アーティスト紹介

WSC #068 Sparrow S.A.

[イグルーシカ]

その手法と作風、まさしく「The '80s」なり!
絶滅危惧種の「レッドデータスクラッチビルダー」

 主に造形用のパテや粘土を駆使したガレージキット的造形が定着する以前の'80年代前半、スクラッチビルドを得意とするモデラーが使用した素材は主にプラ板であった。梁を用いてプラ板を箱組みし、曲面を再現する際には積層したプラ板を鉄ヤスリでゴリゴリと削る。パテを用いるのは加工過程で生じたスキマやキズを埋めるときだけで、「すべてがほぼ白1色の、プラ板だけでできた造形物」を完成させることが常識と目された時代が存在したのだ。パテや粘土によるガレージキット的造形がその立場を取って代わるまでは、その造形対象がザクだろうとレッド・ミラージュだろうと、すべてがこの手法にて製作されていたのである。
 そして、「いたのである」と過去形で記した理由は件の手法がもはや絶滅し、過去の遺物と化したためだ。
 ……と考えられていたのだが、ところがどっこい! 海を挟んだ北の大地に、プラ板使いのスクラッチビルダーが生存していたのである。しかも、プラ板工作によるスクラッチビルドをガレージキットの原型とし、「製作するのは大抵が架空戦闘機か戦闘機に変形するリアルロボット」というひどく偏った嗜好にて、架空戦闘機モデル系ガレージキットディーラーとしてワンフェス参加をこっそりと長らく続けていたのだ。
 さらに、「大張正己デザインによるメカのような、ケレン味溢れるアレンジを施して立体化するのが好き」「ゲームに出てくるポリゴンチックでトガっていてシャキシャキした感じのメカが好き」と、その自家発電的な中二病っぷりもまさしく'80年代そのもの。「レッドデータスクラッチビルダー」「ガラパゴスモデリング」といった表現がピッタリだと思うが、当人的にはそうした自覚がまったくなかったらしく、なんの疑問も抱かぬまま今日に至っていたというのである。
 その手法と作風は40代以上の人にはひどく懐かしく、それ以下の人にはある意味斬新に感ずることだろう。
 ただし、それらがいくら旧態依然としたものであったとしても、クオリティーがきちんと出ているのであれば、他人からどうのこうのと言われる筋合いはない。
 要するに、Sparrow.S.A.という人物の才能は「そういった才能」ということなのである。
 おそらくはこの先、彼の真似をする若手造形家が現れる可能性はゼロだろう。そして、この手法と作風が絶滅しても、それを嘆き悲しむ人はごく少数に違いない。
 だが、こんな才能の持ち主が秀作をコンスタントに発表し続けているという事実は、ワンフェスという場の懐の広さを象徴しているようにも思うのだ。

text by Masahiko ASANO

スパロー エス エー1971年9月1日生まれ。小学校低学年時に生じたガンプラブームにはハマらなかったものの、小学6年生~中学1年生にかけて『重戦機エルガイム』に傾倒。プラスチックモデルがなかなか発売されなかったためにプラ板工作でスクラッチビルドを試み、以降、「プラスチックモデル製作とプラ板工作によるスクラッチビルドが等価」という模型製作スタイルを確立する。大学入学以降は学業や仕事が忙しく模型趣味と疎遠になっていたのだが、'03年、PS2用ゲームソフト『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS』に登場するジェフティをどうしても造形したくなり、プラ板工作によるスクラッチビルドが復活。'04年冬、友人の手伝いでワンフェスに売り子としてディーラー参加しそこで衝撃を受け、自前ディーラーでの参加を決意することに。'05年夏より“イグルーシカ”名義での参加をスタートさせ、以降はプラ板工作による原型製作法にて、主にゲームに登場する架空戦闘機や戦闘機系可変ロボットを中心とした作品をコンスタントに発表し続けて現在へ至る。

Webサイト http://sparrow.o.oo7.jp/

WSC#068プレゼンテーション作品解説

© ラグランジェ・プロジェクト


オービッド ウォクス・シリーズ

from TVアニメーション『輪廻のラグランジェ』
1/100スケール(全長210mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/9,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/12,000円(税込)

※ウォクス・アウラ(グリーンの機体)、ウォクス・リンファ(ブルーの機体)、ウォクス・イグニス(オレンジの機体)のピアサー形態(飛行形態)から、1機を選んで製作するコンバーチブルキットです。「3機セット」ではないのでご注意ください(仮に3機を揃えたい場合は、プレゼンテーション作品を3点購入する必要があります)


 「ケレン味溢れる独自のアレンジを施した架空戦闘機や戦闘機に変形するリアルロボット」を黙々と量産し続けるSparrow.S.A.は、その造形スタイルにしても造形センスにしても、'80年代に流行ったそれをイメージさせるちょっと懐かしい雰囲気が特徴の造形家です。完成度の高いメカ系プラスチックモデルが市場に溢れ返る現在、長きにわたりこうした作風にてひとつの世界観を構築しているメカ系造形家は希有な存在と言えるでしょう。プレゼンテーション作品である『オービッド ウォクス・シリーズ』(TVアニメーション『輪廻のラグランジェ』に登場する主役ロボット3機の飛行形態)は、そんなSparrow.S.A.の資質がダイレクトに反映されており、ぜひともオリジンのメカニックデザインと見比べてみてほしいところ。「ケレン味」の意味するところと、彼がガレージキットにて表現しようとしている世界が理解できるはずです。
 また、製品内にはヒートプレス成形による透明塩化ビニール製のキャノピーと、透明樹脂にて成形されたキャノピーの2種が付属します。

※Sparrow.S.A.からのコメント

 今回『ワンダーショウケース』のお話をいただいて改めて自分の造形を振り返る機会を持ちましたが、思っていた以上に自分が古臭いタイプなのだということを思い知らされました。だって、「いまどきプラ板工作する人がいたなんて……」とか、「ここをこうすればもっと格好よくなる的なアプローチ、'80年代か!」等々散々言われてしまっては、馬鹿でも気付く話です。
 というわけで、初めまして。Sparrow S.A.と申します。
 前述したように、気に入ったメカ・架空戦闘機やロボットなどを、自分が見たまま感じたように好き勝手に作るということをしております。設定画をトレースすることにはあまり興味がなくて、むしろ「私の眼にはこういう感じに映っていますけども、どうでしょうかダメでしょうか」と言ったほうが近いかも。
 自ら思うところのそのマシンの格好よいところ、それを立体物として表現したいというのが動機でもありますし、自分というフィルターを通して造形するので、当然ながら元の絵とは違った形状ができあがります。ちょっとアクの強いものになって、場合によっては「これは違うだろ?」という感想も持たれてしまうかも。
 ただそんなふうに、作った人それぞれで異なるかたちができあがるというのがスクラッチビルド/ガレージキット的造形のおもしろいところだと思っているので、これからも自分なりの造形を続けていきたいですし、さらに、多少なりともそうした造形物を見ていただける機会を持つことができれば、それはたいへんありがたいです。
 ……みたいなことを考えていましたが、今回「そういうのはいまどき流行らないし、だいたい“オレ流”とか、中二病か! あと作り方も古臭いなぁ」的なことを言われてしまったので、根本的にまちがっているのかもしれないですけれども。