アーティスト紹介

WSC #069 とぼとぼ

[造形処御陀仏庵]

これぞまさしく「コロンブスの卵的発想の転換」
ちいさなデフォルメフィギュアの新たな魅せ方

 デフォルメされたキャラクターの造形物から、その作者の真の実力を読み解くのは難しい。デザイン画が世に存在していたものなのか、それとも作者自らがデザインしたのかによっても評価が違ってくるし、二~四等身ほどに縮められた姿からデッサン力や表現力を伺い知るのが困難なためだ。第27期にまで及んだ『ワンダーショウケース』において、(明らかな)デフォルメ作品により選出されたアーティストがひとりとして存在しなかったのは、それが最大の理由であったと言えるだろう。
 そこで、今回の“とぼとぼ”の選出である。
 とぼとぼの才能には'12年夏のワンフェスにて気付き、WSC選出候補としてその後の活動を観察し続けていた人物であった。ただし、卓越したデフォルメセンスときめこまやかな表現力はWSC選出メンバー間で高い評価を得ていたものの、造形作品がどれも全高50~100mm程度とじつに小ぶりなため、「そのすごさがどうにも伝わりにくい、プレゼンテーションを通じて他者に伝えにくい」という理由から選出が見送られていたのだ。
 かといって、「幼少期からレゴブロックの消防士のようなちいさなフィギュアが好きだった」という生粋のちいさなデフォルメフィギュア好きに対し、デフォルメを加えていない大きめのサイズのフィギュア造形をお願いするのも無粋な話であり、WSCとは無縁で終わってしまうのかも……と考えていたのが正直なところであった。
 が、とぼとぼが最新作“シャドウラビリス&アステリオス”にて投じたアイディアが状況を一変させる。
 「ちいさいデフォルメフィギュアではワンフェスなどのイベントで目を留めてもらうのが難しい。でも、主役たるキャラクターと巨大なキャラクターとを組み合わせた作品を製作すれば、主役キャラのサイズはこれまでどおりでも大きなサイズの作品が製作できるではないか」という、コロンブスの卵的な発想の転換である。
 その結果として、巨大キャラでデッサン力と表現力の高さをわかりやすいかたちで提示し、主役キャラにてディテーリング能力とデフォルメセンスの高さを提示、さらに、この両者の組み合わせにより空間構成能力の高さを提示するに至り、WSCアーティストとして選出しやすい・されやすい環境を自ら整えたというわけだ。
 この先のとぼとぼは、ごくごくノーマルなちいさなデフォルメフィギュアの世界へ戻っていくのかもしれない。ただし、シャドウラビリス&アステリオスの発表以前と以降では、彼自身と彼の作品への評価が大きく変化することだけはまちがいないはずである。

text by Masahiko ASANO

とぼとぼ1977年3月2日生まれ。幼少期から「ちいさなおまけ的なトイやフィギュアが好き」という嗜好の持ち主であったが、小学生のときには周囲からの影響もあり相応にガンプラも嗜む。中学~大学時代はほかにも関心が増えオタク趣味に傾倒していなかったが、大学卒業後に書店員になると周囲にオタクが多く「マンガ全般の英才教育を集中的に受けたような感じ」。結果、アニメやゲームなどに対しても興味が沸きはじめることになる。インターネットを通じてフィギュア造形の仕組みを知ってからは一気に造形へ傾倒、他人の造形を研究するためにガレージキットイベントにも足を運び、研究用にレジンキットを購入するような段階へとシフト。ワンフェスへは一般参加者として'08年夏より参加し、小ぶりなイベントでディーラー活動の肩慣らしを終えたのちに、'12年冬より“造形処御陀仏庵”名義にていよいよディーラー参加を開始する。「コストを考えずに造形することのできるガレージキットに魅力を感じているため、プロになりたいという意識はとくにない」とのことだが、今後の飛躍が期待される新鋭だ。

WSC#069プレゼンテーション作品解説

© Index Corporation 1996,2011


シャドウラビリス
& アステリオス

from PlayStation3 & Xbox 360用ゲームソフト『ペルソナ4 ジ・アルティメット イン マヨナカアリーナ』
ノンスケール(全高140mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/9,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/12,000円(税込)

※ちいさめのレジンキット本体に対しベースのサイズが大きめで、これらを収めるジャストフィットサイズのパッケージが存在しなかったため、ベースはパッケージと別個に梱包してお渡しいたします


 「幼少期からちいさなデフォルメフィギュアが大好きだった」という“とぼとぼ”は、ワンフェスにおいても徹底してちいさなデフォルメフィギュアでエントリーし続けている変わり種的存在。ただし、その卓越したデフォルメセンスと表現力は全高わずか50mm程度のそれでは非常にわかりづらい・伝わりづらかったのですが、最新作でありプレゼンテーション作品となった『シャドウラビリス&アステリオス』(PlayStation3 & Xbox 360用ゲームソフト『ペルソナ4 ジ・アルティメット イン マヨナカアリーナ』の登場キャラクター)がその状況を一変させました。シャドウラビリスこそ全高47mmながら、全高140mmにも及ぶアステリオスを180mm×170mmの専用ベースに配するというこの大型(?)作品を通じ、とぼとぼの異能者ぶりにぜひとも触れてみてください。
 なお、アステリオスのツノの先から吹き出す炎のパーツはクリアーレジンキャストパーツによる成型で、作品のアクセントとなっているアステリオスを拘束している鎖(金属製チェーン)も製品内に付属します。

※とぼとぼからのコメント

 この度『ワンダーショウケース』に選出していただきました、「卓の上が大体グレー」造形処御陀仏庵のとぼとぼと申します。
 ちいさくてこまかいものをたくさん並べることが好きな僕にとって、出来のよい市販のちいさなフィギュアがたくさん流通しているいまは、非常にうれしい時代です。でも「あのパーツも付属してたらな……」「ここがもう少しこまかかったらな……」と思うことも、多くありました。もちろん制約の多いであろう小スケールのデフォルメフィギュアでは、それが難しいこともわかります。
 だから僕はそれに挑戦したい。ガレージキットならば、それができる。
 自分の好きなキャラクターを、自分の好きなデフォルメバランスで造りたい。もっとちいさく! もっとこまかく!!
 そしてできれば自分以外の方にも、それを好きだと感じてもらいたい。
 そんな欲望を叶える場所を育んできてくれた皆さま、その手段としての知識をネットで惜しみなく与えてくれた皆さま、キットを購入してくれた皆さま、会場で声を掛けてくれた皆さま。心より感謝いたします。当日は卓で突っ伏していることの多い僕を手伝ってくれるSさん・O氏も、いつもありがとう。おかげさまで、眉間にシワを寄せながらも、楽しく今日まで活動してくることができました。
 これからもっと上手くなります。今後ともよろしくお願いいたします。
 (……はい、まずは時間管理ですよね。)