アーティスト紹介

WSC #046 Noa

[clips]

造形バカ一代的な方法論とは一線を画す
「ガレージキットをデザインする」という感覚

「未組み立てのパーツ状態こそがもっともアーティストオリジナルのマルチプルに近い」という意味において、ガレージキットという表現形態は必ずしも「彩色して組み立ててなんぼ」な存在ではない。もちろん、彩色して組み立てるという行為はある意味本道であるし、彩色して組み立てることにのみ意義や価値を見いだす人もいることと思うが、未組み立てのパーツ状態を目と指先を通じて愛で、作り手の思惑や資質を体感することもガレージキットの正しい楽しみ方のひとつと言えるはずだ。
  グラフィックデザイナーを生業とするNoaは、そうした「ガレージキットというメディアが持つ特殊性」に限りなく自覚的であるという意味において希有な存在であり、その製作スタイルは「フィギュアを造形している」というよりも「ガレージキットをデザインしている」と表現したほうがより正しいように感ずる。
  なぜならば、造形そのものにおける向上心も充分持ち合わせてはいるものの、ガレージキットという形態(当然ながらキットのパッケージデザイン等も含む)での質の向上にかける熱量のほうが明らかに高いのだ。
  結果、「本来カッチリしているべきパーツがカッチリしていないのは生理的に許せない」という至極まっとうすぎる理由から、仮に実物が存在するらば金型にて成型されているであろう工業製品的モチーフ(WSCプレゼンテーション作品で言うならばコードライナー=自転車)のパーツに関しては3Dグラフィックソフトと3Dプロッタで製作する方法をあらゆるコネクションを駆使して模索するなど、よくも悪くも「究極のひとりマスプロダクツメーカーごっこ」とでも称すべき領域にまで足を踏み入れてしまっているあたりが愉快極まりない。いわゆる“造形バカ一代”な面々からするとまったく意味不明な熱量の費やし方かもしれないが、これもまたひとつの正しいガレージキットスピリッツの姿である。
  もっとも、Noaのグラフィックデザイナーゆえのセンスのよさと、ガレージキットという形態での質の向上に費やす熱量の高さが己の造形的伸びしろを頭打ちにしているのもまた事実であり、近い将来、おそらくはそのことで当人は相応以上のスランプに突入する予感に満ち溢れているのだが、まあ、それはそれ。
  その「他者とは明らかに異なる熱量の費やし方」がそっくりそのまま作品の魅力に直結しているところがNoaのNoaたる所以であり、Noa作品が他者作品と一線を画す独特の色彩を放つ理由でもあるのだから。

text by Masahiko ASANO

のあ197X年10月18日生まれ。女子高の美術科からデザイン専門学校を経て、グラフィックデザイナーとして就職。そのデザイン会社の上司が職場で『ガメラ』のガレージキットを組み立てていたのを見て興味が湧き(そもそもかなりの『ゴジラ』ファンであったため、オタク的な趣味への抵抗は皆無だった)、海洋堂製ギャオス(原型製作/松村しのぶ)を購入したのが初ガレージキット体験。が、それをきっかけとして造形にのめり込んでいったわけではなく、後年、友人の結婚式用の展示物として「バイクに乗った犬」のオブジェ製作を依頼され、その製作過程にて造形の楽しさに開眼すると同時に、同作品が周囲から激賞されたことにより一気に造形の道に傾倒していく。その後、ワンフェスの存在や美少女フィギュア造形の作法などを調べていた過程で同郷で活動する原型師がごくごく近所に住んでいることを知り、コンタクトを取ってみた結果「いっしょにワンフェスへ出よう」という話になり、'05年[冬]、“一期栄華一杯酒”より初ディーラー参加。'06年[夏]には独立し、“clips”名義にて本格的なディーラー活動に入る。

WSC#046プレゼンテーション作品解説

© range murata


CHORD LINER

from 季刊『エス』の連載『4D STYLE』にて発表された村田蓮爾のイラストレーション
1/8スケール(全高180mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/5,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/7,800円(税込)


 本職がグラフィックデザイナーだというNoaは、「デザイナーならではのセンスのよさ」をぎゅっと凝縮し3Dに置換したような作風が特徴の女流造形作家。プレゼンテーション作品の“CHORD LINER”(季刊『エス』の連載『4D STYLE』にて発表された村田蓮爾のイラストレーション)は、Noaのそうした資質が見事に反映されたブレイクスルー作です。村田蓮爾のスタイリッシュな絵柄とNoaの作風の相性のよさは一目瞭然ですが、フィギュア本体以上に目を引くコードライナー(自転車)は、3Dグラフィックソフト& 3Dプロッタのノウハウを有する知人に設計/製作を依頼し、Noaがプロデューサー的スタンスにて監修し仕上げたという、大変に手が込んだもの。コードライナーのパーツだけでじつに37パーツにも達し、「自転車モデル」という視点で眺めても充分鑑賞に堪えうる逸品となっています。とにもかくにも実物を目にすれば、作品に込められた「熱量の高さ」が実感できるはずです。

Noaからのコメント

ガレージキットとの出会いが美少女フィギュアへの出会いへ

 職場にガメラのガレージキットを作っている人がいた。それがガレージキットとの出会い。怪獣好きだった私はもちろんその詳細について尋ねた。そして参考にと雑誌を見せてもらう。
  そのとき、初めて美少女フィギュアを見た。衝撃。そのフィギュアは二次元から三次元へしっかりと変換されていた。キャラクターの佇まい、そのすべてにおいて。漫画のキャラクターがそのまま立体にできると思ってもみなかった。驚き。「……凄い!」、このひとこと。「あぁ、自分もこんなふうに作れるようになりたい」と思った。
  数年後、あのときのキットが見てみたいと思い購入。そして、それを組み立て塗装することはなかった。
  なぜなら、キットの状態は完成品よりも美しいと思ったから。
  ツヤツヤに磨かれたパーツ。精巧に作られたディテール。手で合わせるだけでカチッと組み合わさる分割。二度目の衝撃。「……これは美しい!」、このひとこと。「ガレージキットのパーツってこんなに綺麗なんだ」と動した。そしてまた、「あぁ、自分もこんなふうに作れるようになりたい」と思った。
  現在、フルスクラッチビルドをはじめて10体目が完成し、そして11体目を製作中。あのときのキットのように美しいものができているだろうか? 答えは「ノー」。しかし作るたびに何かは向上している。
  自分のガレージキットにおける目標は「美しく楽しめるものを作る」こと。「美しく」は、パーツの分割、仕上げなど。「楽しく」は眺めるだけでも楽しく、作っても楽しい。
  そんなキットを目指して、これからも楽しみながら、のんびりとまわり道もしながら作り続けたいと思う。