アーティスト紹介

WSC #045 ゆきうさ

Yukiusa

[猫の事務所]

掲げたテーゼは「内面的な苦痛と快楽の投影」
かわいらしさと相反する緊張感の正体はここにある

 ゆきうさが自らの作風について語る際、必ずや「エゴン・シーレという画家からの影響」が口をつく。
 エゴン・シーレ(1890~1918)は自身の内面を表現することに特化したアーティストである。内面的な苦悩や欲望(エロティシズム)を表現するため、自画像を含む多くの作品にて激しいデフォルメが用いられており、そこに描かれた人物はまるで軟体生物のように身をよじらせる。当然ながらそれは「異様な姿」であるわけだが、それを見る者が不安に駆られない理由は、強大なデッサン力によってそうしたデフォルメ術がロジカルにコントロールされているためだ。
 その「シーレからの影響」という話を聞けば、ゆきうさ作品の不思議な魅力の正体が見えるのではないか。
 ゆきうさは、造形対象となるキャラクターの内面を表現するためにやはり独特のデフォルメを用いる。なかには「首がそんな角度に曲がるわけないだろ!」とツッコミたくなるような極端なケースもあるのだが、それを見ても決して不安に襲われない理由は、シーレ作品と同様に、確かなデッサン力によりそうしたデフォルメ術がロジカルにコントロールされているからである(事実、彫刻を勉強した経験があるのだという)。
 また、ほんわかとしたかわいらしさと相反する緊張感が同居するのもゆきうさ作品の特徴だが、これは、前述のデフォルメ術をひとつの作品内でこまかく連続的に用いることにより、キャラクターの処女性や内面的なエロティシズムを強調しているがゆえの結果だ。ゆきうさ曰く「“(少女的な)かわいらしさとは、心身つねにいろいろな方向にバランスを崩し続ける危うさと不安定さ”という考え方がすべてのベースとなっている」とのことだが、確かにその狙いが具現化されているように思う。
 もちろん、「そんな小難しい理屈はどうでもいいよ、美少女フィギュアなんていうのは見た目がかわいければそれでいいじゃないか」という人もいるだろう。そして、その考え方は商業的観点で見れば決定的に正しい。
 が、「苦痛と快楽を伴ったキャラクターの内面をいかにフィギュアのなかに投影していくか」ということをテーゼとして掲げ、「作ること」ではなく「作品を通じて見る者に何を伝えるか」に目的を置くタイプの造形作家が現れたことをぼくは素直によろこばしく思う。
 掲げたテーゼのハードルが高いぶんだけそこに費やす熱量も労力も悩みも大きいだろうし、その努力が他者からまったく評価されない場合も多々あるはずだが、迷うことなく我が道を突き進んでほしい才能である。

text by Masahiko ASANO

ゆきうさ1972年2月1日生まれ。小学校低学年から中学校卒業までのあいだはAFVモデル製作に勤しむも、高校時代はバンド活動(B.)に傾倒。就職したのちは彫刻やオンラインゲームを趣味としていたが、奥さんに『トライガン』のヴァッシュ・ザ・スタンピードのポリストーン完成品(浅井真紀原型製作)をプレゼントしたことをきっかけとして「ガレージキット的な造形物」の存在を知り、半ばオンラインゲーム廃人と化していた自分に嫌気がさしていたことも手伝い、ガレージキットの世界へ足を踏み入れていくことに。いくつかの市販キットを購入してガレージキットの文法を解読しつつフィギュア造形に着手しはじめ、'05年[夏]のワンフェスにて、“猫の事務所”名義にてディーラー初参加。このとき10個持ち込んだ『Fate/stay night』のセイバーが完売し、ガレージキットの世界に完全にハマってしまう。'08年2月に体を壊したため会社を退職、次の職に就くまでのあいだは“期間限定専業原型師”的スタンスでフィギュア造形に打ち込む覚悟を決める。

WSC#045プレゼンテーション作品解説

© HARADA TAKEHITO


浮き輪プレネールさん
WSC ver.

※from イラストレーター原田たけひとのWebサイト『原田屋』の看板娘
『原田屋』Webサイト http://members3.jcom.home.ne.jp/u1h/
ノンスケール(全高130mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/2,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/4,500円(税込)

(※販売は終了しています)


 それを見る側の気持ちを不安にさせるような不安定要素をあえて盛り込んでみたり、それを見る側に「漠然とした心地よさ」を抱かせるような要素を盛り込んでみたり、ゆきうさの造形は、そのかわいらしいほんわかとした雰囲気からは想像も付かないレベルで綿密に練り込まれた戦略と、卓越したデッサン力に裏打ちされています。プレゼンテーション作品“浮き輪プレネールさん”は、'06年[夏]のワンフェスにて発表した作品を、「いまの自分」を表現するために大幅にブラッシュアップしたWSCバージョン。パッと見の印象はそれほど変わっていませんが(意図的に変えていません)、キャラクターの内面を表現するために各部に繊細な改良が加えられています。
 作品を引き締めるポイントとなっている浮き輪は、もちろんクリアーレジン(透明パーツ)にて成型。かわいらしさの影に隠された「批評性」と「作品を通じて見る者に何かを伝えたい」というゆきうさの思いをぜひとも感じ取ってください。

ゆきうさからのWSC選出時におけるコメント

「誰がこのフィギュアを作ったの?」と聞かれれば、答えは「我々」。作品を発表という時点で、僕には伝えたかったことの確認だけであり、じつは皆さんが感動の共有というかたちで作品作りに参加し、完成させているのです!
「参加と言われてもピンとこないよ?」という方がほとんどだと思うのですが、ぶっちゃけ、ガレージキット作品見るだけで参加完了!ッス。できれば生で☆ 肉眼で♪
「え? そんなんでいいの?」と思われるかもしれませんが、それだけ。そこで「どうしてもこの作品をもっと理解したい」とか、「原型師さん何考えてるんだろう?」と感じたら、それはきっとあなたのために生まれてきた作品だったのです。僕がフィギュア造形に目覚めたのもそのダイレクトな感覚をガレージキットに感じたからなんです。
『ジョジョの奇妙な冒険』が好きなのですが、造形もある意味「スタンド」だと確信してます。特定の状況下では最弱であり、、下手をすると弱った精神と共に肉体も滅びます。逆に言うと、精神を取り戻せれば、肉体もよみがえる可能性があるということです。
 そのきっかけを、フィギュア造形という手法で伝えることが私の目的であり、明日を生きてもらうために、パテという無機質な物体に生命を宿す。「ゴールド・エクスペリエンス」のようなスタンドに私の精神を育てたい!! ……と言いつつも作品で失敗すると、「ひょっとして、無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ? ですかぁぁ?」と弱い僕に自問したり...orz
 もう1回言います。完成させるの「僕」ではなく「我々」。我々はもっとすばらしいガレージキットシーンを作れるはずですし、作り上げるでしょう。
 我々はガレージキットを愛しているから。皆と出会えたことに感謝! To Be Continued⇒⇒