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WSC #039 ベニダロウ店主
Benidarou Tensyu
[紅太楼]
ある意味これこそが「2D萌えキャラ造形」の神髄
静かに躍進する漢(おとこ)キャラ造形スペシャリスト
WSCとしてもかねてから切望していた、男性キャラクター(いま風に言うならば“漢キャラ”)造形スペシャリストの登場である。ただし厳密に言うならば、「キャラクターデザイナー金子一馬が描く漢キャラ造形のスペシャリスト」というピンポイント爆撃的なスタンスがじつにおもしろい。
ベニダロウ店主の才能で最初に特筆すべきは、彼の造形作品を360度ぐるりとまわして見た際、どの角度から眺めてもきちんと画になる卓越した空間構成能力だろう。「この角度から眺めるぶんには上手く見えるが、それ以外の角度から眺めるとげんなりしてしまう」という鑑賞角度限定フィギュアが大多数を占める昨今、眺める角度を変えるごとに表情が豊かに変化していく作品に出会える機会は稀である。鑑賞角度限定フィギュアを全否定するつもりはないものの(雑誌の表紙撮影用モデルなどはそのほうが都合がよい場合もある)、ただし、鑑賞角度限定フィギュアというのは2Dの絵画や2.5Dのレリーフと同様の領域にあるとも言え、見ようによっては3Dとしての存在を自己否定しているとも受け取れる。ゆえに、ベニダロウ店主の作品を直に鑑賞する機会があった際には、ぜひともさまざまな角度からじっくりと舐めまわすように見入っていただきたく思う。細部の作りや表面処理が意外に大雑把なことに気付いてげんなりする方が出る可能性も否めぬが、「2Dのマンガ絵を3D化する」という行為の本質を必ずや感じ取れるはずだ。
ベニダロウ店主の才能でもうひとつ注目したいのは、キャラクターの周囲を取り巻く空気の波動をもイメージさせる「流れ」のある艶やかな造形と、しなやかながら強靱なバネを感じさせる独特の人体デッサンだろう。とくにプレゼンテーション作品として採り上げた葛葉ライドウではそれが顕著で、服やマントのすべてのシワが連なって美しく渦を描くさまは見事のひとこと。歌舞伎の見得ほど大げさでない適度なアクションポーズ付けも、身体能力の高いアスリートのそれを見るようで(パワーにものを言わせてゴリゴリ押し込むようなタイプではなく、体のバネを生かした瞬発的な動きをきちんと想起させるところがすばらしい)、じつに心地よい。
対象が漢キャラだけに「萌え」という表現を用いるのは違和感を覚えるかもしれぬが(だからと言って「燃え」というほど単純な話ではないのだ)、これぞまさに“2Dキャラ萌え造形”の神髄。ベニダロウ店主の作品内には、今日の版権キャラクター造形に欠けているものを見つけ出すヒントがまちがいなく内包されている。
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text by Masahiko ASANO |
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べにだろうてんしゅ●1971年4月8日生まれ。大阪芸術大学の映像学科を卒業し、映像制作の仕事に従事。その後、1年ほどニートとして過ごしていた時期にゲームの『女神転生』シリーズにハマり、「メガテン(=女神転生シリーズの俗称)キャラをこの手で触れられるようにしたい!」という思いから、造形に対する知識がいっさいないままフィギュア製作に着手する。27歳のときに地元岡山から上京、習作フィギュアをいくつか作り重ねていくうちにワンフェス参加への思いが募り、'00年[夏]より“紅太楼”名義にてディーラー参加しはじめることに。その際会場に持ち込んだワンフェスデビュー作が『デビルサマナー』の葛葉キョウジ(メガテンと同じく金子一馬の手によるキャラクターデザイン)で、これをきっかけとし、以降は金子の描く男性キャラクターひと筋でフィギュア造形を続けていく。現在は模型ショップの店員を務め、塗料と工具に囲まれた造形環境的には恵まれた日々を過ごすも、専業原型師を目指すような思惑もないため、この先も当面のあいだは現状のスタイルを貫き通すことになりそうだ。
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WSC#039プレゼンテーション作品解説
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© ATLUS CO.,LTD.1995.2006 ALL RIGHTS RESERVED.

葛葉ライドウ
※from PS2ゲームソフト『デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 超力兵団』
ノンスケール(全高205mm)レジンキャストキット
■商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/5,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/8,000円(税込)
(※販売は終了しています)
キャラクターデザイナー金子一馬の描く男性キャラクターに心底惚れ込み、美少女フィギュア渦巻くワンフェスへ男性キャラクターフィギュアを提示し続ける孤高の存在、ベニダロウ店主。プレゼンテーション作品となる葛葉ライドウ(PS2用ゲームソフト『デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 超力兵団』より)は、『ワンダーショウケース』初となる男性キャラクター作品のプレゼンテーションであると同時に、ベニダロウ店主の艶やかな造形を堪能することができる逸品です。
「誰が組み立ててもきちんと腰の入ったポーズが決まるように」という思いから一体成型とされた下半身パーツをはじめ、組み立てキットとしての完成度も見どころのひとつ。'06年冬のワンフェスにて発表された状態から各部ディテールに改修が加えられた、WSCヴァージョンとしての登場となります。
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ベニダロウ店主からのWSC選出時におけるコメント |
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自分の才能は埋もれかかっていたところをWSCアーティスト選出スタッフたちによって発掘されたらしい。ライドウが選ばれたときは「ついに野郎フィギュアがWSC入りしたか!」と前人未踏の快挙感を感じたが、なぜ自分の作ったものがよりにもよって選ばれたのかいまでもわかりません。あの会場内にはもっとうまい人、すごい人がいるというのに、なんで自分のアレが選ばれなきゃならないのか? 愛と努力とド根性でやっとかたちになったような運任せのフィギュアしか作れていないと毎回反省しています。
自分はハッキリ言って「フィギュア作るよりゲームしたいんじゃー!!」なおっさんです。好きなゲームを1年かけてほぼ毎日ヤリ続けるほどゲームしたいので最近のディーラー参加は正直なところ、イヤイヤやっている感があります。それでもライドウを作ろうとしたときはかなりときめいていたと思います。もしかしたらゲーム発売に合わせて新作ライドウフィギュア出せるかも、と。結果的にゲームよりも自分のフィギュアのほうが先に発売されることになり、ワンフェス会場に見にいらっしゃった方々には「え、なんでこのフィギュアがもう出てるの!?」みたいな反応があっておもしろかったです。そういう快挙みたいなものを自分で感じ続けていられれば、いつかは、「ゲームしたい」という気持ちを「このキャラを手で触れる確かなかたちにしたいからどうしてもいまスグ作りたいんじゃー!」という思いのほうが上まわるときがやってくるかもしれません。先駆者の誉れ(?)にあこがれて、これからもひっそりやらせてもらいます。
そうそう、メガテンファンとして忘れちゃいけないあいさつを。ワタシハ ベニダロウテンシュ……コンゴトモ ヨロシク……。
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