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WSC #070 蒼炎の人形師
[Pluto kiss]
愛情の対象が顔に集中している結果が生み出した
停滞したシーンに新風を吹き込む「顔面の造形」
2Dのアニメ絵による顔面を、違和感なく3Dのフィギュアへ置換する――'80年代初頭のガレージキット黎明期以降、多くの造形作家がこの問題に対し真摯に取り組み続けた結果が、昨今におけるキャラクターフィギュアの隆盛に繋がった旨は改めて説明する必要もないだろう。
が、じつの話、その正解値を求めるトライアルは'90年代をもって影を潜め、以降は、かつて“お面顔”(お祭りの屋台で売られているキャラクターのお面のような、立体感に乏しい顔面)と揶揄され続けてきた方法論が主流を占めるに至った決定的事実を見逃すべきではない。これは造形史的観点で眺めれば明らかな「退行」なのだが、横から眺めた際に生ずる立体感の欠如を髪の毛でごまかす手法に磨きがかかったことと、総じて造形力が高まり元画とそっくりな作品が増えたため、お面顔であることに対し疑問を抱く人が皆無に等しくなってしまったことにその理由を見いだすことができるだろう。
そうした状況下において、'13年夏のワンフェスにて颯爽とディーラーデビューを果たした“蒼炎の人形師”は、退行~停滞し続けるキャラクターフィギュアの顔面の造形に久々に新風を送り込む存在である。
その理由は、彼女の造形作品をぐるりと1周させつつ眺めてみれば一目瞭然。目周辺の彫りの深さと鼻筋の高さ、頬のふくらみと下顎のラインなどが人間の骨格をしっかりと意識させるものとなっていつつ、キャラクターデザインを極めて的確にトレースしているのだ。
さらに、額から後頭部にかけての厚さもじつに適切で、そのせいで醸し出されている「頭蓋骨がきちんと入っている感」も特筆に値するポイントである。
もっとも、その顔面の造形の秀逸さは、蒼炎の人形師にとってのウィークポイントとも直結している。「大好きなキャラクターが劇中でよい表情をした際、その表情を的確に表現したフィギュアがほしくてフィギュアを造形したくなる」というスタイルは、言ってしまえば極度の面食いとも言え、結果、これまでに手がけた造形作品はそのほとんどが胸像や半身像であるというのだ。
さらに、「好きなキャラクターに対し抱く愛情が大きすぎて、大好きなキャラクター以外を造形することにはあまり興味を示せない」という性格も、この先プロ原型師を目指す者としては不安要素と言えよう。
原型師を生業とするならばこの先の自分を少なからず変えていく必要もあるだろうが、己の手がける顔面の造形が掛け値なしにスペシャルなものであるということだけは自覚しつつ、精進し続けてほしいものである。
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text by Masahiko ASANO |
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そうえんのにんぎょうし●1987年9月17日北京生まれの北京育ち。中国で放映されていた『ドラえもん』や『花の子ルンルン』、兄たちが保有していたコミックなどを通じ、幼少期から日本のアニメや漫画に興味を抱く。中学生のときに見た『ふしぎの海のナディア』の影響から「アニメや漫画関連の仕事に就きたい」と考え、名門たる清華大学美術学院のアニメ専攻へ進学。18歳のときにフィギュア造形(『.hack//SIGN』に登場する昴の半身像)へ初挑戦し、在学中の'10年には日本のメディアから取材を受けるなど、アニメやフィギュア造形にかける愛情と熱意が人一倍際立つ存在であった。大学卒業後はフィギュアの企画制作製造会社である株式会社申華ジャパンの上海工場に勤め、いずれは日本の本社で原型師として雇用してもらうことを想定しつつ、製品開発や量産管理を担当。'12年7月に同社へ入社して来日し、'13年夏のワンフェスに“Pluto kiss”名義にて初のディーラー参加を果たす。申華ジャパンでは1年間の通常業務を経たのち、'13年より同社のグループ会社であるアルター製品の原型製作へ着手しはじめ現在へ至る。
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WSC#070プレゼンテーション作品解説 |
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カイト胸像
from ゲームを主軸としたメディアミックスプロジェクト『.hack//』
ノンスケール(全高150mm)レジンキャストキット
■ 商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/9,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/12,000円(税込)
そのモデリングネームからもわかる人にはわかるように、蒼炎の人形師は『.hack//』(ゲームを主軸としたメディアミックスプロジェクト)と、同ゲームプレイヤーの分身たるカイトの極度のファン。プロ原型師への道を歩み出しつつも、「大好きなキャラクター以外の造形にはなかなか興味が抱けない」というレベルでのキャラフェチ問題を抱える彼女が、カイトへの愛情を「これでもかっ!」とばかりに大量注入して造形されたのがプレゼンテーション作品の『カイト胸像』です。男性キャラというだけでスルーしてしまう人が多いかもしれませんが、最大の注目点は、とにもかくにも秀逸すぎる顔面の造形。昨今の均一化された「お面顔」によるフィギュア造形とは明らかに一線を画す、360度ぐるっと1周させながら眺めてもまったく破綻しない立体感に溢れる造形は、第一線で活躍しているプロの原型師にこそ凝視し驚愕してほしいポイントです。
さらに、どこか寂しげな雰囲気を醸し出す抜群の表情と、髪の毛などに見られるスピード感に溢れるシャープな造形にも着目してみてください。
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※蒼炎の人形師からのコメント |
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初めまして、Pluto kissの蒼炎の人形師と申します。このたび、『ワンダーショウケース』に選んでいただき、本当にうれしく思います。
国にいたころより、いつもインターネットでワンフェスに関する情報を見ていました。いつかは日本に行って、ディーラーとしてワンフェスに参加したく思いました。
'13年夏にこの夢が叶いました。初めて海外のイベントにに参加することができ、すごくうれしかったですが、少し緊張もしました。
今回WSCに選出されたカイト胸像と、'13年夏のワンフェスで販売させていただいたほかの作品はすべて『.hack』シリーズのキャラクターです。かなり古い作品なので、「もし誰も自分のブースに来なかったらどうする?」と不安に思っていました。とくに開場直後はほかのブースの賑やかさに比べ、自分のブースの前には誰も立ち止まりませんでした。がんばって笑顔を保っていましたが、じつは心のなかは泣きたいほど悲しかったです(笑)。
その後、地獄のような時間帯が過ぎ、徐々に自分のブースもお客さまで賑わいはじめました。同じ好みの皆さんが集まってくださり、心から感謝いたします。
そしてそのとき、WSCの担当者さまから声をかけられました。はずかしいことですが、じつはそれまでWSCについてまったく知らなかったので、その場ではどうしたらいいのか全然わかりませんでした。そのことを当日の夜、友人に話したらビックリして、WSCについて説明してくれました。自分も大いに驚きました。
その数日後、「WSCに選出したい」という連絡をいただき、せっかくのチャンスを逃したくないと思い了承させていただきました。
WSCに参加することが私の人生にどんな影響を与えるのかまだわかりませんが、貴重な体験として一生大切にしたいと思います。
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