アーティスト紹介

WSC #071 にのみやあきこ

[flalalamingo]

いわゆる「ガレージキット的造形」でありながら
クラフト系評価軸に基づくフィギュアという存在

 “イラスト描いたりフィギュア作ったり雑貨作ったり。毎日のらりくらり。”
 これは、にのみやの個人Webサイトのトップページに記載されているキャッチコピーなのだが、にのみやのことをこの上なく的確に表した一文だと思う。
 「どれだけ先鋭的な表現を盛り込むことができるか、どこまで自分自身を突き詰めていくことができるか」というスタイルが基本であるガレージキット的造形において、にのみやはこの評価軸では勝負をしていない。
 いや、本人的にはじつはそこでも勝負をしているのかもしれないのだが、彼女の造形作品からはそうしたヒリヒリとした緊張感をまったく感じないのだ。
 幼少期から絵を描くことを趣味とし、小中学校の図画工作や美術の成績は5段階評価でつねに5。高校は美術クラス、大学は美術系短期大学のグラフィックデザイン科へ進んだ実績を持つことを考えれば、一般的な人と比した際に美術的才能に長けていることはまちがいない。
 が、芸術家肌の人たちが必ず有している、作品を製作する際の爆発力や破壊力といったもの(創造性やデッサン力などもここに含まれる)が明らかに不足しており、「自分の生み出す作品は天才型の人のそれと比べるとインパクトや発想力に乏しい」と自らもそれを認める。
 だからといって秀才型的な学習能力に基づくテクニックに長けているわけでもなく、とにかく「つかみどころがない」としか言いようがないのである。
 その反面、彼女の作品からは「モノを生み出すことへのよろこび」がダダ漏れ状態にて大量に溢れ出ており、作品が醸し出している圧倒的なまでの幸福感に、それを見ている側の頬が思わず緩んでしまうのだ。
 つまりは、にのみや作品はガレージキット的造形に則ったキャラクターフィギュアであるはずなのに、言うなれば、手製ぬいぐるみやスポンジ粘土細工的な、クラフト系の味わいに溢れているということなのである。
 それゆえに、彼女の作品に対し「髪の毛の造形に繊細さが足りない」「女体の表現として脚の肉付きにはもう少しこだわるべきではないか」などといった一般的なガレージキット的造形への批評眼で眺めている限り、にのみや造形の真実には辿り着けないというわけだ。
 こんなにもわかりづらくて奇矯な才能をプレゼンテーションすること自体、『ワンダーショウケース』的には少なからずリスクを伴うとも言えるのだが、それでもやはり無視することができない―そんな希有な資質の持ち主が、にのみやあきこという存在なのである。

text by Masahiko ASANO

にのみやあきこ1991年3月6日生まれ。家族全体がマンガやゲーム好きな家庭に生まれ育ち、少女マンガ的な絵をせっせと描く少女時代を過ごす。中学1年生で『デ・ジ・キャラット』を通じアキバ系に目覚め、友人が腐女子で、しかも家が池袋に近かったため、ゲーマーズやアニメイトに出入りしつつ『テニスの王子様』などに熱中。高校(普通科だが美術に特化した美術クラス)ではいよいよ同人誌を描きはじめ、同人誌即売会でそれを販売するところまでヒートアップした生活へ至る。そうした過程でたまたまフィギュアの存在を知り、ハウツー本やインターネットを通じて得た知識にて造形へチャレンジしてみたところ、「同人誌の新刊を落とすぐらいハマってしまった」。その後、美術系短期大学のグラフィックデザイン科へ進学するも、平面の絵やデザインよりも立体や造形に心惹かれてしまったため、造形をしたいがために卒業後はフリーターの道を選択。ワンフェスへは'11年夏に一般参加、'12年冬より“flalalamingo”名義にてディーラー参加をスタートさせ、プロ原型師を目指し日々是勉強な毎日を送る。

Webサイト http://fulalala.web.fc2.com/

WSC#071プレゼンテーション作品解説

© 羽海野チカ/白泉社




© 羽海野チカ/白泉社


ひなとモモ

from コミック『3月のライオン』
1/8スケール(全高100mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/6,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/8,800円(税込)


 その「ほわわ~ん」とした造形が醸し出す緊張感のなさと、「男性視点による女性キャラ造形」とは明らかに一線を画する、女性作家ならではの、女性キャラを造形する際の独特の距離感が特徴と言える“にのみやあきこ”。WSCレーベルプロデューサー曰く、「“羽海野チカの絵柄と作者の造形資質がたまたまマッチしただけなんじゃないの!?”という言葉を投げかけられたときにそれを真正面から論破するのが難しい反面、この独特の才能をWSCに選出しないわけにはいかなかった」という異色の存在でもあります。
 プレゼンテーション作品の『ひなとモモ』(羽海野チカによるコミック『3月のライオン』に登場するキャラクターの川本ひなたと川本モモ)は、ディテールどうこうではなく、原作の雰囲気をそっくりそのまま再現した“空気感”が見どころ。原作の絵柄におけるやわらかなタッチと水彩画的な味わいを、フィギュア造形でそっくりそのまま見事に再現してみせた傑作です。ひなとモモの服の造形が醸し出す「地に足が付いた感覚」も、女性作家ならではの特性が生きたポイントと言えるでしょう。

※にのみやあきこからのコメント

 初めまして。にのみやと申します。なぜ私がこのような場に。撮影会でも「褒めどころがよくわからない」と言われたほどの私が。
 私は元々もの心ついたときから絵を描いてきた人間で、高校、短大もその道で進んできたため、あたりまえのように絵で仕事をしていくものだと考えていました。
 また、美少女フィギュアは昔見たいくつかの作品のイメージで、「なんでイラストのままでかわいいのに立体にして微妙にしちゃうの?」とむしろ好きでなかったのです(いま思うと自分に突き刺さる言葉ですが……)。
 ある日フィギュア好きの友人宅で大量の美少女フィギュアを見せてもらうと、「フィギュアがこんなにかわいいなんて!」という驚きと共に、絵と同じくらいこまかい作業が好きでやりたがりの私は「作ってみたい! 作れそう! ウワー!」とムラムラと製作意欲が湧いて、気がついたら家にあった樹脂粘土とデザインナイフをスパチュラ代わりにフィギュアっぽいものを作っていました。
 人生のほとんどを絵を描いて過ごしてきたせいか、ファンドとスパチュラで絵を描く気分で作業しています。フィギュア製作は「かわいい女の子を描きたい」「こまかい作業がしたい」というふたつが私のなかでガチっとハマったジャンルで、クラクラするほどに何よりも楽しいのです。ずっと続けてきた絵を描くことよりも楽しくて、なんとなく手応えを感じています。元よりモノ作りしか突出した能がないので、今度はコッチをしぶとく続けていくことにします。
 まぁ、製作しているともちろん楽しいことだけでなく、昔から課題やら同人やらでも付きまとってきた〆切という恐ろしいものもありますが、それに追われる苦しみさえも「作って生きてる!」なんて快感さえ覚えるような私なのです。
 語彙が少ないので稚拙な文章になりましたが、作るのが好きで好きでたまらない私が苦しみながらも楽しんで作った今回のフィギュアの何かがご覧になった方々の琴線に触れ『ワンダーショウケース』に選出されたのなら、本当にうれしく思います。