付いていませんが……。毎回ほかのディーラーさんの作品を見るたびに「俺ヤベーなー」という気持ちになるんですよね。そのたびに自分のなかにある合格ラインを一段上げ、そのラインを超えられるように次の作品を作り、そしてまた「俺ヤベーなー」と同じことを繰り返す。いつになったら自分の満足したものが作れるのかまったくわかりません。永久に作れないかもしれませんが、これからも創作(オリジナル)系のフィギュアを、満足できるものを作れるようがんばっていきた……ダ、ダメだ! もう俺の頭の限界でこれ以上は文章が書けないっ!