アーティスト紹介

WSC #064 ウミヤマヒロシ

[こねっか~ず]

3DCGモデリングがついにここまで達したという事実
しかし「彼はまだ完全開花していない」という現実

 3DCGモデラーであるウミヤマヒロシの作品を眺める際、3DCGモデリング作品であるという余計なファクターを取り除いたフラットな視点にて、純粋に造形の部分のみを抽出して眺めていただきたい。……と、本当ならばそう書くべきなのだろうが、ここはあえて、「ウミヤマの作品はいま現在における3DCGモデリングの最先端作品であることを前提として眺めるべきだ」と言いたい。
 もちろん、3DCGモデリングのことを「ポリエステルパテやファンドなどを使った造形と並列に位置する、単なるひとつの方法論」と位置付けここまでそれを発展させてきたウミヤマたちからすれば、3DCGモデリングということでキワモノ扱いされたり、逆に過剰に羨望視されたりすることを心よく思わないことはよくわかる。
 だが、カッチリとした仕上げや左右対称を簡単に出せることで容易にアドバンテージが生じるメカ系の3DCGモデリングならばともかく、「やわらかさや空間構成が勝負どころとなる美少女フィギュアにおいても、ついに3DCGモデリングが手を使った通常の造形へ追いつき横並び一線状態へ至った」という決定的事実は、やはり一大事件と言わざるをえないはずだ。
 そしてこの事象により、この先の造形シーンは、ひとつ階段を昇った新たなステージレベルでの戦いへと突入していくことが決定付けられたとも言えるだろう。
 なぜならば、3DCGモデリングという方法論を最大限に駆使すれば、「手を使った通常の造形では絶対に真似できないこと」がまちがいなく可能となるためだ。
 ……もっとも残念なことに、いま現在のウミヤマ作品は、手を使った通常の造形でも表現できてしまう要素だけで構成されている。3DCGモデリングを特別視されたくない人からすればこれはある意味正しい方法論なのかもしれないし、「3DCGモデリングであることが購買者にバレないほうがよい」というのであれば、その目的はすでに達成されているとも言えよう。
 しかし、3DCGモデリングならではのアドバンテージをフル活用すれば、じつはこの先にウミヤマにとってのネクストステージが存在するはずだ。そうした領域を目指すかどうかは彼次第だが、日本初の3DCGフィギュアデペロッパーたるKneadの社員原型師としての生業での造形はともかくとして、ワンフェスにおける趣味の造形では、ぜひともその領域を目指してほしく思うのだ。
 そこを目指せるだけの才能の持ち主であることは絶対にまちがいないのだから。

text by Masahiko ASANO

うみやまひろし1975年4月22日生まれ。幼少期はレゴやイラスト描き、中学生からはゲームに没頭し、高校生のときに「カーデザイナーになりたい」とイメージする。その後実際にカーデザインの専門学校に進むも、2年生へ進級する際に同校内に新たに創設されたキャラクターデザイン学科へ編入し、自動車業界よりは将来性があると思えたゲーム業界へ進むことを決意。ただし卒業時には求人案内が一件も来ず、卒業後は間接的な知人を介してゲーム制作会社へ就職し、そこで3DCGモデリングを生業とすることになる。もっとも、本人のウィークポイントは飽きっぽいところにあり、以降もゲーム制作の世界から出たり入ったりを繰り返すことになるのだが、'06年にハイエンドな3DCGモデリングに専念する環境を初めて与えられ、'09年には新たに設立された3DCGフィギュアデペロッパーの(株)Kneadへ入社。以降はKnead所属の社員原型師を生業としつつ、'12年夏のワンフェスよりKneadの社外部活動的な位置付けにて、“こねっか~ず”名義にてディーラー活動をスタートさせている。

Webサイト http://ameblo.jp/coneckers

WSC#064プレゼンテーション作品解説

© 1st PLACE Co Ltd.


IA - ARIA ON THE PLANETES -

from VOCALOID3対応ソフトウェア
『IA - ARIA ON THE PLANETES -』のキャラクター
1/8スケール(全高220mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/8,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/10,800円(税込)

※ウミヤマの第25期WSCアーティスト選出決定以前に、アクアマリン様より『IA - ARIA ON THE PLANETES -』のPVC製塗装済み完成品としての発売が発表されています(3月末発売予定/税込価格9,975円)。組み立てキットよりも完成品に魅力を感ずる方は、アクアマリン版完成品の購入をおすすめしたく思います


 ワンフェス初参加ながら、突出した完成度と「3DCGモデリングの立体出力作品」ということで多くの注目を集めることになったウミヤマヒロシ。プレゼンテーション作品となるのは当然ながら、昨夏に発表されたワンフェス処女出品作たる『IA - ARIA ON THE PLANETES -』(VOCALOID3対応ソフトウェアのキャラクター)です。まずは「3DCGモデリング」という言葉が頭に飛び込んできてしまうため通常の美少女フィギュアとは眺め方が違ってしまう人が多いかと思いますが、「3DCGモデリング」という言葉をいったん棚上げにして、造形の元画となった透明感溢れるイラストレーションの立体再現度の高さや、1Gを感じさせぬ軽やかなポージングにぜひとも注目してみてください。
 なお、じつはアクアマリンより同作品のPVC製塗装済み完成品化がすでに発表されているのですが、ひとつひとつのパーツを指と目で愛で、ウミヤマ造形の真実に触れてみたいという人は、ぜひ「ガレージキット」という形態にてこの作品に接してみてほしく思います。



「PC内の仮想空間にて、3DCGソフトで造形されたIA」のスクリーンショット画像。これを3D出力したものが本プレゼンテーション作品です

ウミヤマヒロシからのコメント

 2年半ほど前アラフォーにして原型製作をはじめ、今回のIAが初のガレージキットと順番が逆な気も致しますが、作品としてはいままででいちばんの大物であり、新しい挑戦でした。
 ワンフェス自体は会社のブースで何度か参加しておりましたが、出力サービスと原型製作の説明をしていたのみで、頒布などは行ってませんでした。ですので'12年夏のワンフェスが「醍醐味を味わった初のワンフェス」と言えるかもしれません。これからメンバーと共にサークル活動を楽しんでいこうという矢先、WSC選出などまったく考えておらず本当にびっくりしました。
 とはいえ、自分が言うのもなんですが、ネタとしては私はおもしろいのではないかと思ったりもします。何せ、粘土は幼稚園以来ほぼ触ったことのない原型師だからです。
 こんなこと自慢することではないのですが、「オレはグローブに一度も手を通さずプロになるんだ。そう決めたんだ」という漫画のセリフがチラついたりしなかったりそうでもなかったり……つまり、本作はフルデジタルで作成されており、パソコンと3Dプリンターで作られております。私は電気がないと何もできません。停電したら寝ます(※ウチの会社にはちゃんと普通に手で造形のできる者もおりますのでご安心を!)。
「デジタルでよくこんなもの作れますね」と言われることもありますが、むしろ手で作れるほうがすごいことですよね。
 かといってIAの作成が簡単だったかと言うと、そうではありません。いまのところパソコンが勝手にフィギュアを作ってくれるほど技術は進歩してはいませんから。
 今後も皆さまに楽しんでいただける作品を作れるように精進して参りたいと思います。
 最後にIAの製作でアドバイス等いただいた方々にこの場をお借りして御礼申し上げます。